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【短編小説】不思議な喫茶店に訪れる転機

〜前回までの作品は、こちらからどうぞ〜




再スタートの地で、来る日も来る日も待っていた。
いつかきっと、この街の誰かが気づいてくれるはずだ。

私が導かれた時のように。


そう思いながら過ごしていたら、気づくと3ヶ月も経過していた。

まるで、なんらスタートする前と変わらない。
コーヒーを淹れることが、上手くなったことを除いては。



そんなこの店にも、唯一来てくれる客がいる。

ただ、いつ来るか分からない。
だいぶ忙しい方のようで、ふらっと寄れる時に来る感じだ。

ここ2ヶ月間は、月のはじめに来ることが多かったように思う。


それなのに、この日だけは、違っていた。

『やあ。調子はどうだい?今日はさ〜、昨晩から会社に泊まり込んでてさ。もう寂しくて、干からびるかと思ったんだよ。それでさ〜〜〜〜(略)』

突然入ってきて、こちらの様子を聞いてきたかと思えば、息をつく暇もないほど矢継ぎ早に、自分の話を入れ込んでくる。

楽しんでいるようだから、良いことにしているが、これは正しいあいさつなのだろうか?

『いつものちょーだい。できれば軽食も!』

「いつも明るく無茶なこと言いますね…。ま、良いんですけど。あるもので、よければ。」


店には、お客さんが来ないため、基本的に作り置きしているものはない。

ほぼほぼここで生活しているようなものなので、自分が食べる用の食材だけは揃っている。

こうして作っている間も、客は、ずっと話し続けている。

ただ、仕事の話が大半で、なんのはなしか、実はよくわからないまま、相づちだけうっている。


「お待たせいたしました。本日のコーヒー☕は、ブルーマウンテンブレンドです。友人からいただいたものですが、おいしかったので、来てくれて良かったです。あとは、軽食というオーダーだったので、こちら。ハムチーズトーストです。今日は、自分が気に入っているパンを買ってきていたので、召し上がってみてください。ごゆっくり。」

『いつもありがとうね〜。うん、おいしい!』

頬張りながら、感想を言ってくれるのは、きっとやさしさだろう。

食べている間は、話しかけてこないので、この間に片付けを済ませておくことにする。


この客が、なぜ、人が来ないこの場所に喫茶店があることを知っているかというと、まさに、この物件の管理会社の社長だからである。

毎月、賃料を支払っていることもあってか、この店のことを気にかけてくれている、良い人。

たぶん、そんな人だから、社長という職務が務まるのだろうし、信頼できる部下にも出逢えるのだろうなあ。もしかすると、周りが放っておけない魅力があるのかもしれないなあ。
なんて、想像しながら、片付けていた。



こちらの片付けがちょうど終わったところで、社長から話しかけられた。

『ところで、最近いいネタあった?』

これは、社長が来る度に尋ねてくる質問だ。

「毎日誰と話すことなく、ここで過ごしてるので、特段なことはないですよ。ただひたすらに、そこの窓から人が来ないかを伺っているのですが、人通りも少ないですし。でも、生活している方の日常は垣間見えますね。想像は膨らんでいくんですけどね〜、なかなか社長に報告するようなネタはないです。」


『そういう日常を求めて、ここに来てるんじゃないか。僕が仕入れられる情報なんて限られているし、秘書から聞く話だって、しっかりまとまっているものだし。なんでもない日常こそ、面白いことは、たくさんあるんじゃないかな〜と思うんだけど』


どうやら、この場所を、日常として感じてくれているらしい。

社長の返答を聞きながら、「あっ」と、あることを思い出し、社長に聞いてみることにした。

「そういえば、1つ社長に確認したいことがあって。この場所に、黒猫が歩いてくることがあるんですが、その子について、なにか知ってません?」


これを聞いた瞬間、社長が驚いたように見えた。

何か変なことでも聞いたのだろうか?と思ったほどだ。


『知ってるよ。実は、その話をしたくて、今日来たんだよね』

なるほど。だからいつもと違う感じがしたのか。
少し構えて、社長の話に耳を傾けることにした。

『その黒猫ちゃん、このあたりに住んでる方が飼っているこで、望叶(ミカ)という名前らしいんだよ。飼い主は、みーちゃんって呼んでるんだって。それで、その飼い主の方、来月下旬から、海外赴任が決まったらしくて。猫ちゃんを連れて行くことも考えたみたいなんだけど、いろいろ難しいらしいんだ。だから、猫ちゃんとのお別れも覚悟してるんだって。』


『それで、次の飼い主さんを探している、と。ある日、飼い主さんが黒猫ちゃんのお散歩にこっそり尾行してみたらしいんだけど、そこで見たのが、ここの入口でマスターと休憩している姿だった。誰かわからない人や場所に預けるより、黒猫ちゃんを大事にしてくれる方に、託したい。そのこの幸せを願って、ここで暮らさせて欲しい、ということで、マスターにお願いに来たんだよ』


「ん〜、わかったような、わからないような。簡潔に言うと、ここに引き取ってほしいということですかね?」

『まあ、そんなところかな。なんで僕のところに連絡が?って思ってる顔をしているね。この店、看板もこっそりしてるし、ぱっと見て読めないし、連絡先も公開していないでしょう?地図アプリのストリートビューで出てきた写真の中に、ここの貸し物件の案内があって、そこで調べて、連絡くれたんだって。』

「なるほどです。でも、海外赴任ってことは、いつかは戻ってくるということなんでしょう?」

『そこも聞いたけど、その時の黒猫ちゃんの様子を見て決めるって。情がわかないわけではないし、自分との思い出もあるけれど、今回のお別れは、自分の都合だから、その時の黒猫ちゃんの人生まで、自分都合にはできない、って言ってたよ。』

「そうですか。」


『ま、マスターに任せるよ。その方の連絡先渡すから。今、海外渡航の準備をしていて、割と連絡取れるって言ってた。でも、来月上旬には、この街を出てしまうから、できれば1週間以内に連絡が欲しいってさ。』


「はあ。」

『これもご縁ってことでさ、引き取ってみたらどうかな〜と、僕は思うけどね。きっと楽しくなるよ、日常が。じゃあ、これ今日のお代ね!ごちそうさま〜』

そう言って、社長は、店から出ていった。

お代は、いつも、封筒に入れて置いて帰るのが定番になっている。

たいてい、設定価格より多めに置いていってくれるのだが、今回は、かなり格別らしい。

千円札が3枚と、飼い主の連絡先が書かれたメモが入っていた。


そこまでされたら、放っておけなくなってしまった。

もしかすると、この飼い主さんと社長に何らかの関係があるのかもしれないが、今は、そこを気に留めている時間はなさそうだ。



客足もないから、早くに店をしめ、黒猫の飼い主に連絡を試みた。

どうやら連絡を待っていたらしく、2コール目で電話はつながった。

簡単に、社長から話があったことを伝えると、今から行ってもいいか?と尋ねられた。

もちろん、特に断る理由もない。

「いつでもどうぞ」と答えた。


30分後には、黒猫を連れてくるらしい。

すぐに引き取るのではなく、店の中に入れてみて、様子を見るために来るようだ。


こうして、思いがけない形で、黒猫と再会を果たすことになったのだった。








こんにちは。RaMです。

不思議な喫茶店シリーズの続編を
公開いたしました。

お楽しみいただけたでしょうか?

このお話は、構想を練った当初から、
なんのはなしかわからない物語ですので、
読んでいただいた結果、
得るものがなくても
どうか怒らないでください〜。

さて、次回の作品から
いよいよ黒猫ちゃんの登場です✨

実はキーにしたいと思って、
前回の作品から、こっそりと忍ばせてきた
黒猫ちゃんです。



今回も、わたしの想像の中で
キャラクター設定をさせていただいております。


そして、勝手に(自由に)
イメージを膨らませていただいております。

あくまで、わたしの中の世界観では、
こういう方々に見受けられます、
というお話ですので、どうか悪しからず、
受け取っていただけますと幸いです。


【イメージをいただいたクリエイター様】

いつもお世話になっています。
本当に、ありがとうございます✨

感謝の気持ち💐と、
勝手に想像してすみません💦という
謝罪の気持ちもこめて。

最近読んだ中から、
推したい記事と合わせて
ご紹介させてください🍀


マスター
コニシ木の子さま

これまでの作品でも、公言しておりますので、
わたしの創作作品を読んだことがある方は、
おわかりかと思います。

鎌倉の紫陽花、いいですよね。
今回も、回収よろしくお願いします✨


管理会社の社長さん
蒼 広樹さま

蒼さんは、他の企画で既に社長さんを
されているので、
管理会社の社長さんを考えたときに
すぐにイメージしたのが、蒼さんでした。

突然登場させてしまって、
失礼いたしました。
勝手に登場していただいておりますが、
きっと、お許しくださるはず…🥹笑

ひとりごと、興味深く読ませていただきました。
ダダ漏れしちゃう時もありますよねぇ。
名前タグ企画、協力させていただきます✨


黒猫の飼い主:??


黒猫:??



最後までお読みいただき、
ありがとうございました!

スキ・コメント・フォローなどいただけると、
大変励みになります。


ここまでお読みいただいたあなたに、
幸せが訪れますように🍀


また次の投稿で、お会いいたしましょう。



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