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イギリスのお菓子vol.1「ビクトリア・サンドイッチ」

イギリスのお菓子は食事や城と同様、「さすがイギリス」という実直、屈強、(地味で写真映えしなくて華やかさに欠ける・・⁈)素材(のみ)を活かした素朴なものだ。

イギリスの人たちはケーキといえば日本人には不評のバターケーキで、それももはや食べ物に見えない、粘土のようなアイシング生地(マジパン)をグルグルにガムテープで巻きつけたような、完全装備の「デコレーション」ケーキが主流。たいていの在英日本人は、アイシングだけ密かに外しながら食べるか、内心「外したい・・」と思いながら食していることであろう。

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ほかにもチョコレートだのカップケーキだの、見かけも実際もいかにも大量の砂糖が使われている、ちまたに溢れる「イギリスのケーキ」もある。しかしこういったものは近代的過ぎて、かつアメリカやその他諸外国のものと似通っているので、あまり興味はない。

というより、単純に手間がかかるので、そこはひとつ、イギリス菓子本来の素朴さを活かし、外国人としての視点を持って「伝統的なイギリスのお菓子」を主にリストアップしていきたい。皮肉屋で誇り高く、何でも他国とは違った自国流の名前をつけたがるイギリス人、菓子名も変わったネーミングのものが多い。

例えば今回の「ビクトリア・サンドイッチ」。お菓子なのにサンドイッチ

伝統的なイギリス菓子の材料は小麦をベースにドライフルーツ、それもレーズンを投入したものが多い。たとえそれがブラック・カランツでもサルタナだとしても、結局は「レーズンで良くない?日本にないし。」といった程度の認識で十分だと思う。むしろ、レシピを読んでいると、「・・なになに?小麦にバター、(大量の)砂糖にレーズン・・。」

よくもここまで同じ材料と工程で、こんなにバリエーション豊かな名前がつけられるもんだな。

と、感心してしまうほどである。何故このマガジンに限ってこんな語調なのかは不明であるが(そろそろ戻します❤️)、こんな時であるからこそ家で作れる、手軽なイギリス伝統菓子を作っていきたい。ちなみに、工程の紹介ではないので実際に作ったレシピは上げません。かつ、これだけレーズンレーズンと煽っておきながら、初回はレーズンを使わないお菓子です。

ビクトリア・サンドイッチとは何ぞや

またの名を「ビクトリア・スポンジ」。これで少しはお菓子らしくなりました。ビクトリア・サンドイッチとは簡単に言えば「スポンジケーキでクリームとジャムをサンドしたもの」。よって、「サンドイッチ」とはその形態を表しただけであり、軽食の甘くないサンドイッチとは別物の「ケーキ」です。いかに甘いかと言うと、

200gの砂糖が入ったスポンジで
140gのアイシングシュガーが練り込められたバタークリームと
170gのジャムを挟み
スポンジ表面に粉砂糖を全体にまぶす

くらいです。(参照:BBC)なんて単純で飾り気のない潔さでしょう。イギリスのお菓子は本来このように、基本的に飾り付けがなく、素敵なカフェや店舗で見ても「これが完成系?」と心配になるほどな焼きっぱなしスタイルが多いです。スコーンショートブレッドといったイギリスを代表するお菓子を想像してもらえれば、わかりやすいかと思います。

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名前の由来

イギリスには駅や公園など、ビクトリアを冠した名前をよく見かけますが、この名前は1837年から1901年までの64年という長期にわたって英国を治めた、ビクトリア女王のことです。ベッドフォード公爵の夫人、アンナ・マリア・ラッセルによって始められたアフタヌーンティー参照記事)でもてなされたケーキで、ビクトリア女王のお気に入りだったと言われています。

この時期、ビクトリア・サンドイッチはイギリスの菓子界において、革命的な菓子としてその名を歴史に刻んでいます。というのも、このケーキはベーキングパウダー重曹を用いた国内初のお菓子という説があり、女王はまだ庶民の手に届かないうちから賞味できていたのでは、と思われます。

何がそんなに凄いかと言えば、ベーキングパウダーと重曹は19世紀始め頃に発明され、それ以前のお菓子にはイースト菌が使われていたからです。ベーキングパウダーと重曹を用いたお菓子と違い、イースト菌によるものは食感が重く、作るのに手間も時間もかかっていました。一方ビクトリア・サンドイッチはフワフワで、現代に通ずる「モダンなケーキ」として、もてはやされたのではないかと推測されます。(参照:“Victoria sandwich – History & science of a cake” Food Crumbles April 8 2020)が、この説に関しては意見が分かれ、他方では「ビクトリア・サンドイッチにはベーキングパウダーと重曹はまだ使われていなかった」と主張する人もいるそうです。

人気ランキングの常連

このケーキはあまりのシンプルさに誤魔化しが効かず、お菓子職人の腕試しにもうってつけです。イギリスには The Great British Bake Off という2010年からスタートしたアマチュア料理コンテスト番組があるのですが、こちらでは挑戦者の力の違いを出せるよう、より原型に近いクリーム抜きで、ジャムのみのクラシック・スタイルで勝負させていました。

ビクトリア・サンドイッチはその手軽さゆえ、家で母親に作ってもらったり、お祭りなどのイベントでよく見かけたりと、イギリス人にとっては郷愁を誘う懐かしのケーキなようです。ナショナル・ケーキ週間中、毎年行われる英国人の人気ケーキランキングでは、2014年にビクトリア・サンドイッチが2位に入っていましたが、近年は他のケーキに押され気味です。それでも去年は別の調査で3位と、上位ランキングの常連ではあります。

実際に作ってみて

レシピを見て驚いたのですが、焼き型までもsandwich tinsとしっかりサンドイッチの名前が使われています。それだけでなく、何故か「2つ」用意せよ、との指示が。日本人的思考では、通常1つのケーキを真ん中で切り分け2枚にするので不思議に思いましたが、オーブンが大きく充実しているイギリスでは、上下に分けて焼き型2つ分を同時に焼けるのです。

実はスポンジケーキを作るのが大の苦手な私。いつも生地を膨らませるのに苦労し、半分にできないほど薄っぺらなものしか焼けないこともあるので、このイギリス式手順は私にうってつけ。

けれど、やはり横着せずボールも2つに分けるべきでした。適当に2等分したつもりが、一方の方が厚くなり他方はペランペランで主人には「下の部分はクッキーみたいで美味しいね」というお褒めの言葉をもらいました。

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スポンジの表面にクリームを塗るデコレーションも正直苦手なので、ビクトリア・サンドイッチは私のような不器用さんでも安心して取りかかれます。砂糖は普段するように、何でも基本、分量より減らしています。減らし過ぎても美味しくなくなるので、ここは作り手の裁量が求められますね。

材料は卵にバター、砂糖、小麦のみ、と本当にシンプル。しかも面白いのが、卵以外の分量は卵を殻ごと計った重さを使うということ。例えば、今回3個の卵を殻ごと計ると200gでしたので、その他バター、砂糖、小麦粉も同量になります。砂糖に関しては日本人なので?半分の100gにしました。

中にはさむジャムはラズベリーが正当らしいので今回は素直にラズベリーにしておきましたが、でも良いですし、クリームもクリームとバタークリームがあったり、そもそもクリーム自体はさんだりはさまなかったり。今では現代風に好きなようにアレンジして良いようです。

全ての材料を混ぜるだけの超かんたんケーキなので、子供でもできちゃいます。(実際今回は一緒に作ったのでこの出来栄え、ということにしておいて下さい・・!)おうち時間に、子供の課題にいかがでしょう。

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