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哀れなるものたち(2023)

自由を求める女性の刺激的な冒険
大胆で挑戦的な映像世界は驚きの連続

2023年度の第80回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞。今年3月に発表された第96回米アカデミー賞では、11部門にノミネートされ、4部門で受賞。複雑すぎる内面を持つ女性役に果敢に挑んだエマ・ストーンが『ラ・ラ・ランド』('16年)に続き、2度目の主演女優賞を獲得しました。

作品への高い評価は、社会にはびこる偏見や既成概念へのアンチテーゼのような奇妙な物語を、豊かな想像力を駆使し、大胆かつ刺激的なビジュアルで描き切ったからでしょう。

大人の体を持ちながら、知能は幼児という謎の女性ベラの奇想天外な冒険は、本当にぶっ飛んでいて、好き嫌いや賛否が分かれるに違いありません。

でも、観たことのない世界を体験できるのが映画の醍醐味。刺激的で挑戦的、幻想的で魅惑的な映像世界に圧倒されてほしいです。

【ストーリー】
ロンドンにある天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の邸宅で、ベラ(エマ・ストーン)は何不自由なく暮らしていました。科学と芸術に身を捧げたバクスターの家には、頭が鳥で身体が動物といった、バクスターの実験により生まれた奇妙な生き物が数多くいました。そして、ベラもバクスターの実験で、生を受けました。橋から身投げした女性の身体に、彼女が身ごもっていた赤ちゃんの脳を移植して、蘇生されたのです。
バクスターはベラの成長の記録係として、大学の教え子のマックス・マッキャンドレス(ラミー・ユセフ)を家に招き入れます。やがてマックスは純粋無垢で自由奔放なベラに惹かれるようになり、バクスターはマックスとベラの結婚を認めます。
しかし、結婚契約書の作成を依頼された放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ)が美しいベラを気に入り、「一緒に旅へ行こう」と誘惑します。すると、「世界を自分の目で見たい」と望むベラは、ダンカンとともに、ヨーロッパへ旅立つことに決めます。

映画冒頭ではまだ無知だったベラが、さまざまな国での体験や人々との出会いを通して、成長していく姿が描かれます。

食欲や性欲、知識欲など、生きるために必要な欲望を、本能のままに追求するベラに対し、バクスターやダンカンら男性たちにはベラを意のままにしようとする支配欲がみられます。そんな誤った欲望を持つ、驕り高ぶった男性たちの元から颯爽と飛び立ち、自立していくベラが痛快です。

露骨な性描写突拍子のない舞台設定に意味がわからず、不快になる人もいるかもしれません。しかし、終盤になるに連れ、この映画が伝えたいことに合点が行くでしょう。

さまざまな経験を乗り越え、高い自由意志と思考力を身につけたエマの成長を通し、“哀れなるものたち”とは、どんな人のことなのかが次第に明らかにされます。

エマは“哀れなるものたち”にふさわしい姿を与えていきます。特に、毒気の効いたラストには、笑いつつもドキッとさせられます。くれぐれも“哀れなるものたち”にならないよう生きようと自分を戒めました。

大胆な性描写に果敢に挑戦しただけでなく、ベラの心の成長をしっかりと表現したエマ・ストーンの役者魂に驚かされます。

監督は『女王陛下のお気に入り』(’18年)で注目を集めた鬼才ヨルゴス・ランティモス。斬新な視点で人間社会の真理を伝える、独創的なストーリーにすっかり参りました。

監督最新作『憐みの3章』('24年)もとても気になります。昨日発表された第77回カンヌ国際映画祭で、主演のジェシー・プレモンスが最優秀男優賞を受賞しました。**************************************************************************
【『憐みの3章』は2024年9月27日より日本公開】

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【エマ・ストーンの主演作なら、こちら👇もどうぞ】
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