祈りの雨【短編小説】
ここは、長谷寺。
諸堂のほかに、鎌倉の海や街並みが一望できる見晴台もあり、梅雨の時期に映える40種類2500株のアジサイを望むこともできる。シーズンによっては、多くの方に訪れていただける場所。
アジサイだけでなく、四季を通じて花が絶えることのないことから、「鎌倉の西方極楽浄土」と呼ばれ、花木の彩りがご来山者の心を和ませる。
わたし、和み地蔵も、ご来山者の心を和ませる役割を努めていると思っている。
今の時期の鎌倉はちょうど、アジサイがきれいだ。
曜日問わず、人人人…状態となっている。
アジサイ鑑賞をしながら、坂道を登ってくる多くのご来山者。
歩き疲れているように見える方も、わたしを見つけた途端、スマホを向け、アジサイとわたしとの2ショットを撮影してくれる。少しでも、気持ちが軽くなりますように、と祈りながら、カメラのレンズに向かって微笑んでいる。
小雨が降り続いていたある日、一人の女性がやってきた。
女性は、赤みがかったピンク色の傘を指している。
連日の雨で、気温は上がらず、肌寒い。ワンピースの上に、トレンチコートを羽織っているようだ。
カメラを構えながらも、俯きがちで、どこか落ち込んでいるように感じられる。
目が充血しているから、泣いた後なのだろうか…。
カメラを構え、アジサイが一面に咲いている斜面の写真を撮っていた。
視線を足元に移したその時、わたしの存在に気づいた様子で、こちらに向かってくる。
「見つけた〜」と言わんばかりの表情になった。
一瞬、先程より顔色が明るくなったように見える。
わたしに向かって、手を合わせてくれた後、アジサイとよく映る角度を探して、写真に収めてくれた。
ニコッとほほえまれた様子を見ると、うまく撮影ができたのかもしれない。
その後すぐに、ため息をついていた。
女性から、悲しみの空気感が漂ってくる。しばらくすると、声が聞こえてきた。
声と言っても、誰も口を開いていない。
わたしの前に来た女性のこころの声だ。
大切な人が、事故にあってしまった。
一命は取り留めたものの、
今も集中治療室にいる。
面会時間が限られていて、
常に様子を見ることはできない。
ただただ不安が募るばかりで、
家にいられなかったから、
カメラを持って、外に出た。
気づいたら、ここにいた。
気分転換のために、長谷寺まで足を運んでくれたようだ。
女性のことをよく見ると、
手に怪我をしていることがわかる。
―もしかして、助けてくれたのかな?
そう推測をしていると、こころの声が聞こえてきたた。
その大切な人とは、婚約者で、
来月に入籍と結婚式を控えていた。
自分をかばってくれたために、
こんなことに…。
自分のせいで、集中治療室での治療を余儀なくされてしまった…と責めている様子。
女性の心情に比例するかのように、傘に当たる雨音が大きくなってきた。
「自分を責める必要は、ないよ」なんて、無責任なことは言えない。
それでも、集中治療室での治療を余儀なくされている婚約者さんも、女性にこのような思いをさせることが本望ではないだろう、と思ったわたしは、こう念じ続けた。
―*―
あなたが、
あなたらしく暮らしながら、
大切な方との生活を待っていることこそが、
大切な方にとっての
大きな回復力につながるはずですよ。
―*―
それからしばらくの間、わたしは、その女性と見つめ合っている形となった。
少しずつ雨音も小さくなり、ところどころで晴れ間が見えるようになっていた。
幾分スッキリしたような表情になった女性は、歩みを進めていった。
女性を見送り、おふたりにとっての平穏としあわせな生活を祈った。
【完】
(本文:1449字)
あとがき
こんにちは。RaMです。
数あるnote記事の中から、
こちらの記事を目に留めてご覧くださり、
本当にありがとうございます😊
山根あきらさんの企画に参加させていただき、
短編小説に挑戦してみました。
雨というと、
暗いイメージをもってしまいがちですが、
雨に濡れた草花を見るのも、
また違った良さを感じられて、
好きだったりします。
社会人になって数年経った頃、
友人と日帰り旅行に行く先として
選ぶことが多かったのが、
アジサイが咲く頃の鎌倉だったので、
今回の物語の舞台にしてみました。
もちろん、日帰り旅行の目的は
アジサイを見ることなのですが、
長谷寺には、
ニッコリと微笑む和み地蔵がいるので、
ほっこりできるので、
癒されに行っていました。
実際の和み地蔵さんが、
このように訪れる方の心まで
見てくれているかは
定かではありませんが、
今回のストーリーは、
こう見守ってもらえていたら心強いな
と思いながら書いたものです。
「雨降って地固まる」という言葉もありますし、
ネガティブなことが起こる時は、
いいことの前触れだ、と思えば、
暗くなりすぎずに済むのかもしれませんよね。
山根あきらさん
どうぞ、よろしくお願いいたします✨
▼いつもステキな企画、ありがとうございます!▼
◎
最後までお読みくださり、
ありがとうございました!
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ここまでお読みいただいたあなたに、
幸せが訪れますように🍀
また次の投稿で、お会いいたしましょう。
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