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インビクタス 負けざる者たち(2009)※再掲載

“ノーサイドの精神”が生み出した奇跡の逸話を
クリント・イーストウッド監督が爽快に描く

本記事は2020年11月6日に掲載した記事を加筆修正したものです。2023年ラグビーW杯がいよいよ準決勝を迎え、大きな盛り上がりを見せる中、ぜひご紹介したい作品です。

W杯優勝3度を誇り、今大会でもベスト4へ進出した南アフリカ共和国は、立派なラグビー強豪国ですが、かつては不遇な時代もありました。

本作は、1995年のラグビーW杯で、南アフリカ共和国が初優勝した時の舞台裏を描いた物語です。
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監督を務めたのは名匠クリント・イーストウッド。『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』などイーストウッド監督の作品には、過酷な現実に打ちのめされた人々が、絶望の淵から這い上がろうと自身の正義を貫く姿を描きながらも、その結末には苦い痛みが用意されています。

そんな切なくて辛くとも、見つめなければいけない人生の真理を静かに伝えるクリント・イーストウッドの監督作品が、私は大好きです。登場人物たちの選択には、自分の身に置きかえて考えさせられることがたくさんあります。

本作の主人公、南アフリカ共和国の元大統領、ネルソン・マンデラもまた、絶望の中で正義のために闘った人間の一人ですが、本作の結末は未来への希望と人間愛に溢れています。

マンデラと南アのラグビー代表チームが、祖国の未来のために成し遂げた奇跡の逸話を、イーストウッド監督が爽快な感動作に仕上げました。

【ストーリー】
政治犯として27年もの間、投獄されたマンデラ(モーガン・フリーマン)は、1994年、アパルトヘイト(人種隔離)政策を撤廃させ、黒人初の南ア大統領に就任します。しかし、白人は黒人との融和に抵抗を隠せず、黒人は白人への憎しみを拭えず、両者の感情的な対立は続いたままでした。そんな状況を解決するために、マンデラは南アのラグビー代表チーム・スプリングボクスの強化に乗り出します。
南アフリカにとって、ラグビーは白人が愛好するスポーツで、黒人には憎きアパルトヘイトの象徴。マンデラは対照的な感情が交錯するラグビー代表チームを共に応援することで和解の道が開けると考えたのです。そして、マンデラの希望に共鳴したスプリングボクスの主将ピナール(マット・デイモン)は、弱体化したチームを立て直し、1年後に自国開催されるワールドカップでの優勝を目指します。

大統領警護班を黒人と白人の混成チームにしたり、身の危険を承知で早朝散歩を日課にしたり、人々の誠実な心を信じて行動するマンデラの日常と心の機微、そして、マンデラの政策に対する国民の反応を、イーストウッド監督は丹念に綴っていきます。

町の人々はもちろん、マンデラの側近や家族にさえも、白人と黒人の対立感情が根強く残り、和解の難しさを物語ります。しかし、人々の心は代表チームの快進撃と共に一つになっていくのです。

終盤の試合シーンは筆舌に尽くしがたい素晴らしさです。イーストウッド監督は、臨場感溢れるラグビーシーンに加え、人々の心の変化を、ユーモアを交えながらリアルに表現。対立していた国民たちの距離が徐々に近づく光景がより感動を高めます。南アの快進撃に盛り上がる人々の姿が本当にうれしそうで、私は何度見ても涙が出てしまいます。

「赦しが魂を自由にする」という信念の下、自らに不当な罪を課した白人を赦したマンデラ。穏やさの中にも確固たる意志を感じさせるマンデラを演じるのはモーガン・フリーマン。スポーツマンシップを発揮する聡明なピナール役のマット・デイモンも適役です。

“インビクタス”とはマンデラが愛した詩のタイトルで"不屈"を意味します。負けないために立ち上がった男たちには、「赦し」=ノーサイドの精神という、寛大な心があることも胸に刻んでほしいです。

2015年のW杯では、日本が劇的な勝利を果たし、2019年のW杯では、初めてベスト8勝ち上がった日本の夢を打ち砕いた南アのラグビー代表チームは、日本との浅からぬ繋がりを感じます。

イーストウッド監督作の中では、それほど大きな話題にはなりませんでしたが、本作を観れば、ラグビーへの見方が変わることでしょう。
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