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悲観主義のいいところを考えてみる

タイトルを見て、「悲観主義っていいことないのでは?」って思った方もいるかもしれません。そう思われがちな悲観主義の良い側面を検討した心理学の研究がありますっていうNoteを書こうかと思います。個人的に、「心理学って面白い!」と唸った研究テーマの一つです(私の研究テーマではありませんが・・・そして果たして興味ある方がいるのかは不明ですが書いてみます!)。

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●前向きなネガティブ思考

よく「楽観主義」は適応的で成功する人に多い、「悲観主義」は不適応的で成功しにくい、みたいなことが言われます。けど、「悲観主義って本当に悪い事ばかりなの?」っていう問いを立て、積みあがってきた研究について分かりやすくまとめたいと思います。

今日まとめるのは「対処的悲観主義」について。
※防衛的悲観主義と呼ばれることもあります。

対処的悲観主義(defensive pessimism)とは、「過去の似たような状況において良い成績を修めているにも関わらず、これから迎える遂行場面に対して低い期待をもつ認知的方略」(Norem, 2001)のこと。

つまり、ちゃんと成功体験もあるのに、「前も成功したから、今後もきっと成功するはず☆」とは考えず、「今後同じように成功するとは限らない。失敗するかもしれない。」と考えやすい傾向のことを指します。

対処的悲観主義者は、そもそも性格的に「不安が強い」人なのだそうです(岩永・横山, 2003)。なので、やらなければならない難しい課題を目の前にすると不安を強く感じるのです。
そこまでだと、「それって悲観主義なんじゃない?」って感じかもしれません。
もちろん悲観主義の種類の一つなのですが、生粋の(?)悲観主義と違うのは、下記のようなこと。

・過去の成功体験は否定しない
・将来のパフォーマンスに対して悲観的に考えるが、ポジティブな結果の想定も捨てない
・「××となったらどうしよう。そうならないために、○○しよう」という形で、積極的に課題に対処する

ここまで見ても、なんだか前向きな悲観主義ですよね。

●対処的悲観主義が成功をもたらす背景

対処的悲観主義者は、将来を悲観的に捉えるからこそ、課題に取り組む前にメンタルリハーサルをしたり、起こりうるネガティブな出来事に対する対処方法について広く考えを巡らせることをする傾向があるらしいのです(外山, 2011)。

まとめると、対処的悲観主義者の頭の中はこんな感じ。

「過去の成功は認める。ただ、今後も同じように成功するとは限らない。失敗するかもしれない。そのため、色々な可能性について幅広く考えよう。そして、失敗しないための方法を考えよう。」

ある意味、自分の性格として出てくる「不安」とか、物事を「悪いほうに考える傾向」を有効活用して、悪い事態に陥らないようにモチベーションを高めて課題に取り組む、ということになります。

そういったことから、これまで積みあがった研究では、対処的悲観主義者は楽観主義者と同じくらいの高いパフォーマンスを発揮することが分かっています。

対処的悲観主義と心の健康

じゃあ、心の健康の面はどうなの?っていう疑問も湧いてきますよね。パフォーマンスが良くても、だんだん精神的に辛くなってくるんじゃないか…とも考えられます。(個人的には成功云々よりもこっちのほうが気になる)

確かに、色々な研究で、対処的悲観主義者は「自尊心が低い」「不眠や頭痛の訴えが多い」と言われています。
そこに関しては、自分の思考スタイルを受容しているか否かが重要らしいのです(細越・小玉, 2009)。
要するに、「自分って結構悲観的で、悪い方向に考えがちなんだよね。でも、だからこそ対応をきちんと練れるし、そのおかげで成功してきたことも多々あったよね。だから、これも自分の戦略なんだと思う」みたいに思えていたら、自尊心や、心身の健康も維持できる可能性がある、ということなのかな、と思います。

これまでパフォーマンスの低下や不適応と強く結びついていると考えられてきた「悲観主義」。
だけど、その「肯定的な作用」を明らかにしたのが「対処的悲観主義」の研究です。
日本人は「悲観性」が強いと言われているので、この概念が生み出されたことで、結構多くの人の自己理解や、その結果、自尊心の維持に繋がるのだとしたら、とても意義がある研究だなぁ、と思いました。

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この研究をまとめながら思ったこと:これ読んで、面白いって思う人はいるのか?と自問自答しながら書きましたが、、私は楽しかったので満足です笑  最後までお付き合いいただきありがとうございました!「人間って一般的に○○だよね」とされていることに対して疑問を呈することができるところが心理学の面白みの一つだな、とこの研究をまとめながらつくづく思いました。そういう研究をしてみたいなぁ。

●引用した論文●
※雑誌名などは割愛します。ネット上で読める論文です。
細越寛樹・小玉正博(2009)悲観的思考の受容が対処的悲観者の心身の健康に及ぼす影響
岩永 誠・横山博司 (2003).防衛的悲観主義に関する研究──防衛的悲観主義尺度作成の試み
Norm, J. K. (2001)Defensive pessimism, optimism, and pessimism
外山 美樹 (2011)なぜ防衛的悲観主義者は成功するのか


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