60歳のラブレター(2009)
人生の終盤で気づく、本当に大切なこと
かけがえのない人のために贈る渾身のラブレター
3組の熟年のカップルが織り成す味わい深いラブストーリーです。
原案は、三井住友信託銀行が2000年より行っている同名の応募企画。「長年連れ添った夫婦が口に出しては言えない感謝の言葉を1枚のハガキに綴る」というピュアなコンセプトは、すったもんだの大人の世界で疲れ果てた人々の心に響いたのか、企画開始1年で書籍化、2年後には舞台化されるなど人気企画に。(2010年からは家族宛てでも良いそうです)
映画版の脚本を手がけたのは、『Always 3丁目の夕日』(’02~)シリーズで一躍脚光を浴びた古沢良太。『鈴木先生』や『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』など、以降コミカル路線で圧倒的な支持を集める古沢良太が、団塊の世代のラブストーリーを手がけているのはとても新鮮です。
傲慢な夫と、それを受け入れる妻。孝平ほどの傲慢さはないにしても、仕事にかまけて、家庭を守る献身的な妻の存在をおざなりにしている男性は、上の世代に行くほど多いのではないでしょうか。
身勝手な孝平が、会社の肩書きと家庭を失い、みじめなまでに落ち込む一方で、優しい男性と出会ったちひろが輝き始めるという展開は理想的過ぎるきらいはありますが、胸がスカッとします。
最も共感できるのは、正彦(イッセー尾形)と光江(綾戸智恵)の夫婦でしょう。魚屋を営む元気な2人は、いつも憎まれ口ばかり叩き合っています。熱烈な恋愛も今は昔、すっかり優しい言葉をかけられなくなった2人は、熟年夫婦の典型と言えるでしょう。でも、光江が病気になり死の淵をさ迷ったとき、心の中に静かに息づいていた2人の愛が姿を見せるのです。
独身同士の麗子と静夫(井上順)のカップルが体現するのは、年を経たからこそ、恋ができない熟年の姿。中学生の娘と暮らすシングルファーザーの静夫、肩肘張って生きてきたキャリアウーマンの麗子。2人は惹かれあいながらも、互いの気持ちを伝えられません。
仕事も家庭も順調で、若い頃に夢見た理想どおりの人生を送っている人ってどれくらいいるのでしょう。
ここに登場するのは、理想と現実の違いを知った6人の大人の男女。熟年離婚した夫婦、空気のような存在になった夫婦、妻を亡くしたシングルファーザー、独身のキャリアウーマン。夢中で生きてきた人生の途中で抱く彼らの挫折と虚無感、それらを乗り越える愛の力の偉大さがしっかりと描かれ、しみじみと心を打ちます。
失いそうになってようやく気づく真実の愛。「愛してる」なんて口に出せない世代の3人の男性が溢れんばかりの思いをこめて贈る三者三様のラブレターをしっかりと受け止めてほしいです。
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