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【読書日記】 小熊英二(2002)『〈民主〉と〈愛国〉』新曜社

はじめまして,haruと申します.

初めてnoteに何か投稿してみようと思い,先日読み終わった小熊英二さんの『民主と愛国』について書いていこうと思います.

私がこの本を読んで学んだのは,「現在固まって見えるような価値観も,"自分に"そう見えているだけで実は多様なのだ」ということでした.

この本では,丸山眞男,竹内好,三島由紀夫,吉本隆明,江藤淳,鶴見俊輔,小田実などの戦後の知識人たちの言説を丁寧に追い,各立場の人の価値観を浮かび上がらせます.具体的には,絡まった網の目のような「戦後民主主義」を構成するコトバの意味の変容(使われ方の変遷など)を,一つ一つ他との相互作用を交えながら解きほぐしています.

例えば「市民」というコトバは,実は過去半世紀ぐらいで広く使われ始めた言葉なのだそうです.そして,かつてはマルクス主義系の人たちから「小ブル(ブルジョワ)」的なネガティブな使い方をされるコトバだったものが,「ふつうの人」を意味するような適当なコトバとして使われるようになった,なんてことが書いてあったりします.

(ちなみに「市民運動」のような,ある特定の何かに属していない「市民」を表すために,「一般市民」なんてコトバが使われるようになったなんてエピソードも書いてあったりします笑)

このような,コトバの使われ方をものすごい膨大な言説から"解きほぐす作業"(言説分析)はさながら名人芸で,読んでいて思わずため息が出るほどです.

また,この著者の本は総じて文章が読みやすく,わからない専門用語の意味の理解に立ち止まるなどということが少なく読めるのも嬉しいです.

なお,この本はとても大きいです!
扱っているテーマが「戦後民主主義」なる,戦後日本のナショナリズムに関する議論の流れを見るという大きなものですが,本自体が物理的に大きく,分量にして966ページ,厚さにして5センチあります.
筆者によるとそれは「四百字詰め原稿用紙2,500枚ほど」なのだそうです.

私は,本を長く読む体力に自信がある方だったのですが,本を読み終えるまで8ヶ月(正味2週間,後は積読期間)かかってしまいました笑
自分のペースではだいたい1時間に25ページ読めれば良い方で,累計35時間以上はかかっていると思います.

その"1日半"の時間を費やして得られたものとしては,他のドキュメンタリーや本では知らなかった,「コトバ」に対する人々の反応の多様さと,意味の変容,そして自分が(後の時代に生まれ,特定の書物を断片的にしか読もうとしてこなかったために)「戦後民主主義」「戦後社会」とひっくるめて理解しようとしてしまっていた"時代"そのものでした.

良かったら是非,読んでください!


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