イギリスのお菓子vol.2初夏にたべたい『マデイラ・ケーキ』
物価の高いイギリスにおいて比較的やすいものといえば、バターにヨーグルト、チーズといった乳製品があります。日本ではなぜだかここ数年、もうずっとバター不足。わたしがイギリスにくる2017年の時点でスーパーには「おひとり様1点まで」なんて注意書きがありました。それがこんどはコロナウイルスの影響で、お菓子作りなどによる内食需要が高まり、ふたたびバターが手に入りにくくなっているとか。
かくいうわたしも、以前より格段にお菓子を作る機会がふえ「内食需要」をしっかり高めている一因です。幸いなことに、こちらではほかのものが品薄になってもバターは店頭から消えることはありませんでした。そのかわりに小麦粉がもうずっとなく、お好み焼きが大好きなわたしには痛手でしたが(今日も作ってしまった・・)、先月からようやくポツポツ見かけるようになりました。
イギリスの粉事情
正確にいうと、イギリスにはプレーンな薄力粉と
self-raising flour
というふくらし粉(ベーキングパウダー)入りのタイプがあり、特にこちらのセルフ・レイジングの薄力粉がいまだに品薄です。いま知りましたが、1カップの小麦粉につき小さじ1と½のベーキングパウダー、それに小さじ¼の塩まで入っていました!塩分・・気をつけねば。
当然ながらこちらのタイプですと別途ベーキングパウダーを入れる必要がなく、便利なので売り切れが続いているのでしょう。ところが、これまた最近こちらのお菓子作りの本を読んでいて気づきましたが、セルフ・レイジングを使うのに、さらにベーキングパウダーも必要なレシピがけっこうあるのです。しかもふつうのプレーンまで使う場合もありナゾに思っていましたが、これに関してはたったいま仕入れた情報にもとづくと、塩分が味に影響するのでその塩分調整かな、と推測しました。
それではベーキングパウダーも買っておこうと思ったのですが、これがベーキングパウダーも品切れなんです。先日とあるスーパーでようやくセルフ・レイジングを見つけられたのでよかったですが、プレーンの薄力粉しか買えず、それなのにベーキングパウダーは買えない場合、お菓子作りはほとんどできないはずです。わたしはパンを作らないので影響をうけていませんが、イースト菌もずっと品薄だったようで先日「イースト菌入りました!」という貼り紙がありました。日本でもホームベーカリーを使うひとが増え、手に入りにくいようですね。
マデイラ・ケーキとは
イギリスにきて耳にするようになったマデイラ・ワイン。アフリカのモロッコ沖に浮かぶポルトガル領マデイラ島で生産されているワインですが、イギリスでは伝統的なケーキの名前にまで使われるほどなじみ深いもののようです。
このお酒はブランデーを添加してアルコール度数を高め、酵母の働きをとめることによって酸化を防ぐ「酒精強化ワイン」です。同じくポルトガルのポート・ワイン、スペインのシェリー、イタリアのマルサラ・ワインとともに世界4大酒精強化ワインと呼ばれています。(参照:MADEIRA WINE COMPANY S.A.)
マデイラ・ケーキはこのマデイラ・ワインか、もしくはほかの甘口ワインとともにお客さまにだされていた19世期の伝統的な慣習にちなんで名づけられました。(参照:“Madeira Cake” Tea at Fortnum & Mason 2010: 89 Print.)
実際に作ってみて:工夫点と反省点
サクランボ入りのチェリー・マデイラもあるようですが、いつものように「レモン風味だけ」というイギリスらしい潔さをとり、伝統的なタイプのレシピで作りました。このケーキでがぜんイギリス在住の強みを発揮できるのが、多めのバター。こちらのバターはひと塊りが250g。レシピには225gとあるので切るのがめんどう、ええぃ、安いしぜんぶ丸ごと使っちゃえ〜!
と、したのがいけませんでした。やはり計量はとてもだいじなようです。油があきらかに多すぎてギトギトしてしまったうえに、その油が生地に染みでてなんだか断面がくすんで暗い色合い・・みた目まで悪くなってしまいました。
そのかわり、レモンの皮を2倍にして2個分にしたのはわれながら正解だったと思います。「こんな少量で本当になにか味に変わりがあるのか」と疑っていたせいもあるのですが、おかげで焼きあげたあともプーンとシトラスの香りがただよい、なめらかな生地のなかでかたい皮の存在もしっかり感じとれ、よいアクセントになっていました。
バターも多いですが、小麦粉も250gと多く砂糖と卵を混ぜ合わせた生地に入れるとずっしり重くかたまってしまい、混ぜ合わせるのに苦労するほどでした。さいごケーキ型に入れるときも、ほかのケーキでよくある「流し入れる」ことはできず、ヘラでボテっボテっとぐいぐい押しこむような力が必要でした。
砂糖は200gのところを大胆に70gにへらしました。というのも、このレシピでは「サーブする直前に上白糖をまぶしてだすと、歯ごたえのよい甘さを楽しめます」とあったので、その分の砂糖も考慮して生地に入れる分は大幅にへらしておきました。まぶすのも、あらかじめ焼くときにかけておくとよりcrunchy、ザクザクとした食感になるかと思い、生の生地に先にかけて焼きあげました。
そうすると予想どおり表面の砂糖がかたまって、理想の食感とみた目にも好都合だったので正解だったのでは、と思いました。なお、イギリスでは日本と逆でグラニュー糖のほうが大幅に安いので、いる間はここぞとばかりにグラニュー糖を購入し、このときも上白糖とありましたがグラニュー糖にしておきました。そのほうがザクザクすると思って。表面がかたまって白い結晶のようになっています。
計量スプーンの英語表記:バニラエッセンスが大さじ1⁈
香り付けにバニラエッセンスを大さじ1とあり、日本のレシピではたいてい1滴や数滴なのでそんなに大量に入れたことがなく、英語だとなにかとよく間違えるのでなんどもレシピを凝視してしまいました。
tbsp=tablespoon=大さじ
なので、大さじで合っているようでした。たしかにふだん日本のレシピでは毎回、「こんな少量でちゃんと匂いするのかな」と効果のほどに疑問を抱いていました。今回は別の意味で半信半疑のまま焼きあげてみると、加熱したあとでもしっかりバニラの香りがただよい「こういうことだったのか!」と開眼した思いです。
肝心のお味は、そもそもバターを入れすぎたので少々油っぽいのはしょうがないとして、どっしりしたなかにもレモンピールのおかげでほのかな爽やかさを感じ、まさに今の季節にふさわしい初夏にピッタリの焼き菓子でした。ただし、やはり最後にまた反省点が。焼いたあと、はずすときに便利だからとこれまで長年シリコン製のケーキ型を使ってきたのですが、丸型の場合は問題なくともパウンド型だと生地の重みで型が横に広がってしまい、焼きあがりの形が平たくブサイクになってしまいます。残念ですが、これを機会にちゃんとしたアルミ製のかたいものに変えたいと思います。