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最近の記事

【伝説の名作】真木武志『ヴィーナスの命題』考察・解説

・前書き 真木武志『ヴィーナスの命題』は、いわゆる伝説の名作です。  伝説というのは、作者がいわゆる商業作家ではなく、この1冊しか出版していないからです。  佳多山大地『新本格ミステリを識るための100冊』にも"「一発当てて名を刻む」"という標題の10選で挙げられています。  ですが、読者と作品にとっては、作者の帰趨などどうでもいいでしょう。  作者名で判断するのは、ただのブランド信仰です。  そもそも多くの読者にとっては、"「一発当てて名を刻む」"で挙げられたうちの1冊の

    • 『『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬?』の誤謬

      ・前書 以前、書いた『『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬(「『反逆の神話』の誤謬」補遺)』という記事について、くちなし氏から批判記事をいただきました(『『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬? 』)  本書については、一般書であり、簡単に誤りを指摘しただけですが、くちなし氏はどうしても擁護したかったようです。  残念ながら、くちなし氏の擁護は、ジョセフ・ヒースの主張そのものに関するものではなく、主張の意図を説明するもので、説得力はありませんでした。  新興宗教

      • ジェイソン・ブレナン著『アゲインスト・デモクラシー』要約

        ○前書き 進歩派を自称する人々のあいだで、選挙のたびに投票を呼びかけることが流行りです。  ですが、ジェイソン・ブレナン著『アゲインスト・デモクラシー』によれば、投票率が上がることは、かえって社会の進歩を害するそうです。  普通選挙に反対するということは、かなり突飛に聞こえます。  ですが、ブレナンは正統的な政治学者で、その主張は慎重になされています。  事実、本書はブレグジットとトランプの大統領当選の前に上梓されていて、普通選挙の失敗を予見していました。  ブレナンはブ

        • シャニマスWEB4コマ漫画・第414話 「謎の状況」解説

          答:「虹」 樹里:Balloon(風船) 夏葉:Broccoli(ブロッコリー) 果穂:Bream(鯛) 千代子:Bowl(鉢) 凛世:Bear(熊) 2字目を縦読みすると「arroe」。 「arro-」から成立する単語は「arrow(弓)」のみ。 「bowl」に「bow(弓)」が含まれているから、折衷的に横読みしていいとする。 凛世の「bear(熊)」は正確には「wood carved bear」。 上述の法則に従い、「carved bear」から「B」を除く。 「c

        【伝説の名作】真木武志『ヴィーナスの命題』考察・解説

          髙橋優「TVアニメ『ラブライブ!スーパースター!!』が曝け出す対立のメルトダウン:「沼地」のスクールアイドル・序論」へのコメント

           髙橋優「TVアニメ『ラブライブ!スーパースター!!』が曝け出す対立のメルトダウン:「沼地」のスクールアイドル・序論」へのコメント。  以前、コメント欄に投稿したものの転記。  元記事はいわゆる「アニメ批評」の知的怠惰の典型です。  安直な二項対立の設定。その一方を顕揚する安易な結論。安直な関連文献の渉猟。その有無が論述に影響しない、安易な衒学趣味。  いわゆる「アニメ批評」は、主にこの4項から構成されています。  せめて他山の石となるよう、ここに当時のコメントを転記してお

          髙橋優「TVアニメ『ラブライブ!スーパースター!!』が曝け出す対立のメルトダウン:「沼地」のスクールアイドル・序論」へのコメント

          蓮實重彦・金井美恵子対談「反動装置としての文学」抜粋

           蓮實重彦の対談集『魂の唯物論的な擁護のために』に、金井美恵子との対談「反動装置としての文学」(『文藝』1993年春季号)が収録されています。  毒舌家同士の対談だけに、かなり笑えます。  だいたい、開幕が次の応酬というだけで爆笑です。

          蓮實重彦・金井美恵子対談「反動装置としての文学」抜粋

          『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬(「『反逆の神話』の誤謬」補遺)

           「『反逆の神話』の誤謬」補遺。  ヒースは『反逆の神話』と『啓蒙思想2.0』という名著を上梓している。だが、残る一般書である『資本主義が嫌いな人のための経済学』は推奨できない。  経済学の入門書だが、初歩的すぎ、内容が乏しい。  しかも、多少とも専門化すると誤りを犯す。  わざわざ誤謬を指摘するほどの価値がない。「『反逆の神話』の誤謬」の補遺として付記する。  "存在しない西洋の消費者向けのコーヒー豆栽培に使われた土地と労働力は、本当に必要とされているもの、例えば食糧(

          『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬(「『反逆の神話』の誤謬」補遺)

          『反逆の神話』の誤謬

           ジョセフ・ヒース、アンドルー・ポーター著『反逆の神話』は、いわゆる文化左翼の欺瞞を剔抉した、古典的名著だ。  だが、論旨を明確にするためだろう、明らかな詭弁と過誤も見られる。  本書をより精読するため、以下、指摘したい。 ・経済学について 預金の信用創造機能を無視している(x=S(1-r)/r x:信用創造額 S:預金額 r:預金準備率)。さらに、預金すれば信用乗数の分、通貨供給量が加増する。  無論、この現象は技術開発への投資に対する期待が内在している。  実際、同書で

          『反逆の神話』の誤謬

          ヤン・エルスター『酸っぱい葡萄』要約(with『ちいかわ』)

           適応的選好形成という概念があります。  提唱したのはヤン・エルスター著『酸っぱい葡萄』(玉手慎太郎訳)です。  適応的選好形成は、要するに「あなたの欲求は本当にあなたの欲求ですか?」と問うものです。  きわめて核心的な概念です。ですが、理解も難しいです。  なので、例としてちいかわを引きます。  エルスターの核心を突くところは、『社会科学の道具箱』でも「大人が子供のプレゼントに感動するのは、子供が大人を感動させようとしたからではなく、大人を喜ばせようとプレゼントを贈ったか

          ヤン・エルスター『酸っぱい葡萄』要約(with『ちいかわ』)

          新自由主義と陰謀論

          ・陰謀論としての新自由主義  良記事『「新自由主義」批判がグダグダになりがちな理由(ジョセフ・ヒース論文「批判理論が陰謀論になるとき」メモ)』で、陰謀論としての「新自由主義」批判が話題になった。  帰無仮説として退けるべき「新自由主義」が仮定されがちだということだ。  現在、「新自由主義」がマジック・タームと化していることは疑いえない。  だが、新自由主義という作業仮説を捨てることもできない。  第1に、歴史上、新自由主義という政見と政策パッケージが客観的に存在したからだ

          新自由主義と陰謀論

          聖なるマンガ――『ルリドラゴン』『チェンソーマン』

           さきの10月に眞藤雅興『ルリドラゴン』の単行本が刊行されました。  本作は今年『週刊少年ジャンプ』で連載され、残念ながら休載したものです。  明確に「良い」漫画であるにもかかわらず、ストーリーは平板で、シナリオ、演出ともに抑制的です。そのため、その「良さ」はあまり言語化されてきませんでした。  強いて言えば、藤本タツキにスタイルが似ているというくらいです。  もちろん、ルリがかわいい、ルリの母親が性的に魅力的だ、というくらいのことは言われましたが、それが本作の「良さ」の本質

          聖なるマンガ――『ルリドラゴン』『チェンソーマン』

          梨著『かわいそ笑』【考察・完全解説】

           梨著『かわいそ笑』の考察・完全解説です。  『かわいそ笑』のプロットは複雑です。作中作中作の3層構造が頻出します。ですので、本稿はできるかぎり簡潔にまとめます。  そのため、既読者のみを対象とします。  なお、先行研究に『梨著 かわいそ笑 に隠された謎を徹底考察』があります。  一部、冗長と脱落があるように思いましたので、本稿の結論の後にあわせて指摘します。 ○方法 本書を整理するために必要なのは、各物語のメタデータ=創作者を特定することです。  身元不明の創作者が複

          梨著『かわいそ笑』【考察・完全解説】

          アイン・ランド『水源』を読んだら、ハリーがレイブンクローに組み分けされた《ハリー・ポッター》だった。

           アイン・ランドの『水源』を読みました。  アイン・ランドはリバタリアンに信奉者が多いことで悪名高いです。山形浩生がユーモラスな書評で紹介してもいます。  私もその存在を知りつつ、そのようなものとして、長らく等閑視してきました。  ですが、名著であるヴァンス著『ヒルビリー・エレジー』に、アイン・ランドの名前が出てきました。本書はルポルタージュで、著者の自伝でもあります。著者が大学時代に出会った才色兼備の恋人に、「君はまるでアイン・ランドの小説のヒロインだ。ただし、性格も良い

          アイン・ランド『水源』を読んだら、ハリーがレイブンクローに組み分けされた《ハリー・ポッター》だった。

          ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0』要約

           現代は反知性主義が席巻しています。これにつき、政治ドキュメンタリーと政治評論、エッセーが数多く出版されています。また、人間の不合理性に関する、認知科学と行動経済学のポピュラー・サイエンスも数多く出版されています。  これらを概括し、現代の啓蒙思想を謳い、合理主義を称揚したところで、スティーブン・ピンカーのような大衆蔑視に留まるように思えます。  しかし、ヒース『啓蒙思想2.0』は、知能に関する再定義を行い、また、その知能の政治における必要性を説き、かなり実践的です。  一方

          ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0』要約

          クレメンス・J・ゼッツ著『インディゴ』【考察・解説】

           クレメンス・J・ゼッツの『インディゴ』を読みました。  非常に面白かったです。  作品はおおむね『ロリータ』(信頼できない語り手による犯罪小説)と『青白い炎』(解決編のない推理小説)と『ベンドシニスター』(フィクションについてのフィクション)を足して3で割ったようなものでした。  こうした知的でスリリングな本の最初期の読者となれることを、嬉しく思います。  残念なことといえば、みずから調査研究する労をとらなければ、作品の仕掛けが分からないことくらいです。  仕方ないので、『

          クレメンス・J・ゼッツ著『インディゴ』【考察・解説】

          ポール・シュレイダー『聖なる映画 小津/ブレッソン/ドライヤー』要約

           『東京物語』や『スリ』、あるいは『ラルジャン』はなぜ素晴らしいのでしょう。  ひとは小津安二郎の後期作品や、寡作であるロベール・ブレッソンの全作を何度も見ます。  これらの映画の良さを言語化しようとすると、「テンポがいい」や「感情移入できる」といった紋切型の評価が愚にもつかないことが分かります。  一方で、印象批評や規範評価も愚劣です。そうした評価に頼る「芸術映画」は「娯楽映画」よりはるかに悪いです。  ポール・シュレイダーの『聖なる映画』は、この普遍的な評価基準を言語化し

          ポール・シュレイダー『聖なる映画 小津/ブレッソン/ドライヤー』要約