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250Kg摂食障害の母は、全力で家族を守った

<ムービージュークボックス17>

体重250キロの母がいる。ひとりでは動けない。

夫に自殺されたショックで、摂食障害になり、満腹中枢が壊れ、食欲が止まらない。

昔は、ミスコンテストに出るほどの細身の美人だったのに。

美しい頃を知る2人の娘たちは、病身の母を、かいがいしく世話をした。

母親ダーレン・ケイツ©︎fanpop

一方、木でもタワーでも、高いところならどこにでも登る、17歳の次男アーニー(レオナード・デカプイリオ)がいて、兄ギルバート・グレイプ(ジョニー・ディップ)が面倒をみていた。

弱っている人を、弱い人が救おうとした、映画「ギルバート・グレイプWhat’s Eating Gilbert Grape?(1998)」

©︎notrecinema.com

母は、階段を登れず、ベッドに行けない。1階のソファーに昼も夜も座っている。大人4人分の巨体、田舎の子供たちにとって、見せ物になっていた。母は、うつになり、対人恐怖症になっていた。

17歳の次男アーニーだけは、陽気に振る舞っている。
15歳の寿命を医者から宣告されていたアーニーが、母にとっては、あわれで、いとおしかった。家では、母が見守り、外へ出たら、兄が守る。役割分担もできていた。

今年、18歳の成人を迎えるアーニーに、家族で「がんばったね」と祝う誕生日にすることを、母が決めていた。


そんな中、全米旅行中のトレーラーの車列が、ギルバートの街を通りかかったところ、1台が故障。若いベッキー(ジュリエット・ルイス)と叔母が、1週間滞在することになった。

トレーラーの車列©︎imcdb.org

うつの叔母と旅をするベッキーは、母や弟に尽くしているギルバートに興味を持った。

ギルバートも、ベッキーに好意を持った。はしゃぐアーニーに静かに接するベッキーのような賢い女性は初めてだった。

アーニー、ギルバート、ベッキー©︎The Austin Cronicle

そんなある日、アーニーは、また、貯水タワーに登り、遂に警察に逮捕された。

ギルバートが、アーニーを留置場から引き取ろうとしたが、警察は、少しこらしめようとして釈放しなかった。

アーニーは、なぜ留置場に置かれているのか、わかっていない。母は、いたたまれなくなった。街の人々に笑われようと、構わなかった。

「私の服を出して」母が娘たちに命じた。

母を乗せて片方に傾いた車が、警察署に着いた。
250キロの女性を待ちうけていた野次馬たちは、彼女の一歩、一歩に奇声を発した。

2人の娘に支えられた母親は、警察署に入った。

母は、署長を怒鳴り飛ばし、息子を取り戻した。


ベッキーは、ギルバートの母に感動した。会いたいと願った。

「街の人とは違うよ、彼女に会ってほしい」と、ギルバートが懇願して、
母は1階のソファーで、ベッキーに会った。

母は「私は、昔はこんなではなかったのよ」と言った。
ベッキーも「私も、昔はこんなではなかったわ」と彼女に合わせて、
ふたりは笑った。


ベッキーたちの車の修理でき、別れる日が近づいてきた。

ギルバートは、ベッキーを好ましく思っていた。
しかし、複雑な家庭に育った男として、からみあった糸をどうほぐせばいいか、
答えを見いだせないでいた。

ベッキーは「あなたが、ここにいてくれと言えば、私は残ってもいい」と恋心を打ち明けた。しかし、ギルバートの、わずかな稼ぎで、一家を支えている。「母や弟を置いて、どこへも行けない。でも、来年もこの街を通るならまた、会いたい」。ギルバートの彼女への答えだった。

ふたりは別れた。

ベッキーたちが去った日の夜、母は、娘たちの手を借りず、ひとりで2階のベッドに、必死に巨体をゆすって運んだ。息子のガールフレンドに会ったのに、居間で、パジャマで会っただらしない自分が許せなかったのだろう。

しかし、2階のベッドにいる母に「おやすみ」をしに行ったアーニーが、何か変だと思った。「ママ、どうしたの」と叫んだ。耳元で大声で何度も叫んだ。母は答えなかった。

ギルバート兄妹は、医者と警察を呼んだ。死亡が確認され、「明日は、お母さんを運び出すために、クレーン車で来ないとどうしようもない」と警察が言い残して
撤収した。

「これ以上、お母さんに恥ずかしい思いをさせたくない」とギルバート兄妹は、
話し合った。家から椅子を運び出し、整然と並べて座り、家族葬の準備を整えた。
そして、ギルバートが家に火を放ち、母が愛した家とともに火葬を執り行った。

©︎wipfilms.net

翌年、ベッキーが乗ったトレーラーの車列がやってきた。アーニーが見つけた。
ギルバートが「もう、どこへでも行ける」と自分に言い聞かせるように叫んだ。


<映画好きのためのトリビア>
⭐️ジョニー・ディップは、撮影が終わると、母親役のダーレン・ケイツに「脚本通りでなく、丁寧に、敬意を持って、あなたに話したかった。ごめんなさい」と
再三、詫びていたのをスタッフは見ていた
⭐️ダーレン・ケイツは、映画で演じた女性ほど超肥満ではなかったが、肥満だった。「映画前は気にしていなかった、周りのひんしゅくの眼差しとか、小声の悪口が気になるようになり、映画後の5年間は外出できなかった」と後遺症を語っている
⭐️レオナルド・デカプリオは、精神障害のある少年たちの施設を見学し、演技に役立てようとした。彼らから学んだことは、現在にとらわれない転換の速さだった

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