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『竜とそばかすの姫』ディレクター考察③~恵とトモは、鈴が駆けつけるまでの半日をどう過ごしたのか~しがないテレビマンが勝手に語る【※ネタバレ注意】

ネタバレが止まりません!

さあ、今日も今日とて『竜とそばかすの姫』の考察をしていきます!

もう誰得なのか分からなくなってきましたが(笑)、自分の気が済むまで考察をしていきたいと思います。

今回も野村・ネタバレ・萬斎なので、これから観る予定の方やネタバレが大嫌いな方は、↓の中村佳穂さんの劇中歌MVを見て、一応この記事にスキ!を押して、立ち去っていただければ幸いです(強欲)

さて、本題に参りましょう!

今日のテーマは、

~恵とトモは、鈴が駆けつけるまでの半日をどう過ごしたのか~

ドラマを少し経験した、しがないテレビディレクターが、演出目線で勝手に考察させていただこうと思います。

竜(りゅう)のオリジナルである恵(けい)※cv佐藤健と、その弟トモ。
二人は東京の多摩川沿いの高級住宅地に住んでいて、父親のDVの被害から抜け出せずにいました。

そこに、高知県の片田舎に住む鈴(すず)が、仮想現実空間<U>を通して彼らの状況や身元を探し当て、現実世界で救いに行きます。

※このあたりのストーリーの流れについては、↓にざっくり書いてありますので、こちらをご参照ください。

このシーン、雨の中、鈴が駆けつけると同時にトモが坂の上に突っ立っていて、恵もその後を付いてくるかのように逃げ出してきます。

タイミング良っ!!

多くの人が、「ストーリーの都合」を感じたことでしょう!

鈴が雨の中で盛大に転び、挫けずに立ち上がると、トモの姿が見えるのです。「タイミング良すぎるだろ!」と心の中で叫びつつ、「なんでナイスタイミングで外に出て来たんだろう…?」と疑問に思ったはずです。

ポイントは「時間経過」

この謎を今回は、ドラマ制作において超重要な「時間経過」という考え方で、僕なりに考察していこうと思います。考察は3ステップです。

STEP①:映画内(脚本内)のヒントを集めよう!

STEP②:日時設定表を作ろう!

STEP③:何があったのか想像してみよう!

それでは、早速STEP①から考察の旅に出ましょう。






STEP①:映画内(脚本内)のヒントを集めよう!~脚本の読み方~

映像作品は、物語を成立させるための丁寧な設定・構成が為されているのが常です。

そのため、映像をよく見れば見るほどヒントが隠れていることが多いです。制作者側の理屈でもありつつ、お客さんに「あれ?おかしくない?」と思われないように整合性を確かめて、リアルを追求している場合が多いです。

今回のシーンを考察するにあたっても、▼夕方5時のチャイム、▼JR伊野駅、▼高知駅、▼夜行バス、▼多摩川駅…などなどたくさんヒントがありました!

このヒントを探し出すためには、演出サイドの意図やねらいを掴む必要があります。演出が映像を作るまでに行う基礎的なことをお伝えしてみようと思います!

「脚本の読み方」基礎講座~!!

テレビドラマの監督、助監督が、脚本をもらってまず最初にやることは、当たり前ですが「脚本をよく読むこと」です。

「少なくとも3回は読め」とよく言われます。ただ、漫然と読んでいてはいけません。3回とも違う目線で読むべきだ、と習います。少し脱線しますが、3回の読み方をまず説明させていただきます!

<1回目:お客さん目線で読む>

いくらドラマ制作者と言えど、最初に作品に触れる=初めて脚本を読むときは、純粋な心で、何も考えずに読みます。

この段階の大事なことは、どこが面白かったのか、逆にどこがつまらなかったのか、そして分かりづらいことはなかったのか。大きく分けてこの3つに注目しながら、注目しつつ単純に読み物を読むかのように初見で楽しみながら、読みます(この塩梅が難しい…)

気になる箇所には、線を引いておく。
でも線を引くことに囚われすぎてもいけません。
あくまで純粋に楽しむつもりで、自分の心がどう揺れたのか、この些細な反応を見逃さずに読むことがなによりも大事です。

ここで楽しんでおくことで、自分がどうやってそのシーンを魅せたいか、その指針・原動力を養うことができます。最初に感じた自分の感覚を映像作品に落とし込むのが、演出の仕事の楽しさです。

<2回目:役者目線で読む>

2回目は、役者の気持ちになって台本を読みます。とはいえ、多くの物語には何人か出演者が出てくるので、まずは主人公の気持ちになって読むのが定石です。

脚本の中の台詞を実際に演じるつもりで読んでいくと、どんな気持ちでその言葉を選んで話すのか、その言葉を口から出す前にどれくらいタメを作るのか、逆に怒りや楽しい気持ちのまま勢いよく早口で話していくのか…。

これに正解はありません。無限にパターンが考えられます。

しかし、役者は主人公の気持ちを演じなければならないので、監督は脚本作りの時から脚本家とストーリーを練り上げる際にどうして主人公は今の感情になったのか、ある程度の道筋を持っているはずです。主人公の性格やキャラ設定が確実にあるからです。

出演者が決まっているのであれば、その人を想像しながら読むのも良いです。大事なのは、読みづらいところがないか、どんな風な演技をしたら面白いのか、想像しながら読むことです。

演出サイドの人間は、撮影準備のために、それぞれの登場人物の気持ちになって何度も何度も読み返しています。

<3回目:演出目線で読む>

最後に残るのは、演出目線。目的はシーンの因数分解です。

このシーンをどのように見せていくのか、見せたいのか。そのためにどのような準備をするべきなのかを考えていきます。

因数分解の要素は、大きく3つ。
①人、②モノ、③時間 です。

①このシーンの登場人物は誰なのか、②美術(小道具)として必要なものは何なのか?、③このシーンは何月何日何時なのか?、これは確実に押さえておかなければなりません。

※助監督は、3色(4色)ボールペンを持って、よく脚本を読み込みます。赤は人、青はモノ、緑で時間など印をつけながら、因数分解していきます。

これらを整理しておくことで、撮影までに何をすべきかが明確になるんです!そのシーンに必要な出演者のスケジュールを押さえて、出番を連絡しなければならない、小道具を作るためのリサーチをして美術部に発注、時間を設定して時計の針を合わせる、また照明部に時間に見合った明かりを作ってもらう…。

実はこんな地道で時間のかかることを裏側ではしています(笑)

脚本を作る段階でリサーチ済のこともあるのですが、整合性を多くの人の目で確認しているのです。

前置きが死ぬほど長くなってしまったのですが、本題に戻って、何が大事かというと、これだけ練りに練られて映像に組み込まれているので、前後の映像に確実に何かヒントがあると考えて良いということです!

今回の恵とトモの半日を想像するためには、何時から何時まで彼らに時間があったのか、ということをまず考える必要があるので、脚本の読み方を長々と語ってしまいました。。

ここまで分かっていただけたところで、僕が一度だけ見た限りで、映画の中から見つけたヒントは以下の通りです。

▼夕方5時のチャイム(恵たち父親に乱暴される)
▼JR伊野駅(夕方、日が暮れそう)
▼高知駅(もう日が暮れている)
▼東京への夜行バス
▼多摩川駅(朝っぽい感じ)

これらのヒントを元に、STEP②に進みます


STEP②:日時設定表を作ろう!

さぁ、さきほどの脚本の読み方をした上で、日時設定表というものを作っていましょう!それぞれのシーンが、何年何月何日、何時何分、日は落ちているのか…などを考えていきます。

聖地巡礼をしてモデル地をまとめて下さっている方がいたので、こちらも参考にさせていただきましょう。

~空白の15時間~

僕の曖昧な記憶を元に『竜とそばかすの姫』をシーンごとに考えていきます。何月何日までは分からないので、そこは夏ってことで8月くらいとしておきます(適当)

恵・トモが父親に殴られそうになるビデオ通話の様子
※夕方5時のチャイム(物語上確定)
17:00

▼その後会話され、ベルが<U>上で素顔をさらしたライブ&恵たちとの通話切断。みんなで恵たちの居場所を突き止める@日高村立能津小学校
17:00~18:00くらい?(予想)

▼合唱団のおばさんたちの車でJR伊野駅へ→駅到着(夕暮れ)
18:20頃
(能津小→伊野駅は20分ほど)
※「飛行機はもう間に合わないない」と丁寧に説明

※能津小→高知空港は50分。19:00が羽田への最終便。チケットを買ったりなんだりを考えると無理と判断→夜行バスが最短。おばちゃんたちは高知駅まで送ろうかと言うが、全然間に合うから伊野駅で大丈夫!…みたいな会話があったと想定。

▼高知駅に向かう電車(鈍行)に乗る
伊野駅の時刻表を参照
18:26土佐山田行(予想)


※8月の高知だと19:00頃日の入りなので、18:26 or 19:00のどちらかに乗っているはず。19:00だと映画の表現上もう少し暗い?

~時間経過~
※18:49に高知駅着。
鈴は夜行バスのチケットを買ったり、ごはんを食べたりしてドキドキしながら過ごす。

▼日が暮れた高知駅・夜行バスが東京へ出発。父のメッセージ
夜行バスの出発時間を参照
20:10高知駅発→7:20新宿駅着

~時間経過~
※バスタ新宿に到着して、迷いながら最速で新宿駅に行けたとして7:47発のJR湘南新宿ライン・大船行に乗車と仮定。

▼朝の雰囲気漂う、東急東横線・多摩川駅に到着
8:17着(仮定)

▼駅からダッシュ、雨が降り始める。
迷いながらも川沿いの坂を登った住宅街へ行き、恵・トモと合流
※30分くらい探し回ったと仮定
8:45頃???

めちゃくちゃ勝手に予測していますが、おおかた間違っていないかと思います。ドラマ制作では、こんな感じの日時設定をエクセルで一覧にして、美術部・技術部の参考になるようにしています。たぶんアニメの世界も一緒だと思います。

このSTEP②で分かったことは、通話が切断してから鈴が駆けつけるまでの間に、恵とトモが父と対決しなければならなかった時間は、おおよそ18:00~翌9:00の合計15時間だったということです。

さて、この15時間のうちに何があったのか、STEP③超絶推測の考察をしていきましょう!!







STEP③:何があったのか想像してみよう!~恵とトモの15時間~

物語では、ライブ後、ベル=鈴だと信用し始めた恵とトモが、鈴たちに住所を教えようとしたところ、「何してんだ!」と父親が激昂して、通話を強制シャットダウンしてしまいます。

そして、次に恵とトモが画面上に姿を現すのは、雨の中、多摩川の家の前へ駆け出てきて鈴と合流するところです。二人とも服装は変わらず着の身着のままの状態でした。そして、トモ→恵→父親の順で登場。父親は「勝手に外に出るなと言っただろ」的なクズ台詞を吐いていました。

この間、15時間。
ひ、ヒントが少なすぎる…。。。ですが、
僕は、「2人の華麗なる脱出劇があった」と勝手に推測します!!

18:00頃、通話切断の後、おそらく父は通話していた事実・自分がDVをしている動画が送られてきた事実に激昂してPCを破壊する、2人を糾問する、殴るなどの行動に出ていたと容易に推測できます。自分の地位が危ぶまれる可能性も含め、かなり激おこだったことでしょう。

どの程度で怒りが収まったかは分かりませんが、恵とトモは、夜ご飯を食べさせてもらえたのかどうかも分かりません。今日は飯抜きだ!とか古風な嫌がらせをしている可能性もありますし、部屋の外から鍵をかけられるなどして監禁されてしまった可能性もあります。

生気を失った恵とトモですが、ベル=鈴の「助けたい」という思いがひっかかります。自分の本当の姿を晒してまで、自分たち兄弟を助けようとした鈴の勇気に背中を押され始めたのです。

自分たちはこのままではいけない。ネットの中で救いを求め続けているだけでは、どうにもならない。リアルな現実世界で動き出さないとどうしようもないんだ!

トモ、明日の朝、逃げよう。

※ここから僕の妄想が駆け巡りますので、おつまみ程度にどうぞ。勝手にスピンオフ作品です。

恵は、考えたのです。
”どうやったら父親の怒りを鎮めつつ、二人とも家の外へ出られるのか”

今の状況を分析する恵。飯を抜かれている。腹がすいている。部屋は外からロックをかけられて監禁状態。窓から逃げることは不可能。

おそらく家の造り上、父親を説得して、父親のいるリビングを通らないと玄関には行けない…。

恵はトモに作戦を伝えます。

「トイレ引きこもり作戦」だ。

作戦は、次の通り。
朝、リビングで物音が聞こえたら、父にドア越しに自分たちが悪かったと謝る。そして、夜ご飯を食べていないから限界だと伝え、朝ごはんを食べさせてもらえないかと懇願する。

そして3人で朝ごはんをいつものように食べる。食べている途中、トモは急に食事を取ったから消化不良でお腹が痛くなったふりをして、トイレへ行く。恵はトモを気遣って付き添いにトイレの前まで行く。

父親の死角にはいったすきに、まずトモをそっと玄関から逃がす。「大丈夫かー」と声をかけているフリをして、恵は家の中へ残る。父親がトイレが長いことを疑問に思い、確認しにくる。「ちょっと相当お腹痛いみたいだ」とうそぶき、もう一度リビングに戻す。その隙に、恵も玄関からそっと逃げるのだ。

「きっとうまくいくよ」と約束する2人。腹を鳴らしながら希望を胸に、静かに眠るのであった。

………

作戦決行の朝。

恵は昨夜考えた通りに実行をしていく。7:30頃リビングから物音。父親と交渉開始。8:15頃、朝ごはんを食べるまではうまくいった。

…が、1つ誤算が起きてしまう。物覚えが虚ろなトモが作戦を忘れてしまい、いくら時間が経っても、お腹が痛い演技を全くする素振りがないのだ。

※映画上、トモは体の大きさ・年齢にしては使える言語の数が少なめで辿々しいことを踏まえ、知的能力が若干低いと想定。

焦る恵。咄嗟の判断で作戦を変更!

ジュースを盛大にトモにこぼし、「ごめんごめん!」と洗面所へ。こぼした部分を一度洗ってやり、水を出したまま、トモを玄関へ連れていき、逃がしてやる。

自分も一緒に逃げようとしたが、父親からタイミングよく「まだなのか」と急かす声が聞こえてきて、「なかなかシミが取れなくさー」などと玄関前でしらばっくれる。

すると、父親が「お前らは自分で何もできやしない」などと言いながら足音が違づいてくる。

やばい!!心臓の鼓動がバクバクと打ち響く。

ドンドンと足音を鳴らし、洗面台を見に来る父親。水だけが出ている蛇口。バタン。ふと玄関の方を見やると扉が閉じた。父親は「あいつら!」と追いかける…!恵は間一髪で外へ逃げていたのだ。

僕が思いつきで書き連ねた、恵とトモの15時間は、こんな脱出劇だ。

一応、トモ→恵→父親の順で登場したという設定を守って書いてみた&雨設定だからジュースを洗ったトモのパジャマが濡れていないのでは?という疑問もクリアできている…。

が、父親が「勝手に外に出るなと言っただろ」という台詞だけは、ちょっと回収できていない気がする。恵とトモが逃げていたら、もっと怒っているような気もする。。。

ここまで作戦ありありの脱出劇をさせてみたが、案外鈴の行動に勇気をもらったトモが翌朝外に出ちゃって、恵がそれを追いかけて、それを父親が追いかけて…という風なシンプルな考え方がマッチしているのかもしれない。

ああ、時間の無駄だった(笑)
細田監督に聞いてみたい。。

こうやって考える余地を与えてくれる映画やドラマって楽しいですよね。何度見ても楽しめますし、勝手に想像させてもらえますし。

1つだけ僕ら視聴者が分かっておいた方がよいのは、間違いなく細田守監督の中は、この15時間に恵とトモに何があったのか、というストーリーがありますし、恵役の声優(佐藤健)、トモ役の声優、父親役の声優には絶対にこの間に何があったのか説明しているはずなんです。(というか原作の小説にもしかして載っている可能性すらある)

この映画には映っていない「時間経過」の部分の理解の仕方がそのシーンの見え方、役者の演じ方に大きな影響を与えるのは間違いないです。いわゆる「行間を読む」ってやつです。

登場人物の心情の流れを捉え、狙い通りにシーンを表現するために、演出(監督)と役者はコミュニケーションを密に取りアイディアを出し合いながら、二人三脚で作品を作り上げているものです。

まとめ

いかがだったでしょうか?

今回は考察と言いながら、僕の勝手な妄想に付き合っていただくことになってしまい、今更ながらお詫び申し上げます。お目汚し、失礼いたしました。

考察どうこうというよりも、物語(脚本)を映像にしていく上で、演出がどのような準備をしているのか、その一部分を見ていただく機会になればなーと勝手に上から目線で書いてみました笑

とはいえ、今回書いた作業は氷山の一角でして、ドラマや映画ではもっともっといろんなことを準備して撮影・収録に臨んでいます。

アニメ制作に関しても実際に1秒間に何枚もの絵を原画マン・動画マンが書いて、それをチェックして、編集して…となってくるので、膨大な作業の上に成り立っているに違いありません。

そこまでして苦労して制作するからには、お客さんには何も疑問を持たず世界観に浸ってほしい。茶々を入れる隙を作らず、しっかりとリサーチして設定を固めて、「面白い」と思ってもらうことが何よりも大事だと思います。

なんだかカタい内容になってしまいましたね!!しかもクソ長文!!5時間くらいずっとこの文章書いてます笑

とにかく『竜とそばかすの姫』は、何時間使ってでも楽しめる要素があるなーと思っています!細田守監督、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも応援しています!!

この記事が面白い!タメになった!へぇ~!と思って下さった方は、是非スキ!とフォローをお願いします。

余力があれば、もう一回くらい『竜とそばかすの姫』考察書きたいと思います。

それでは~!

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