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青いカフタンの仕立て屋(2022)

強い絆で結ばれた夫婦の切ない愛の行方
神秘の国モロッコから届いた大人のラブストーリー

日本で、モロッコの長編映画が初めて公開されたのは、今からわずか3年前の2021年というから驚きました。それほどまでにモロッコは日本から遠く離れた国なのでしょうか。

本作は、モロッコ特有の入り組んだ路地裏に佇む、伝統的な仕立て屋を舞台に、庶民の喧騒とイスラムの教えに根差した厳粛な雰囲気が交錯する、モロッコらしさに溢れた、美しくも切ない愛の物語です。

【ストーリー】
ミナ(ルブナ・アザバル)と夫のハリム(サーレフ・バクリ)は夫婦2人で、カフタンと呼ばれる、モロッコの伝統衣装の仕立て屋を営んでいます。寡黙なハリムは衣装の袖や飾りボタンなどに美しい手刺繡を施すカフタン職人で、快活なミナは接客係として店を切り盛りしていました。
ある日、2人は芸術家肌で腕のいいハリムのもとに次々に舞い込む注文をさばくため、ユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)と名乗る若い男性を助手として雇うことにします。
ところが、ミナは次第にハリムがユーセフに向ける視線が気になるようになります。そんな感情を押し込めるように、ミナはハリムと夫婦の時間を楽しもうとしますが、ミナには胸に秘めていることがありました。
病気が進行し、余命を悟ったミナは夫のためにある決断をします。

ミナとハリムの日常が淡々と描写されます。2人が置かれた状況を知るために、かなり想像力を求められますが、映像が物語を語る、まさに映画的な世界はシンプルでとても心地よいです。

実はハリムは同性愛者ですが、ミナとハリムは強い愛と絆で結ばれていることがわかります。ハリムは病気で苦しむミナを献身的に支えるのですが、ミナは、ハリムとユーセフとの愛を後押します。死期が迫る中、ハリムの幸せを心から願う健気なミナの姿に胸が熱くなります。

イスラムの戒律ではタブーとされる同性愛を盛り込んだ野心的な作品ですが、伝えたいことは、勇気を出して、自分らしく生きることです。ミナの愛を受けて、ハリムがとった行動とは?

ミナを演じたルブナ・アザバルは壮絶なダイエットを行い、病気で次第にやせていくミナを体現。女性らしい身体と共に、夫からの愛が失われることを恐れ、哀しみながらも、強く生きようとするミナを好演しています。

また、自らの愛の形に苦悩するハリムを『迷子の警察音楽隊』(’07年)のサーレフ・バクリが演じています。

監督・脚本を手がけたのは女流監督マリヤム・トゥザニ。日本で初めて公開された記念すべきモロッコ映画『モロッコ、彼女たちの朝』(‘19)は、彼女の監督デビュー作です。

『モロッコ、彼女たちの朝』は高い評価を受けたそうです。そして、2作目となる本作も、2022年カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞、米アカデミー賞外国語映画賞のモロッコ代表になるなど、世界的な注目を集めました。


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