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023 | 最 近 見 た 映 画

感想覚えている内に書き留めておこう。つぶやくには文字数が足りないからマガジンに外部化(いずれも若干のネタバレがあります)。



天 空 の 蜂
誰もが怒ってる映画だった。
陸上自衛隊の超大型ヘリがその納入式で盗まれる。まぁ盗まれるっつっても、人がひょいと持ってける体積じゃなから、その式典直前に格納庫から勝手に飛び去る。泡食ったのはそのヘリの開発責任者で主人公。誰だよ式典前に勝手に飛ばしてるのは、ってそれどころではない。無人の遠隔操作で飛翔したその最新鋭ヘリになぜか、見学で一緒に来ていた自分の幼い息子が乗っているのだ。


原作は1995年の小説だから、てっきりそれを2010年代の設定に置き換え映像化したのかと思ったら、カッチリ1995年設定のまま物語は滑り出す。映画や小説のジャンルに、近未来SFと言うのがあるが本作はその逆、近過去SFだ。微妙に古い車、微妙に古いガラケー、微妙に古いモニターはPCもTVも全部ブラウン管、微妙に古いセキュリティーシステムや危機管理意識など。その中核に “原作に忠実なんだなぁ” で片付かない事象が据えられる。

それは発電所の原子炉融解の危機。原作が上梓された1995年当時は “起きるはずのない” 原発事故だったし、言ってしまえばその「まさか」に直面するのが売りで、それを食い止めんが為に奮闘する人たちの物語だ。そして「まさか」は辛くも回避され、大団円は引き寄せられる、・・が。

2016年現在の、東日本大震災と福島原子力発電所の事故後の我々にとって、この映画の厄災は「まさか」ではない。それじゃあストーリーの牽引力、娯楽性と言ってもいいけど、それが減衰すると思うかも知れないが、そうなってないのがこの映画の聡いところ。
劇中で必死に回避される大惨事は、現実の原発事故の後では逆説的な視点を兼ねる。1995年の物語は2015年に映像化する事で、東日本大震災や福島の原発事故の前日譚というコンセプトが自動的に漉き込まれる。本作の続編は現在の我々なのだ。


登場人物たちは皆怒っている。
ヘリを盗まれた上に息子を “誘拐” された主人公。そのヘリに爆薬を搭載した上強奪し、つきつけた要求が通らなければ原子炉に墜落させると迫る犯人。その原発で、市民の暮らしと安全のために邁進し、盾とならんとする運転責任者。地下茎のように犯人に肉迫する刑事。厄介事を後方から唾棄する核開発事業団の偉い人、それ以外の登場人物も皆がみなギリギリと怒っている。

・・・何に? それは実際映画を観るとまぁ色々と。本作はそのような輻輳的なスカイアクション、または飛行サスペンスだ。がんばって撮っている。
(監督:堤幸彦 2015年)
https://www.youtube.com/watch?v=EM0DiDNTJM0




ア イ ズ
和製のコワい映画が観たくて検索で引き当てた佳作。ハリウッド製のホラーのように、映像的にドキっとしたり、映像的に痛かったりコワいのではなく、シチュエーションやお話がコワい。

終盤まで、主人公の女子高校生を不安に陥れる元凶が、何なのか不明瞭で見てるこっちも不安になる。
主人公のお母さん? お父さん? 弟さん? 学校のクラスメイト? 誰がおかしくて、幽霊だか何だかはがどっから湧いたのか・・・。
それがゆっくり収束してゆく流れが地味に寒い。背筋も凍るって感じじゃないけど、見終わるとイヤぁ~な気分になるのが良い。
(監督:福田陽平 2015年)
https://www.youtube.com/watch?v=3iPGkdWrbEg




進 撃 の 巨 人  attack on titan進 撃 の 巨 人  エンドオブザワールド
どこでも酷評だった実写版「進撃の巨人」の前編後編。本当にそんな酷いのか確認してみた。

・・・うーむ。

こりゃ原作コミックやアニメのイメージを期待して見たら、心のちゃぶ台がひっくり返るわな。でも1つの映画として見るなら駄作ではないと思う。
私は、ちゃちさ=完成度の低さ、が酷評の理由かと思っていけどそうではなかった。むしろ現在も連載中の遠大なストーリーを、最小限ながらオリジナルのテイストを残しつつ、前後編とは言えよくもコンパクトに、纏めたと言うか翻案したものだと感心した。
てっきり「俺たちの戦いはこれからだ!」的に終わるのかと思ったら、ストーリーはちゃんと完結と言える領域に着地していた、驚いた。酷評した人は、そういう翻案そのものが許せないのだ、原作&アニメのファンとしては。

言っても元から無理な相談だ。まだ連載中の遠大なストーリー、しかも謎解き要素の多いそれを、忠実に実写映像化するのは。もしそれをやったらもっと多くのちゃぶ台がひっくり返る。かく言う私も原作コミックとアニメのファンだけど、これはこれで楽しめた。グロテスクで赤っぽい映像に耐性は必要になるけど。
分隊長役の石原さとみが頑張っていた。登場人物中もっとも原作コミックやアニメのテイストを体現していた。
(監督:樋口真嗣 2015年)
https://www.youtube.com/watch?v=2X0i4gnbBOA

https://www.youtube.com/watch?v=4ZGQ3j9Agps




バ ケ モ ノ の 子
監督の細田守は、細田版「千と千尋の神隠し」を撮りたかったのではないか? そんな想像がはたらいてしまう物語はこんなだ。

1人都会の陰で生きる少年は、ひょんな事からバケモノが暮らす向こう側の世界に紛れ込む。そこで一体の粗暴なバケモノと交流する。いや交流って言うか衣食住を保証される代わりに嫌々弟子になる。
主に格闘の鍛錬をするのだけど、格闘だけが重要ではないような、バケモノにとってはむしろ、弟子と言う存在そのものが重要なような・・。
でもまぁそんなデコボココンビは結成され月日は流れる。少年は若者に成長し、人としての知恵や思慮も備わり、そんな折に若者はプイと現実世界に戻ってくる。

そこからの展開が斬新だ。ずっと向こう側で暮らしてきた若者は、小学校さえ卒業していないから漢字も読めなきゃ、自治体の住民表のありかも危うい。そんなくだりが現実世界の区役所とかを舞台に事細かに描かれたり、大学受験資格で逡巡したりする。ファンタジーな世界観でありながらこのディテールは新しい。希望や勇気では普通にどうにもならないのだ(笑)。それ以後も若者は、現実世界と向こう側を行き来しながら、考える。


バケモノ役の役所広司の声は、どう聴いても役所広司の声なんだけど悪くなかった。
今でこそ内外で活躍する映画俳優だけど、以前は小劇場、まではいかないか、PARCO劇場クラスの中規模劇場でも時々演技していた。私はたまたまそのような芝居の1つを観た事があるのだけど(調べたが内容うろ覚えで合致する内容のタイトルが見つからない>< が)その時の役柄がやっぱり粗暴な性格でなかなか良かったから、そんなイメージの助けもあって楽しく見れた、聴けた。

少年の声を担当した宮崎あおいが良かった。細田の前作「おおかみこどもの雨と雪」でも声を担当したが、宮崎の声優歴は実はもっと古く長い。2003年にTVアニメシリーズの主役を担当、2006年には劇場アニメでも主演を張っている、その声の演技はもはや盤石。それらはいずれも少女役だったが、今回生意気で小憎らしい少年をのびのび快演していた。

また、少年とバケモノを見守るかのような役のリリー・フランキーが、およそアニメの声っぽくない演技で、朴訥とイイ味を出していた。プロの声優ではない起用の好例&妙演と言えそうだ。
(監督:細田守 2015年)
https://www.youtube.com/watch?v=yjzLfF9Cgg4




ワ イ ル ド・ス ピ ー ド SKY MISSION
見終わってから調べて驚いた。カラっとしたカーアクション映画だけど7作も続いていて、本作はその最新作。役者も1作目から出続けてる人がいて、物語や設定も引き継いでいる。製作陣は並々ならぬ心意気だ、執念深い。

自動車映画なのにスカイミッションて何事よ、と思って見たのだけど、なるほど無茶な事に空中で色々執り行われていた。CGも多様されてたけど、現有車両が地上を爆走する時は、泥臭い実写=実車アクションが炸裂するのは好感が持てたし、異形のターボチャージャーを搭載した、往年のアメ車が切り札的に登場するのは、お約束と言うか王道。

そんな軽さが売りのカーアクション映画なのに、結びは静かな余韻を残す。ほぼ全編、自動車による乱痴気騒ぎだったのにそれ? と思って確認したら、1作目から出続けてる主演俳優が、今作の完成を待たずに亡くなっていた(撮影中の事故ではなくプライベートでの交通事故だった)。
見終わってからだけど、劇中で語られる登場人物達の家族のような絆や友情が、そのまま製作陣が主演俳優に向けた想いや哀悼と二重写しに感じられた。前6作も見ないとダメだろうか・・。
(監督:ジェームズ・ワン 2015年)
https://www.youtube.com/watch?v=yISKeT6sDOg