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プラプラ堂店主のひとりごと⑱

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

琉球ガラスのコップ

 雪が降る季節になってしまった。今年2度目の雪景色。昨日までは比較的暖かい日だっただけに、寒さがこたえる。ぼくは、店の窓からぼんやりと雪を眺めている。ときどきパラパラと音がする。まだ寒さが本格的ではないから、アラレのような丸い雪だ。いつの間にか公園の芝生も、緑を残しつつ白くなってきた。また、冬が来るんだな。ぼくは胸の中に広がる、ある独特の気持ちを感じていた。この北国特有の気持ちは、なんと表現したらいいんだろう。雪かきやタイヤ交換などこれからの雪の大変さを感じる重さと、冬の景色の美しさ、家の中の暖かさの喜びと…。パラパラと音を立てていた雪は、今はもう、しんしんと降り続いている。こんな日は、お客も少ないだろう。

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 さっき珈琲を入れて飲んだばかりだけど、何か飲みたくなって流しに立った。さて。何を飲もうか。ふと、先日友達にもらった沖縄土産のコップを手にとった。薄いラムネ色の広口のコップ。ところどころ気泡があり、下の方は細かいヒビのような模様がきれいだ。高さは10センチくらいだろうか。少し思いけれど、すっぽり手におさまる。

「あれ、音がする…」

そう、まだ使ってもらいたいと願う古い道具たちが出す、あの音だ。これは新品のコップのはずだけどな。気になってネットで調べてみた。

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琉球ガラスは、沖縄で作られている工芸品で、再生ガラスを利用したものらしい。沖縄のアメリカ軍基地のコーラやビールの空き瓶を溶かして、再利用したのが始まり。戦後盛んになってきたそうだ。

そうか、このカップはもともと、アメリカの瓶だったんだな。いつ頃のものだろう。長い旅をしてきたいろいろなガラスたちが、また、こうしてひとつになったんだ。ぼくはカップを手に、じっと耳をすませた。

シュワ シュワ   シュワ シュワ …

シュワ シュワ   シュワ シュワ …

声にならないたくさんの音が聞こえる。

シュワ シュワ   シュワ シュワ …

「こんな寒い日だけどー」

ぼくは、小さな冷蔵庫からサイダーを出して、カップに注いだ。ラムネ色のカップの中で、炭酸の泡がシュワシュワと踊っている。ぼくは喉の奥でゆっくりと、このシュワシュワを楽しんだ。

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