ジェイソン・ブレナン著『アゲインスト・デモクラシー』要約


○前書き

 進歩派を自称する人々のあいだで、選挙のたびに投票を呼びかけることが流行りです。
 ですが、ジェイソン・ブレナン著『アゲインスト・デモクラシー』によれば、投票率が上がることは、かえって社会の進歩を害するそうです。

 普通選挙に反対するということは、かなり突飛に聞こえます。
 ですが、ブレナンは正統的な政治学者で、その主張は慎重になされています。
 事実、本書はブレグジットとトランプの大統領当選の前に上梓されていて、普通選挙の失敗を予見していました。
 ブレナンはブレグジットとトランプの大統領当選について、「本書の内容にはなにも影響しない。変わったのは、読者が真剣になったことだけだ」と述べています。

 また、最近、イスラエルとパレスチナ間で紛争が発生しましたが、これはイスラエルで極右政党が政権をとったことが主因です。

 とはいえ、じつは、本書は普通選挙の欠陥を指摘するだけで、普通選挙の全廃を主張しているわけではありません。
 換言すれば、民主主義に自由主義による制限を課す必要を主張しているだけです。
 つまり、古典的で穏当な主張だといえます。

 少なくとも、選挙のたびに投票を呼びかけるだけで、社会への責任を果たしたことにはならないと理解するためだけでも、本書を読む価値はあるでしょう。

○二〇一七年のペーパーバック版への序文

p.Ⅱ
・2016年はデモクラシー批判が確証された。
・ブレグジットの国民投票に際して、イギリス国民は重要な事実に関して体系的に誤解。
 EUからの移民の人口比について、離脱派は20%、残留派は10%と見積もる。実際は5%。
 離脱派も残留派も、移民への児童手当を40-100倍多く見積もる。EUからの外国投資を大幅に低く、中国からの外国投資を大幅に高く見積もる。
・アメリカ大統領選挙で、左右両派、トランプもサンダースも保護主義者で反移民論者だった。

p.Ⅴ
・筆者はデモクラシーには批判的だが、好意的。『自由に関するオックスフォード・ハンドブック』に寄稿した「デモクラシーと自由(Democracy and Freedom)」では、デモクラシーと多くの重要性の正の相関を示す。しかも、ただの相関関係でなく因果関係。経済的・市民的諸自由、経済的豊かさ。

p.Ⅷ
・"二〇〇九年に拙稿「投票所を汚す」が公刊されてからというもの、私は「投票へ行こう! みんなの投票を考慮しよう!」という真言は危険だと論じてきた。ほとんどの市民は投票を通じて、私たちにとって何一つ望ましいことをやってくれない。みんなに投票を呼び掛けることは、みんなにゴミのポイ捨てを呼び掛けるようなものだ。"(p.Ⅷ)

p.Ⅹ
・筆者は投票の支持者によく質問をする。あなたが投票を呼びかける人々が、トランプや、社会支出、教育支出の削減、麻薬戦争の増加を支持する政治家に投票するとしても、やはり投票を呼びかけるか。その全員が「それは勘弁」と答える。つまり、投票するかでなく、どう投票するかを問題にしている。

○序文と謝辞

p.ⅩⅤ
・デモクラシー理論は、理想的な条件で、象徴性にもとづいてデモクラシーを支持している。だが、政治はポエムではないし、理想的条件で人々がなりたいのはアナーキストであって民主主義者ではない。

p.ⅩⅤ
・デモクラシー支持の哲学者、政治学者は、政治が人々をひとつにし、教育し、文明化し、公の友人同士にするという。だが、実際には人々を分断し、無気力にし、堕落させ、公の敵同士にする。

○第一章 ホビットとフーリガン

p.2
・ジョン・スチュアート・ミルは最善の結果を生む統治制度を導入すべきだと言った。
 ミルは政治に関与するうことで人々がさらに賢くなり、共通善に配慮し、教養を備え、高潔になると期待した。工場労働者に政治について考えさせることは、魚に海の外に世界があることを発見させるようなことだと考えた。
 ミルは科学的思考の持主だった。当時、代議制の国は少数。それらの国は選挙権を制限、少数のエリートにしか投票権を与えていなかった。ミルの主張を検証するのに必要なエビデンスはなかった。現在はある。

p.4
・本来、理想的な状況は、人々が政治を不要としていること。専門的にいえば、協働的アナキズムであること。

p.8
・市民の3類型。ホビット、フーリガン、ヴァルカン。
 ホビット:政治について無関心で無知。
 フーリガン:政治的部族主義。
 ヴァルカン:政治について知識と関心があり、科学的思考、合理的思考をする。
・過激さ、穏健さは無関係。中道派のフーリガン、マルクス主義急進派、リバタリアン的アナキストのヴァルカンもありうる。
・ミルは市民の政治参加、代議政体における政治的熟議と参加によって、ホビットがヴァルカンに変身すると期待した。
 シュンペーターはホビットがフーリガンになると考えた。

p.10
・デモクラシー至上主義。
・デモクラシーの価値は以下の3つ。
 1. 認識的・道具的:帰結主義。
 2. 卓越的:市民の啓蒙。
 3. 内在的。
 少なくとも、1、2は誤り。
・・政治参加は人々にとって有害。まず無益。人々を堕落させ、分断する。
・・市民は選挙権も被選挙権も基本的権利としてもたない。いかなる政治的権力も正当化される必要がある。選挙権は他の市民的諸権利と同様ではない。
・・デモクラシーは内在的に正しいとはいえない。無制限・平等な普通選挙権は道徳的に問題がある。

p.12
・現在は、リベラル・デモクラシーの国々が最善。だが、それはデモクラシーが理想的なシステム、最善の実現可能なシステムであることを意味しない。
 筆者はデモクラシーより良い選択肢があると説得するつもりはない。だが、条件付きの主張を擁護するつもりだ。つまり、より良い選択肢があると判明したならば、そちらを選択すべきだという主張だ。
 これは弱い主張のように聞こえるが、デモクラシー理論の論陣ではラディカルなものになる。なぜなら、これすら人々と政治哲学者は否定するからだ。彼らは非民主的な選択肢のほうがより良いと判明しても、デモクラシーを実施すべきだと考えている。

p.13
・愚行権はデモクラシーには当てはまらない。選挙民は個人と同じではなく、一部の人々は他者に自らの意思決定を押しつけている。

p.16
・デモクラシーの価値づけは道具主義と手続き主義がある。
 純粋手続き主義は、意思決定の結果を評価する独立した道徳的基準はないと考える。つまり、独立した道徳的真理は存在するが、意思決定をどう行うかのみに関係し、何を決めるかには関係ないと考える。これは馬鹿げている。

p.23
・エピストクラシーの形態。
 制限選挙制
 複数投票制
 参政権くじ引き制
 エピストクラティックな拒否権
 加重投票・疑似神託

p.29
・エピストクラシーは権威主義ではない。むしろ、反権威主義だ。
 なぜなら、エピストクラシーは一部の市民が不道徳、無知、無能なとき、政治的権威を認めないことを正当化するからだ。
 政治的不平等は誤った排除ではなく、誤った包摂だ。

 エピストクラシーは政治的権力を正当化するものがあるとして、それが何かという問いは開かれたものにする。

○第二章 無知で、非合理で、誤った知識を有するナショナリスト

p.38
・普通の人は道を渡るとき、左右を確認し、道を渡れるか合理的に判断するインセンティブがある。
 投票のインセンティブは小さく、無知と非合理は罰せられない。そして、結果は個人の投票の集合で決まる。

p.41
・ソミン『民主主義と政治的無知』
・投票者の35%が完全に無知。非投票者はより無知なはず。

p.41
・2004年のアメリカ大統領選挙の直前に、アメリカ市民の70%はメディケアに処方箋給付を追加したことを知らなかった。リンドン・ジョンソン以来、最大規模の給付プログラムだった。
・2010年の中間選挙のとき、不良資産救済プログラムが成立したのがオバマ政権でなくブッシュ政権だったことを知っていたのは、投票者の34%。連邦政府予算の裁量的支出で最大項目が軍事費だということを知っていたのは、39%。
・等々。
・要するに、投票者は現在の大統領が誰かということくらいしか知らない。

p.43
・非投票者はより無知。
 政治的質問に、投票者は12問中7.2問正答。非投票者は4.9問。下院で過半数を占めるのが共和党だと知っているのは、非投票者の22%。
・質問調査では選択肢式のため、実際の政治的知識ははるかに無知なはず。

p.43
・カプラン『選挙の経済学』
・アメリカ人の1/4は独立戦争の相手国を知らない。
 アメリカ人の大多数は重商主義を信じている。
 アメリカ人の大多数は統治機構上の三権が何か知らない。
 アメリカ人の2/3は共産主義のスローガンを合衆国憲法と誤認。

p.48
・投票者は現職の適否だけ判断できればいいという主張は誤り。
・2012年の選挙期間中、アメリカ人の大半は、前年に経済が縮小したのでなく成長したことを知らなかった。

p.49
・合理的無知。情報取得のコストが情報取得から生じる便益を上回るとき、情報取得しない。
・自分の1票が当否を決めることより、宝くじに連続数回当選する確率のほうが高い。
・大統領選挙なら、さらにスイング・ステートに住んでいて、主要政党に投票しなければならない。

p.53
・知識量は不平等に分布。
・1992年の全米選挙調査で、民主党と共和党のどちらが保守的か正答したのは、成績下位1/4の12%。
 同様の質問も正答率20%以下。
 成績上位1/4は正答率90%以上。

p.53
・Althaus(アルトハウス)『Collective Preferences in Democratic Politics』
・政治的知識と経済リテラシーは不平等に分布。
 大学学位取得と正の相関。高卒未満と負の相関。
 所得の上位半分と正の相関。下位半分と負の相関。
 所得の上位1/4と強い正の相関。下位1/4と強い負の相関。
 西部在住と正の相関。南部在住と負の相関。
 共和党・共和党寄りと正の相関。民主党・無党派寄りと負の相関。
 35-54歳と正の相関。他の年齢層と負の相関。
 黒人と負の相関。女性と強い負の相関。

p.54
・Gilems(ギレンズ)『Affluence and Influence』
・貧しい民主党支持層は、
 2003年のイラク侵攻を強く賛成。
 愛国者法、市民的自由の侵害、拷問、保護主義、中絶の権利・産児制限手段へのアクセスの規制を強く支持。
 同性愛に不寛容、同性愛者の権利に反対。

・豊かな民主党支持層は、
 イラク侵攻、拷問等に反対。
 市民的諸自由、自由貿易、中絶の権利、産児制限手段へのアクセス、同性愛者の権利に賛成。

p.54
・アルトハウス(前掲)
・知識の乏しい市民と知識の豊かな市民は、体系的に異なる政策選好をもつ。人種、所得、ジェンダーその他の人口統計的要因の補正後。
 知識が豊かなほど、より小さい経済介入・統制、自由貿易、中絶権、財政規律を好む。犯罪に対し懲罰的でない措置を取ること、軍事政策において強硬派的でないことを好む。積極的差別是正措置を受容。公立学校での神への祈り、法律への道徳的態度を支持しない。
 知識が乏しいほど、保護主義、中絶規制、放漫財政、犯罪に対する過酷な懲罰、強硬派的な軍事介入を好む。

p.59
・政治的非合理性。認知バイアス。
 バイアスがかかり、党派的で、動機づけのもとで政治的情報を処理する。
 ホビットも政治に関心をもてば、ヴァルカンでなくフーリガンになる。

p.61
・Westen『The Political Brain』、Westen,et『The Neural Basis of Motivated Reasoning』
・セレブが弁明する映像を見せて、支持政党を示すと、共和党支持者・民主党支持者とも、自身の党派では弁明を肯定、他方の党派では否定。
 他方の党派のメンバーを非難するときと、自分の党派のメンバーに不利なエビデンスを否定したとき、fMRIによると快楽中枢は活発化。

p.62
・政治的部族主義
・ヘンリ・タジフェルの古典的実験。

p.63
・Cohen(コーエン)『Party over Policy』
・社会福祉政策の対照的なバージョンについて、民主党・共和党の政策だと説明すると、政策の内容とは無関係に、自分の党派のラベルの政策を支持。

p.65
・投票者の多くは無党派層を自認。だが、自称無所属の投票者は、実際にはつねに同じ政党に投票。(Noel『Ten Things Political Scientises Know That You Don't』)

p.66
・Mutz(マッツ)『Hearing The Other Side』
・政治的に活発な市民は強い意見をもつが、異なる意見をもつ市民とはめったに交流せず、対立する見解の根拠を説明できない。
 「党派横断的な政治的露出」:反対の観点に晒される、反対の見解をもつ人々と対話する。
 反対の見解をもつ人々との熟議により、政治について両義的・無関心な態度になり、政治参加は減る。
 投票率、政治的活動の数は減少。投票を決める時間が長くなる。
 活発に政治参加する市民は、熟議に関わらず、党派横断的な政治的議論を持とうともしない傾向にある。

p.66
・複数の政治的イシューの諸信念はクラスター化される傾向にある。
 個々のイシューは無関係。
 ある党派(たとえば民主党支持者)は真理を見つけることに優れていて、信念はすべて真、対立する党派はランダムに分散した異なる信念をもつ(筆者の同僚の研究者たちはそう言う)。
 アルトハウス(前掲)によれば、知識の獲得によって、民主党・共和党のどちらとも中立的になる。

p.69
・政治における認知バイアス
 確証バイアス
 反証バイアス
・・計算問題で、数学適性スコアが高い者ほど、リベラル派、保守派に関係なく好成績を出す。だが、データが銃規制の効果になると、リベラル派も保守派も自分の信念を裏付けるように誤答。しかも、数学適性スコアが高い者ほどバイアスがかかる。(Kahan,et『Motivated Numeracy and Enlightened Slf-Government』)
 利用可能性バイアス
 情動感染と事前態度効果
 フレーミング効果
 同調圧力と権威

p.77
・合理的非合理性。認識的に非合理的なことが、道具的に合理的なことがある。
 神権国家の信念には順応したほうがいい。ペニー株を買うこと、クリスチャン・サイエンスに入信することには、認識的に合理的であるインセンティブがある。だが、政治にはない。

p.79
・あらゆる経験的研究が、投票者は利己的に投票していないことを示す。
・投票者はナショナリスト的で向社会的(ソシオトロピック)。つまり、自己利益ではなく、(自分が理解する)国益に投票。
・利己的な人間はそもそも投票しない。

○第三章 政治参加は堕落をもたらす

p.92
・教育説
:政治参加は他者の利害関心に広い視野をもたせ、共通善を探究させる。よって、政治参加は市民の徳を向上させ、知識を増やす。
・ミル、トクヴィル。

p.97
・Birch(バーチ)『Full Participation』
:義務投票制のサーヴェイ
・義務投票制は投票者の知識を向上させない。
 義務投票制は政治家にコンタクトをとる性向、他者と協力する性向、選挙活動に参加する性向に影響を与えない。
・Lever(レーバー)『Compulsory Voting』
:同上
・義務投票制は政治的知識、利害関心、選挙結果に影響を与えない。
・つまり、投票に教育的効果、啓発的効果はない。

p.98
・教育説の支持者は熟議デモクラシーが必要だという。
・ハーバーマス『道徳意識とコミュニケーション行為』の熟議デモクラシーの8つのルール、コーエンの4つのルールの1つも守られない。

p.105
・Mendelberg(メンデルバーグ)『The Deliverate Citizen』
:民主的熟議のサーヴェイ。
・熟議は個人間の協働を促進するが、集団間の協働を弱体化する。政治的集団等、集団のメンバーを人々が自認する場合、熟議は事態は悪化させる傾向をもつ。
 集団が異なる規模をもつ場合、熟議は対立を悪化させる。
 熟議は他者の利害関心に自覚的にさせる。だが、議論の有無に関係なく、選好の表明は効果をもつ。よって、熟議そのものに効果はない。
 議論の大部分は立場争いになる。事実に関する討論にはならない。
 イデオロギー上のマイノリティは影響力が小さくなる。
 高い地位にある個人は、実際の知識に関係なく、発言が多くなり、より信頼され、影響力が大きくなる。
 熟議で言語はバイアスがかかった操作的な形で用いられる。
 モデレーターが議論を促しても、集団は対立を回避する。
 一般的な情報・信念に言及すると、発話者はより賢く、権威的に見え、影響力が大きくなる。よって、集合的議論はバイアスを増幅させる。
 熟議は容易に検証可能な事実と統計について、もっともよく作用する。他の場合、すなわち、道徳、正義、それらに関する社会科学的理論について、熟議は失敗する可能性が高い。

p.107
・動機づけられた推論
・イデオロギー上のマイノリティは熟議の前により多くの下調べをし、他者の意見を聞く。だが、それらの人々は自分に不利なエビデンスを見過ごし、他者の意見を聞くのは説得するために限られる。
・イデオロギー上のマジョリティは下調べをせず、他者の意見も聞かない。
・死刑の抑止効果について、賛成派、反対派とも、研究を自分の都合のいいように解釈する。

p.108
・熟議に関する各種の研究。
・熟議は人々をイデオロギーを極端化させる。集団極化の法則。
・デリケートな問題についての熟議は、ヒステリーと感情論に陥る。
・一部の集団はより強い発言権をもち、集団のリーダーの選出は性的・人種的にバイアスがかかる。
・熟議は参加者に自身の見解と一貫しない立場を選択させ、後悔させる。
・熟議は道徳的・政治的懐疑論、ニヒリズムを招く。
・熟議は市民を政治に対して無関心・不可知論的にし、政治参加・政治的活動を減少させる。
・熟議で市民は特殊利益によって操作される。
・熟議フォーラムが論争的なトピックのためにデザインされていてさえ、参加者は回避する。
・公共的熟議はときとして不合意を生み、内集団と外集団を形成する。
・市民は熟議的な推論、熟議が長引くことを嫌う。市民は熟議を嫌う。

p.114
・熟議が変化を生じさせないなら、実際にはニュートラルでなく、ネガティブな効果を及ぼしている。
・より議論と情報を得て、信念を修正するか、信念の確信の度合いを弱めないのなら、実際には認識的状況を悪化させている。

p.120
・フラタニティは人格と学業を向上させることを理念にしているが、性暴力、飲酒、学業上の不正、学業に悪影響を与えている。
・理想的状況での機能は根拠薄弱だ。

○第四章 政治はあなたにも私にも力を与えない

p.127
・政治的諸自由と政治参加が個人に力を与える5つの理論。
 1. 同意
 2. 利害関心
 3. 自律
 4. 非支配
 5. 道徳的発達

p.130
・ブレナン『Democracy and Freedom』
・デモクラシーとリベラルな自由のあいだには関連がある。
・自由で開かれた選挙と市民的諸権利には強い正の相関。
 自由で開かれた選挙と経済的自由には正の相関。

p.132
・同意説は論外。
 近代デモクラシー以前に反証済み。
・同意がなかったとしても効力が変わらない。不同意しても変わらない。強制される。政府は責任を負わない。

p.138
・被選挙権だけは真の同意を含む。ただし、兵士や陪審員を政治的役職と呼ばないとき。

p.144
・結果説:政治的自由と政治参加は利害関心を促進する。
・投票に影響力はない。

・・負託説:決定打となる一票でなくても、負託を与えている。
・・負託説すら誤り。Dahl『The Myth of the Presidental Mandate』、Grossback,et『Mandate Politics』『Electoral Mandates in American Politics』

p.148
・自律説
・投票に影響力はない。

・・社会構築説:社会構築のプロセスに参加すること自体に意義がある。
・・影響力がなければ、参加しているとはいえない。不参加にすら政治的責任がある。そもそも、不参加の自由がない。

p.157
・非支配
・バーリンの古典的リベラリズムの「干渉の欠如」に対し、新共和主義は「支配の欠如」をも求める。
・政治的諸権利は支配の欠如にならない。
・エピストクラシーは共和主義的自由を含む。

p.165
・道徳的発達
・ロールズ『正義論』
・サミュエル・フリーマンはロールズの基本的自由から経済的権利を除外する。だが、それは政治的権利にも当てはまる。
・奴隷のエピクテトスや専制国家のソルジェニーツィンは道徳的能力をもつ(ロールズ主義者はしばしば論敵を道徳的でないと断定する)。

○第五章 政治はポエムではない

p.188
・記号論説:平等を表現する。個人に承認、自尊、尊敬を与える。
・平等の表現方法は様々。そもそも、平等の概念は人によって異なる。

p.198
・優位性の判断:特権意識を抱かせる。
・1. そもそも投票者は利他的。
 2. より優れた能力は必要なときに表明されるべき。
・医者が必要なときに、医師免許を持っていることを表明しないことは不正。

p.209
・社会的基盤
・自尊心を与えるために、政治的権力を与えるべきではない。
・そもそも、選挙権が表現しているものは歴史の偶然でしかない。

p.216
・政治的権力を尊敬と地位に結びつけることは、愚行の歴史。ヘンリー8世の戦争。
・配管工や理容師の免許を権力の不平等配分と見なさないのは、それらを蔑視しているため。

p.224
・表現説:政治的諸自由は自己表現の手段。
・投票・公職選挙への出馬は政治的態度を伝達する手段として薄弱。
・表現として、権力の行使そのものは最善ではない。インスタレーションで、苦痛の表現として人を傷つけるのと同じ。
・表現説を認めたとして、あくまで与えられるべきは言論の自由。
 しかも、表現説は複数投票制を排除しない。

・以下、下巻。

○第六章 有能な政府への権利

p.2
・もっとも有能な政治システムの要請は、強い道具主義、すなわち有能性原理が必要。
・経済学的には、限界収穫逓減と限界費用逓増が生じる。

p.3
・エピストクラシーを支持する議論は以下のようになる。
 1. 手続き主義の否定。
 2. 有能性原理の証明。
 3. 有能性原理。
 4. 比較制度。
 5. 結論。

p.6
・3つの直観ポンプ:デモクラシーの例外化。
・1. 集合行為問題としての大気汚染。
 投票汚染は例外にされる。
 投票権を例外にする議論の誤りは第4-5章。
・2. 悪政。
 悪政の君主制と、善政の君主制。悪政の君主制と、悪政の民主制。
 民主制を例外にする議論の誤りは第4-5章。
・3. 投票権の年齢制限。
 3つの基本的理由:メンバーシップ、依存性、無能性。すべて十分条件。

p.16
・支配権の推定的条件
 1. 正統性:強制の道徳的権能。
 2. 権威:服従の義務の道徳的権能。
・推定的条件は無効化可能な必要条件。

p.19
・陪審員団には不適格事由がある。
・すべての陪審員団が、すべての事件において有能でなければならない。
・無知な、非合理的な、欠陥のある、不道徳な、腐敗した、陪審員団による判決は許されない。
・無知な、非合理的な、欠陥のある、不道徳な、腐敗した、選挙民による決定は許されない。

p.32
・有能性原理は個別の政治的決定に適用される。
 選挙上の決定ではなく、選挙後の決定。
・選挙が無能な決定でも、民主的政府が有能であることはありえる。

p.36
・有能性の基準
・医療倫理で、患者が自己決定できる有能性の基準:認識、理解、適用、推論。

p.42
・有能性原理は失格基準。
・有能性原理による限界
:統治の規模:大規模国家、多言語国家は失敗しがち。
 統治の射程:死刑、価格統制。
 統治のタイミング:政治的意思決定は拙速であってはならない。チェック・アンド・バランス。
 統治の形態

○第七章 デモクラシーは有能であるのか?

p.52
・第2-3章で投票者が有能でないことは証明した。だが、集団として有能であるという議論がある。

p.53
・集合的な意思決定が政治的能力を創発する3つの数理的な定理。
・集計の奇跡:誤りがランダムに分布する場合、正しい投票者が少数でもいるかぎり、正しい結果になる。
・コンドルセの陪審定理:投票者が独立、かつ、平均で5割以上が正しいかぎり、規模が大きいほど正答率は1に近づく。
・ホン=ペイジの定理:参加者の認知的多様性は、各々の信頼性や能力より、正しい結果に貢献する。

p.55
・デモクラシーの批判は経験的に行われる一方、デモクラシーの擁護は理論的に行われる傾向がある。

p.56
・系統誤差は3つの数理的な定理にとって致命的。
 集計の奇跡は起きない。
 コンドルセの陪審定理によれば、正答率を下げる。
 ホン=ペイジの定理は適用されない。

p.58
・集計の奇跡
・投票者は系統的な選好をもち、系統的な誤りを犯す。:アルトハウス(前掲)、カプラン(前掲)。
・無知な投票者は外見の魅力や、名前の響きで候補者を選ぶ、系統的なバイアスがある。
・無知な投票者は現職者を選ぶバイアスがある。
・無知な投票者は先行者に追従するバイアスがある。よって、最初の無知な投票者が無作為に投票したとして、無知は相殺どころか増幅する(Jakee, Sun『Is Compulsory Voting More Democratic?』)。
・平均値0で標準化されないかぎり、無作為な誤差の期待値は、可能な範囲の中間点。:アルトハウス(前掲)
・無知な投票者と無知でない投票者は、異なる平均値・最頻値をもつ。

p.63
・コンドルセの陪審定理
・独立性、誠実性などの条件がある。
・投票者の平均的な信頼度は0.5未満。よって、正答率は下がる。

p.64
・ホン=ペイジの定理
・多様な認知モデル、認知モデルの複雑さ、問題と解決についての合意、協働、他者の知識の活用、などの条件がある。
・ホン=ペイジの定理は数学的に誤っている(Tompson『Does Diversity Trump Ability?』)。
・専門家を画一的と仮定している。だが、無知なほど単純・素朴な認知モデルをもつ。:Page『The Difference』、Tetlock『Diversity Paradoxes』。
・定理はむしろ、投票者を限定することを擁護している。多数者は全員ではない。

p.78
・専門家の選好が正しいというのは論点先取ではないか。
:大量の変数を統制しても、専門家の選好とその他の選好にギャップが生じるということを証明したのみ。確率論的、仮説推論的に専門家の選好が正しい。:アルトハウス(前掲)、カプラン『選挙の経済学』『The Myth of the Rational Voter and Political Theory』
 カプランでは経済学者はイデオロギーが多様(左派、右派、穏健派、リバタリアン)、質問は論争的でないもののみ(マクロ経済学は除外)。

p.83
・テトロック『専門家の政治予測』
・この有名な実験は、難解かつ論争的な質問に限定している。
・・専門家が合意している質問を除外(カプラン『Tackling Tetlock』)。
・・非専門家はカリフォルニア大学バークレー校の学部生というエリート。
・・専門家と非専門家の精度の比較を比較する例は1つのみ。非専門家の精度は専門家どころか、ランダムより大幅に下(カプラン『Have the Experts Been Weighed, Measured, and Found Wanting?』)

p.87
・政党が投票者に「認知的ショートカット」を提供しているのではないか。
・1. 投票者はしばしば主要政党にステレオタイプなイメージすら持っておらず、逆のイメージすら持っている。
 2. 主要政党のステレオタイプなイメージだけでは不十分。
 3. 支持政党にバイアスがかかっている。
 4. 二者択一できればいいということが条件(ソミン(前掲))。
 ・・投票者の質は、候補者の質に強く影響(ブレナン, Hill『Compulsory Voting』)。

p.90
・中位投票者の定理:二大政党の政策は中道化する。
・ギレンズ(前掲):大統領は高所得層の政策選好に低所得層の6倍反応。
・・ケネディ以来、ブッシュがもっとも貧困層の政策選好を反映。
・・ギレンズは選挙資金仮説。ブレナンは業績投票仮説。ギレンズの仮説が正しければ、選挙資金改革は逆効果。

p.93
・その他の媒介要因
 多様な政治回路
 行政の独立性
 抑制、均衡、頻繁な選挙
 議会政治
 政党政治

p.96
・多くの媒介要因を考慮すると、有能性原理は重大な決定に限られる。
・それでも選挙が重大なら、エピストクラシーを支持すべき。そうでないなら、エピストクラシーもデモクラシーも支持する理由がない。

○第八章 知者の支配

p.104
・豚のコンテスト。1匹目の豚が醜かっただけで、2匹目を優勝させられない。
・17世紀のデモクラシーの擁護でも、デモクラシーが君主制より優れているかは、あくまで推測だった。
・制度比較ではしばしば理想と現実が混同される。

p.109
・エピストクラシーとデモクラシーの違いは、投票権・被選挙権が平等に分配されているか否か。その他の制度、意思決定方法、手続き、ルールは変わらない。

p.110
・価値のみへの投票
・デモクラシーとエピストクラシーの中間。
・「情報市場による統治」のほうが適当かもしれない。
・目的と手段(候補者・政党の政策プラットフォーム)の区別は曖昧。
 投票者は価値についての判断力も欠如している。
 規範的な事柄と経験的な事柄の区別は曖昧。

p.114
・制限選挙
・投票者資格試験:全米選挙調査の質問、市民権取得テスト、アドバンスト・プレイスメント、知能試験、一般知識試験。
・貧困層のための金銭的なインセンティブ。また、試験不合格者への金銭的なディスインセンティブ。

p.117
・複数投票システム
・「各人の政治的権力は非常に小さい。厳格な平等に固執することは、ケーキのひと切れというより、ケーキの残りくずをめぐって議論するようなもの」(Saunders『Increasing Turnout』)。
・・アメリカの成人人口の10%のみに投票権を認めたとして、各人の投票権力はカナダやオーストラリア未満。

p.118
・参政権くじ引き制:当選者に能力開発プロセスを行う。

p.121
・知者の拒否権を採用した普通選挙制
・司法審査は非民主的だが支持されている。ロールズ『政治的リベラリズム』。

p.129
・疑似神託による統治
・見識のある市民の政策選好をシミュレートする。

p.132
・なにが有能性とみなされるのかをだれが決めるのか
・投票者資格試験はゲリマンダーになりうる。
・民主党には試験を易化、共和党には難化するインセンティブがある。デモクラシー支持者は公教育を支持する。つまり、部分的にエピストクラシーに同意している。
・デモクラシーとエピストクラシーの違いは手続き的でなく、道具的なものでなければならない。
・識字テストの目的は名目上はエピストクラシーだが、実際には人種差別だった。
・医師免許交付・医師免許試験に人種差別が介在していたとして、医師免許交付が本性的に悪いことにはならない。

p.136
・政治的有能性の基準はデモクラシーが決められる。
・・よって、投票者資格試験の設計もデモクラシーが決められる。
・投票者の非合理性や無知は基準ではなく、その適用に働く。人は良いパートナーの条件を説明できるが、実際の人間には適用できない。

・・投票者は悪天候の責任が現職にないことを知っているが、その責任を帰す。国際的な出来事も同じ。投票者は容姿の良い候補者がかならずしも良くないと知っているが、投票する。

p.138
・人口構成によって、エピストクラシーは特定の人口集団に不利に働く。
・そもそも、投票者は利他的。さらに、無知で非合理的。
・特定の人口集団の無知は、デモクラシーで悪く働く。
・特定の人口集団の無知は、根底的に、不正義や社会問題の問題。その是正にはエピストクラシーのほうが良いかもしれない。

p.141
・バーク的保守主義によるデモクラシー擁護
・最良のデモクラシー擁護。
・ただし、あらゆる改革について言える。

○第九章 公の敵同士

p.149
・政治的議論はほとんど論争的なものでないにもかかわらず、ヒートアップする。
 所得税の最高税率を3%上げるか、最低賃金を3ドル上げるか、教育に1兆ドル払うか1.2兆ドル払うか、雇用者に避妊用品の費用を負担させるか、それとも原理主義者が所有する非上場の同族企業で働く女性に、毎月15ドルのポケットマネーを支払わせるか。

p.150
・Iyengar, Westwood『Fear and Loathing across Party Lines』
・高卒生の履歴書を評価させると、民主党支持者の80.4%、共和党支持者の62.9%が、適性より支持政党を優先させる。民主党支持者の70%は適性に大きな差があっても支持政党を優先させる。
・信頼ゲーム。贈与者が受取人に渡した金額が3倍になる。民主党支持者は支持政党で13%多く、共和党支持者は5%多く渡す。しかも、人種間での影響はない。
・信頼ゲームはディスインセンティブが働く。投票はディスインセンティブが働かない上に、他人を嫌うことは楽しいため、偏見を表明するインセンティブが働く(Waytz, Young, Ginges『Motive Attribution Asymmetry for Love vs. Hate Drives Intractable Conflict』)。

p.153
・サンスティーン「党派差別主義(partyism)」
:1960年、共和党支持者と民主党支持者の4-5%が、自分の子供が対立政党の支持者と結婚したら「嬉しくない」と回答。現在、共和党支持者の49%、民主党支持者の33%が「嬉しくない」と回答。
 現在、党派差別主義は、あからさまな人種差別主義より一般的。あからさまでない人種差別主義より強固かもしれない。
・Sunstein『'Partyism' Now Trumps Racism』、Iyengar, Sood, Lelkes『Affect, Not Ideology』。

p.154
・政治が私たちを真の敵にする2つの方法
・1. 状況づけられた敵
 2. 政治的意思決定は加害行為
・状況づけられた敵
・・政治的意思決定は
  1. 限られた選択肢集合からなされる。
  2. 独占的になされる。つまり、全員一律。
  3. 暴力的に強制される。


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