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【インサイトコラム】 定性調査の分析に必要なのは多様な価値観を持つこと

定性調査について学ぼうとして本を探すと気づくことがあります。それは定量調査に比べて圧倒的に出版されている本の数が少ないことと、数少ない解説本をみても定性情報を集めるところまでは詳細に書いてある一方で、分析の箇所についてはあまり詳しく書かれていないことです。こういう目的であればこういう調査手法がふさわしいとか、人に質問するにはこういう順番だとバイアスがかからない、話を盛り上げていくにはこういうスキルが必要、というような定性情報の収集には大体の正解があり、それに従ったほうがより正確な情報が得られます。ところが定性情報の分析は正解がなく、また分析アプローチも様々あるため、冒頭の現象が起こっているのではないかと考えています。それではなぜ定性情報の分析には明確な正解がなく、分析アプローチが多様化しているのでしょうか。

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様々なシーンで定性調査を行いますが、やはり多いのは商品やサービス開発の上流で活用されることが多いと思います。例えば新商品のコンセプトを作るためのターゲットの観察であったり、サービスリニューアルの方向性を決めるためのユーザーインタビューであったりです。その目的は仮説構築や新しいアイディアの発想ですが、調査はあくまでも事実の収集で最終的に結論を出すのは分析者ということになります。たまにインタビューの参加者にアイディアを聞きたいというお話をいただくこともありますが、インタビュー参加者はあくまでもいち生活者なので、自分がどのような商品が欲しいかという質問に対してはあまり明確な答えは持っていません。

定性情報の分析を難しくしている理由として、調査結果から直接的に答えを導きだすことが難しいということがあります。例えば定量調査を考えると、100人中60人が「買いたい」と回答すれば、だれの目にも60%の購入意向者がいるということは明らかです。一方、定性調査においては、例えばグループインタビューの6人の参加者のうち何人が「買いたい」と答えたかを量的に表現することはナンセンスで、「買いたい」といった人の理由、「買いたくない」といった人の理由が重要になってきます。さらに、単にその理由をまとめるだけでは表面的な分析となってしまうので、本来はその人の生活背景や価値観とどのように購入意向がつながっているかといった分析を行わなければいけません。これは調査の対象者自身も普段意識していないことや気づいていないことなので、対象者の口から出てくることはなく、分析者の頭の中で情報を紡ぎ合わせてそこから考えられる価値観やニーズ、ウォンツを導き出さないといけません。

そして、このような解釈には正解がなく、分析する側のクリエイティビティにかかっています。つまり同じ消費者インタビューを見ても、そこから得られるファインディングスは解釈する人によって異なり、特に分析者のバックグラウンドや知識量、経験量によって異なります。例えば、ある20代の未婚女性が「最近はファッションじゃなくてメイクにお金を使っている」という発言をしたとき、ファッション系の会社の人は「だから最近は新しいブランドを出しても売れないのかもしれない」という解釈をするかもしれないですし、他方化粧品会社の人は「20代の親世代はバブル世代なので、親子で化粧品を共有したり、親が結構高いものを買ってくれるかもしれない」「いわゆる自撮り世代のインスタ映えという観点では、ファッションではなく顔をいかにきれいに見せるかのほうが関心が高いかもしれない」と解釈するかもしれません。こういう解釈の違いはその人のバックグランドや知識・経験からくるもので、こちらが正解であちらが不正解だと線引きをすることはなかなかできません。調査の中で直接答えが得られず、その答えの出し方も人によって異なるため、定性情報の分析方法は形式知化しにくいのではないでしょうか。

それでは定性調査を志す者はどうすればいいかということですが、多面的な発想ができるように様々な視点で物事を見られるようにしておくこと、新たな発想ができるように日ごろから飛躍した発想ができるように訓練しておくことが大事だと思います。しかしながらこの多面的な発想や発想の飛躍する力は、日常の業務に求められる、仕事のルールやスケジュールを守ること等とは正反対の頭の使い方でとても難しいことです。その難しさを乗り越えるためには、様々な価値観を持っている人とコミュニケーションをとることが大事だと考えています。そして、人と話したときに生じた共感や違和感を大切にすることをお勧めします。共感は自分と似たような考えや価値観に対して抱き、違和感は自分の考えとは異なるときに生まれます。特に違和感を覚えたときが重要で、相手の考えを否定するのではなく、なぜそう思うのかというその人なりの考えを理解することで、その人の視点を自分の中に取り込むことができると今までにはない新しい発想が生まれるかもしれません。答えは常に自分の中にしかないのです。


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