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読書感想文

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ネタバレありです。
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2024年3月の記事一覧

「工場新聞」(徳永直)

 話の序盤で歳を取った人まで戦場に出なければならない情勢と知り、のちの展開が悪い予感がします。タツが働いているタバコ工場でも納入されてくる葉の質が下がっていたりと、景気の悪い話が続きます。不穏な雰囲気と「赤煉瓦」などの隠語を使っていると思われる描写から、じきにストライキや暴動につながるように思います。労働者の恨みが積もった結果、どうなったかはわかりませんが良い解決に向かっていてほしいと思います。

「あまり者」(徳永直)

 「私」の故郷は田舎らしい田舎と言われるほど自然が豊かな地域でした。弟の手紙から、発電所ができたり、電車が通じたと知ります。「私」の記憶から変わりつつある所から寂しさを感じます。手紙を読み進めていくと、「私」の旧友である兵さんが死んでしまったと知って悲しんでいました。
 後半では兵さんが虐げられている描写が続きます。階級社会の悪い部分を凝縮したような話で気分が悪くなります。

「眼」(徳永直)

 利平の職場では争議団が結成されていました。争議団は雇用主との問題を解決するために労働者が一時的に集まって結成されます。労働組合の原型になったようなイメージです。
 利平は争議団で怪我を負っていました。なぜか争議団では非合法な手段に出ているようです。利益を得体がために行動していたはずが暴走して歯止めが効かなくなっています。以前とは全く違う狂った眼をした従業員たちとコミュニケーションを取れないと判断

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「水郷」(三島霜川)

 主人公が白髪の老人に蛍谷に連れて行ってもらいます。川辺でホタルが光っている光景が印象的で、夢のような光景です。大きな蛍がたくさん飛んでいて、星の光かと見紛う程。写真で紹介されているものよりも大きな感動がありそうです。
 蛍谷は行ってはいけない場所と言われていましたが、理由は明らかにされません。白髪の老人が連れて行ってくれた理由も読者の想像に任せています。村へ流れ込んでいる川の水源なので、揉め事に

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「麦の芽」(徳永直)

 善ニョムさんはよく働く小作人です。リュウマチが痛みますが、何日も体を動かさないことのほうが苦痛に感じています。善ニョムさんが畑仕事をしているときに、地主の娘が飼い犬を逃がしてしまいました。運悪く麦畑に入り込んでしまい、怒ってしまう善ニョムさんの気持ちは理解できます。しかし、流石によく知らない相手にいきなり暴力を振るってしまうと助けることはできないです。結果として畑を取り上げられてしまい、善ニョム

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「父帰る」(小林多喜二)

 プロレタリア文学からは不気味なものを感じることが多いのですが、この作品も例に漏れず価値観の違いから受け入れづらいものを感じます。共産主義への弾圧による影響もあるだろうと思いますが、埋まりそうにない程の溝があります。当時の労働者が直面していた厳しい現実と現在の労働環境には大きな差があります。そのため、私にとっては共感しづらい話です。100年ほど前に比べてとても恵まれた社会だと思います。

「こんにゃく売り」(徳永直)

 「私」は小学五年生から、働き始めていました。学校に行くのが好きではありますが、少しでも暮らしの助けになるようにとこんにゃく売りをしています。子どもが働くというのはネガティブな印象がありますが、お金の価値を理解するためには早めに経験しておいたほうが良いかもしれません。
 「私」は学校に通っている子の中で自分だけが働いていることにコンプレックスを感じています。現在でも子どもにとっては周りと違うことが

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「級長の願い」(小林多喜二)

 戦時中の学校で、家庭の貧乏を嘆く級長のメッセージです。1931年12月1日のメッセージで、日中戦争が始まっていませんが、柳条湖事件の後なので戦争への機運が高まっている様子です。世界恐慌の影響がわかりやすい文章です。世界のニーズに対応できないことで不況になるのは今の日本よりも悪い状況です。格差が大きくなりながらでも経済成長が続くうちに良い経済循環に戻れるようになって欲しいです。

「争われない事実」(小林多喜二)

 共産党というものを知らない故郷の家族と、東京で共産党員として活動している健吉の温度差を感じる作品です。親孝行でおとなしいはずの健吉が監獄にいると聞いて家族は動転して健吉に会いに行きます。
 健吉が村で働くよりも監獄の中のほうが快適と言っていたので当時の農民の様子が気になりました。作品中に出てきた小作争議について調べてみると、戦前は小作人制度が残っていたそうです。プランテーションの労働者と同じよう

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「疵」(小林多喜二)

 「私」の娘が、共産主義活動をしていて何度も警察のお世話になっていました。レポーターという役割を担っている中で捕まっているようです。昔の共産主義活動家に限らず、警察の対応は厳しいものでした。娘の身体には無数の傷跡があり、母にとってトラウマになってしまいます。今では考えられないことなのでギャップを感じます。法に抵触しているので中々難しいことですが、個人的に暴力への忌避感が強いのでそういった手法を悪と

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「母たち」(小林多喜二)

 1930年12月1日に起こった事件によって逮捕された左翼活動家の視点で書かれています。家族は貧しくても気づかってくれていて、思想とは別に良い家族です。家族の絆や思いやり、人としての良い悪いということは、思想、宗教などとは切り離して考えたいものです。人が多くなるほどに同じ目標に向かって何かをするということが難しくなります。逮捕された方が国を良くしたいという思いで政治活動をしているのはわかります。国

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「虚弱」(三島霜川)

 虚弱体質の主人公にとって社会は生きづらいものです。今でこそ働き方の多様化が始まり、HSPなどの体質に合わせて働くことができるようになってきました。それができるのも通信技術の進歩があったからです。インターネットすら無い時代に身体が弱いということがどれほどのハンデになっていたのでしょうか。想像を絶するほどの苦しみだと思います。教育の格差も今より大きな影響がありそうですし、持たざる者にとって社会は地獄

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「テガミ」(小林多喜二)

 工場で働いている父親が事故で怪我をしてしまった君チャンの家族は、満足に食べることもできず衰弱していきます。母親の世話も虚しく怪我から半年で父親は死んでしまいました。その後、母親も栄養失調から死んでしまい、残された君チャンも衰弱しています。周囲の人たちは助けることもできず、見ていることしかできません。貧しい生活の苦しみが伝わってきてとても辛いです。
 壁小説として書かれた作品で、壁に貼って読んでも

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「北海道の「俊寛」」(小林多喜二)

 北海道の開拓時代にあった出稼ぎ労働者話のです。当然ながら昔は冬に土木作業はできないし、より厳しい冬だったので仕事が減ってしまいます。本州に帰れない人はとても辛い冬になります。お金も仕事もないうえに、仕事の取り合いになって人間関係まで悪くなってしまいます。各個人の事例がなくても苦しいことが伝わる話です。