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【短編小説】地上50センチの視界から見る路地裏(前編)

こちら、黒猫の望叶(ミカ)。
ご主人さまは、みーちゃんって呼ぶ。

なんでわざわざ漢字で 
名前をつけてくれているんだろ?
と、思っている。

なんで、名前を知っているかって?
ミルクを入れてもらえる皿に、
そう書いてあるんだよ。


散歩することが好き。
孤独は嫌いだけど、ひとりは嫌じゃない。

ご主人さまに
かわいがってもらいたいときもあれば、
放っておいてほしいときもある。

そのスイッチは、
いつどちらに入るか、自分でも見当がつかない。

我ながら、わがままだなあ、と思う。


最近のご主人さまは、
何やら、夢中になれることを見つけたらしい。

推し事と、執筆に勤しんでいる時期は、
だいたいこうなる。

そのおかげで、
結構自由時間が多めに取れるのだが、
寂しく思うこともあるのだよなあ。

そんな時に、必ず行く場所がある。

とっておきの場所。

ご主人さまの言葉を借りるなら、
推し場所である。


今日も気ままに、その場所へ向かう。

その場所は、路地裏の目立たないところにある。

ずーっと、人が出入りしていない場所。

実はこっそり入っている。

他の誰も知らない入口を使って。


ここでは自由だ。

「みゃあ♪」
と歌っても、迷惑にならない。

どんなに走り回っても、
怒られることはない。

今日も、わたしだけの時間を堪能していたら
外から覗き込んできる人がいた。

光が入らない部屋。

真っ暗だから、
バレていないはずだと願いつつ、
息を潜めておく。


外から覗いてきた人は、
何をするわけでもなく、
そのまま去っていった。


あ~、良かった。
心臓が飛び出るかと思ったよ。



別の日。
ふらっと散歩していた。

ご主人さまが、
何やら神妙な表情をしていたから、
少し離れておこうと思ったのだ。

いつもの場所に向かったら、
建物の中に人がいた。

看板を外している。

なんて書いてあるかはわからないけど、
ついに、誰かの場所になってしまったのか。


念の為、室内に入るのをやめておいた。

仕方なく、そのまま家に帰ると、
珍しくご主人さまがすり寄ってきた。

毛に、何やら水滴が落ちてきた。


•••泣いてるのかにゃ?


みーちゃん。
私行かないといけないところができたんだ。

本当は一緒に行きたいけれど、
どうしても連れていくのが難しい。

だけど、みーちゃんには幸せであってほしいから、
住める場所探すね。

「みゃあ」

なんて返せばいいかわからなかったけど
とりあえず、声を発しておいた。

捨てられるわけではないと思っていても
なんだかさびしい。


ご主人さまを応援したい。

だって、これまで一緒に
暮らしてきたし、
何かを決意できるということは、
すごいことだ。

これから、どうなっちゃうのかにゃあ。


なんのはなしですか
な物語。



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