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本と映画と、エトセトラ。

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読んだ本・観た映画について気まぐれに。 (photo by tomoko morishige)
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#note映画部

物語は、「私」を拡張させる

物語は、「私」を拡張させる

小説を読む。映画を観る。

ともすれば、「趣味」「娯楽」として片づけられてしまうもの。効率やわかりやすさが求められる社会において、それらは余剰の多すぎる情報でしかないと捉える人もいるかもしれない。

たしかに、一冊の本を数日かけて読む、一本の映画を2時間かけて観る、それだけの時間を費やすだけの費用対効果を示すのは難しい。同じ時間を資格試験の勉強に費やすなり、仕事にまつわる情報収集をするなりした方が

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闘う、ということ

闘う、ということ

「不当逮捕」「サイバー犯罪」「実際に起きた大事件」。ポスターやあらすじに並ぶものものしい単語から、社会派の重たい作品なのだろうと思っていた映画「Winny」。

ノンフィクションの裁判ものなのでシリアスな場面も多かったけれど、鑑賞後の気分はまったく重苦しくなく、むしろ晴れやかさすらあった。それはきっとこの作品が善悪や正義といった作り手側の価値観を押し付けるのではなく、主人公である金子勇さんの生き方

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本当に大切なことほど、淡々とした日常に宿る。

この数年、とんと洋画を観なくなった。

代わりに観るようになったのは、邦画を含め韓国、香港、台湾などの東アジア系の作品。

それも漫画原作にありがちなキラキラしたラブコメやハッピーエンドの明るいものではなく、どちらかというと色調があわくて起伏が少ない、淡々と物語が進んでいくものばかりを選んで観るようになったと思う。

具体的に例をあげるならこんな感じ。

・海街diary

・リトル・フォレスト

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あの頃の、答え合わせを。

あの頃の、答え合わせを。

人生はタイミングだ、と思う。

「あの時、その言葉を聞きたかったのに」というボタンのかけ違いが、人生にはたびたび起こる。

***

初恋ものといえば韓国のイメージがあるけれど、私は台湾映画の淡い色調と、どこにでもありそうな素朴なストーリー展開が好きだ。

最近観た「あの頃、君を追いかけた」はまさにそんな台湾映画の真骨頂で、誰もが自分の「あの頃」と重ねてしまう作品だった。

落ちこぼれで問題児の男

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批判する覚悟と、人を幸せにする力

批判する覚悟と、人を幸せにする力

先日「おいしい映画館始まります。〜あなたの心を“鑑賞後のハッピー感”で満腹にします!〜」という自主上映イベントで、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という映画を鑑賞してきました。

あらすじとしては、グルメブロガーに料理を酷評された上にレストランのオーナーと仲違いし、シェフをクビになった主人公が、フードトラックをはじめて再起するロードムービーです。

シェフとしてのプロ意識を感じたり、父子

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「美女と野獣」というディズニーの壮大な実験

「美女と野獣」というディズニーの壮大な実験

話題の実写版「美女と野獣」を見てきました。

昔からディズニーのプリンセスシリーズが大好きで、その中でも「本が好き」という共通点からベルが一番の憧れだった私にとってとても感慨深く、大人向けに作られた素晴らしい作品だなと思いました。

コンテンツそのものへの感想も言いたいことはたくさんあるのですが、鑑賞後にこの実写版が作られた背景について考え、こんな一連のツイートをしました。

ツイートにも書いた通

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愛とはきっと、静かな「YES」のことなのだ

愛とはきっと、静かな「YES」のことなのだ

愛する妻が、自分の記憶を失くしてしまう。

そんな設定はこれまでにも、「きみに読む物語」や「私の頭の中の消しゴム」などの作品の中でごまんと語られてきました。

どれも泣かせてくるとわかっていてもやっぱり泣いてしまうストーリー構成で、むしろ泣きたい気分のときには安心して観ることができるほどです。

先日はちょうど映画を観て泣きたい気分だったので、あらすじから泣ける匂いが漂う「妻への家路」を手に取って

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