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北朝鮮の人に、声をかけてみる(女性編)

 ソウルの学生街新村で、焼肉を食べた。キムチ、にんにく、サンチュ。みなおかわり自由。あっという間に皿の上にすき間が空いていく。忙しく働く女性店員を呼び止める。

 こういう時に「저기요!」(あの!)をぼくは好んで使っていたが、席を同じくした年上の男性は「아가씨」(おねえちゃん!)ということばを使っていた。髪の毛を金色に染めた、たぶん20代前半の女性が気だるげにやって来て注文を取った。

 ひとり、女性店員を「언니」(おねえさん=正確には年下の女性が年上の女性を親しみを込めて呼ぶ)という男性がいた。厳密にいうなら誤用である。この男性の言動を気持ち悪い、という韓国人女性がいた。

 かように人を呼ぶのは難しい。当時20代だったぼくは、同じ世代の女性のことを「おねえちゃん」と呼ぶのは、年不相応だし、失礼だし、どこか照れくさくもあり、またいたたまれない気持ちになった。それから歳を重ねて40代になった今でも「おねえちゃん」「おねえさん」と呼ぶのは気が引ける。

 平壌のバーで、コーヒーを飲むことにした。カウンターの止まり木に座り、一日の疲れを感じる。止まり木の背の鉄の棒がちょうど腰に当たり気持ちいい。少し離れたところにいる女性接待員に、コーヒーを頼むことにした。

 さて、どう呼ぶか。

 ぼくが選んだのは「동무!」ということば。北朝鮮では年齢、立場か同じか下の人を呼ぶときのことばだ。翻訳された小説や本を読むと、同務という漢字を当てているケースがあるが、これは間違っている。果たして女性接待員はにっこりと笑い、ぼくの方にやってきた。

 数日かけて仲良くなり、バカな話にお互い笑っていると、バーのママさんが聞いてきた。「あのですね。南では呼びかける時に아가씨っていうのですよね」と。頷いて「でもぼくは余りその表現好きじゃないなぁ」と答えると大きく頷き「このことばは本当に嫌いです。絶対に共和国では使わないでくださいね」というのだ。北では思った以上に、卑語としてのニュアンスが強いらしい。

 いわゆる飲み屋の姉ちゃんではなく、私たちは接待員なのである。彼女たちの誇らしげな表情。客と親しくならないという自衛の意味よりも、彼女たちの誇りが勝っていた。少し勝気で誇らしげな、彼女たちのプライドがぼくは好きだ。そしてその壁を少しずつだが崩していくことも。

■ 北のHow to その122
 女性を아가씨と呼ぶのは、ソウルでも韓国でも今も抵抗があります。東京の飲み屋でお姉ちゃん、と呼ぶのはやっぱり気が引ける。その点동무は楽。若い娘でもおばちゃんでも通用する表現です。

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