見出し画像

Luminary Talk! vol.12 ソニー教育部門トップ・礒津政明さんにきく〜「VUCA時代に必要となる”自ら学び続ける力”(戦略的学習力)をどう育む?」〜

Project MINTでは、大人がパーパスを起点に新しいステージに移行するための学びのサポートプログラム・コミュニティを提供しており、特別パネルディスカッション「Luminary Talk」を開催しています。「Luminary Talk」では、Project MINTアドバイザーやパートナーの一人ひとりにフィーチャーし、ユニークな経歴を持つ彼ら・彼女たちのストーリーや変遷を、一般参加者を含む皆さんと共有しています。

今回はシリーズ第12弾 ー ソニー・グローバルエデュケーション会長 礒津政明さんにきく〜​​「VUCA時代に必要となる”自ら学び続ける力”(戦略的学習力)をどう育む?」〜 を開催しました。この記事は、イベントに参加したProject MINT修了生によるレポートです。

礒津政明さんプロフィール

株式会社ソニー・グローバルエデュケーション会長
教育フューチャリスト
2000年ソニー株式会社入社
ソフトウェア、ネットワーク、Web関連の研究開発に従事
2012年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所、2015年株式会社ソニー・グローバルエデュケーションを設立、現職に就く
2022年「2040教育のミライ」 を実務教育出版より出版

当日の流れ
冒頭で約25名のイベント参加者に対して、Project MINT代表の植山が提示したパネルトークテーマから、参加者に投票いただき、関心の高かった順に5つのテーマについて磯津さんにお話いただきました。

トークテーマ5つ

  1. 今の子供が成人する「2040年」どういう心持ちで迎えたらいい?

  2. 学びをアウトプットする行動を大人も子どももしていくようにするには?社会・組織・個人は何ができる?

  3. 大人が学ぶ上で大事なことを教えてください

  4. 子どもの教育や社会人育成に共通して大事なものは?

  5. 礒津さんがお子様の学びをサポートする上で心掛けていることは?

トークの後に、MINT1期修了生のライリーさんから、グラフィックレコーディングを共有してのセッションの振り返りがありました。まず、こちらをご覧いただいて、トーク内容を読み進めていただけたらと思います。

グラフィックレコーディングは、議論や対話の内容を、文字とイラストを使って同時進行で記録する手法です。(1期生・ライリーさん作品)
Project MINT代表 植山と礒津さん

トークテーマ1:今の子供が成人する「2040年」どういう心持ちで迎えたらいい?

「まず、環境を考えると民主主義の曲がり角にさしかかっていて、専制する国家が力を強めている。この動きはこれから20年くらい続くのではないかと思っている。政治的な背景は押さえておくことが必要」

「テクノロジーではインターネットの存在は大きい。世界は、ネット自体が状態を持たないステートレス時期から、2000年頃、web2.0の世界になり使い放題になり、今はネット自体が状態を持つステートルというように大きく変化した。
20世紀に書かれたSF作品の中には、AI(人工知能)、スマートロボット、自動運転など現代を予想しているものが多い。一方、SF作家でも予想できなかった技術にブロックチェーンがある。これからはブロックチェーンが社会を変える技術になるのではないかと思っている」

「​​インターネットはさらに大きく変わり、ウェブ3のような個人がエンパワーメントされるような社会になることを予想している。ウェブ3のテクノロジーを下地にしてバーチャルの存在感が増してゆき、2040年にはほとんどの活動がバーチャルで完結するようになっていると思う」

「未だにきれいに字を書く練習をしているのは日本くらい。だから子どもの教育を考えるときは必要となる技術やスキル先取りして考えておく必要がある」

「自動翻訳が進んできているので、これからはもっと楽に母語を使ってコミュニケーションができるようになる。感情をしっかり自然言語で表現する力が必要になる」

「仕事の仕方も変わる。工場労働の仕事でも家から一歩も外に出ずにリモートロボティクスで生産できるようになる。お金の流れている医療の世界ではすでに”ダ・ビンチ”のように遠隔地から外科手術ができるようになっている」

「これまでのブルーカラーがなくなり、ホワイトカラーの仕事も国を関係なくつながる働き方になる。何を価値として生み出すかが仕事の根本になっていく」

「AIが発達すると多くのことが最適化される。だが車の色が手入れの合理性で白に収れんするなど、最適ばかりでは違和感がある。人間が持っている多様性、直観での選択、人としてどうありたいかという個性が人間の武器になっていく」

「ウェブ3の世界観では、DAOは参加者がステークホルダーになって、一つの目的にみんなが参画できる状況になり、誰かが偉いというピラミッド型はない。これは分散型の自律組織なので、一人ひとりの選択が投票するように反映される」

トークテーマ2:学びをアウトプットする行動を大人も子どももしていくようにするには?社会・組織・個人は何ができる?

「民主主義の歪みによって格差が広がっている。日本では感じないが先進国では顕著。格差是正に対して個人ができることは、何を学ぶか?学んだことを何に使うか?何を目指すか?を考えて、アウトプットすること。誰かに与えられた学びは役に立たない」

「転職、起業などアウトプットする手段はある。個人が力を持つ時代になり、個人がアウトプット、表現活動することが大切になってくる。会社の制約は小さなことで、組織にしがみつくことを忘れてみると、できることはたくさんある」

「民主主義の歪みという意味では、日本では高齢有権者の票数を意識したシルバー民主主義が国を弱体化して子どもの未来を奪っている。先進国の中でもGDP比率で社会保障費が多く、教育費が少ない国になっている。それに負けないよう若い人が投票で意志表示することが大切」

トークテーマ3:大人が学ぶ上で大事なことを教えてください。

「大人は過去にとらわれず、これから学ぶことを大切にしてほしい。メンタルブロックを取り払うことは大切。”文系だからコーディングは無理、理系はビジネスは無理”、とやってみる前に諦めるのは、もったいない。自分の過去の学びを過大評価するのも問題で、以前に4年学んだことを「専門」と思い込まなくて良い」

「高校や大学の頃1年かけて学んだものは、今は動画を使って3カ月くらいで学べてしまう」

(植山)「ミネルバでMaster of Scienceの学位をとった。高校時代は文系選択をしていたが、改めてサイエンスメソッドとして、科学的アプローチを学び、それぞれ研究とはどの範囲についてどの程度分かった分かったとか結論といえるのか知ることができて世の情報を受け止める力が変わった。こんなユニバーサルなことは、皆が早く学べばよいと思った」

「数学に苦手意識を持つ日本人女子。実は日本の多くの女子高生の数学水準はグローバルでみると高くSTEAM(理数系教育)専攻に値するのに、今の試験問題が難しすぎて肯定感が得られず、もったいない。苦手意識なく学ぶことができれば、ジェンダーバイアスがなくなっていくだろう」

トークテーマ4:子どもの教育や社会人育成に共通して大事なものは?

「好奇心を持つこと。大人になっても幅広い好奇心を持って、実際に体験してみる。子どもは一人ではできないから、大人が環境を作って経験をさせることで可能になる。好奇心を育てるためには、たくさんのことを経験し、たくさんのことを知ること」

「習い事の選択は大人の世界観で決まっている。日本の習い事システムは、週一通うことが当たり前だったりするから、一定時期休むとやめてしまった感じになる。海外ではサマースクールで一定期間試しに学べたりする。子どもがせっかく好きで始めたことでも、(休むことが)やめたという感覚を植え付けてしまうのは、もったいない。やめることは悪いことではない」

トークテーマ5:礒津さんがお子様の学びをサポートする上で心掛けていることは?

「家族で日常的に話す時間を増やすこと。ビジネスの話や国際情勢なども話すことが大切。たくさんの話題を振って、子供も大人として対等に扱うことで、話してくれるようになり、子供が本当に思っていることが吸い上げられる」

「デジタルの環境を作り、タブレットなど早期からデジタルを与えることで自分の能力がレバレッジできることが必要な学び。子どもに3、4歳からipadを与えて、8歳でMacBookを与えた。8歳という時期は自分が子どもの時にコンピュータを触り始めた経験を基準にしている」

「子供は自分がPCを使ってみると、PCに計算させればそろばんはいらない?ということに気付く。何十桁という計算が早く出来るよりプログラムを書けると良い、とそろばん塾の先生に言っていた。手書きの宿題を出すことは、世界でも珍しい。それ自体をどう思うかを自分の子どもに考えさせてみている。当たり前に受け入れないで、疑問を持つことが大切という教育を大切にしている」

ここで植山から礒津さんが目指していること、パーパスについて質問があった。続いてMINT修了生のライリーさんからグラフィックレコーディングの共有があり、最後に会場からの質問に応え、熱いトークセッションの終了となった。

これから磯津さんが目指すものは?礒津さんのパーパスは?

「今は会社の経営だが、一方で個人としてできることを考えている。まだ漠然としているが、個人として事業をすることを考えている。沢山の人が喜んでくれるビジネスを作りたい」
「自分の人生設計は、就職した25歳の時点で15年区切りで考えようと思った。ソニーで会社員→別の会社→70代で個人でビジネスをやるという3ステージと考えている。今は次の15年の区切りまであと8年。次を考えて、社会に価値を与えられるように準備している」

グラフィックレコーディングの紹介

ライリーさんから、リアルタイムに描かれたグラフィックレコーディングが提示され、主な論点の振り返りがあった。見事な紹介に、磯津さんも参加者も感心した様子だった。

Q&A

ー日本の人が総じて苦手と思われるアウトプットが得意になる方法は?

アウトプットする場数を踏む。日本では場が小さい時から少ないのでとにかく作る。初めは大変だ、辛いと感じるだろうが、何度かやると慣れる

ー沢山の経験を与えることが学校の仕事、と理解しているが、子供がそれを必要と感じていない場合どうした良いか?

教員が子供に、今の社会状況を雑談の中で語り、算数など今の学びが社会でどう役立つか伝え、家庭での会話を補う。先生自身が社会に興味、接点が少ない現実もあるが、先生も好奇心を持っているのが大事。

ー教える側の成長の場はどう確保したらよいか?

特に公立の学校の先生が学ぶモチベーションが下がっているので、インセンティブが必要だが、制度的に外発的にも内発的にもそれが難しくなっている。この際あえて挙げてみれば、教えることをあきらめる、という選択肢がある。一斉配信の授業を使い、先生は現場でのケアに集中する。

ー1点を争う中学入試の話が出たが子供のアウトプット型の学びが評価されるような入試の仕組みに変わるには何が必要か?

入試、特に中学受験の仕組みには多くのステークホルダーが絡み変えるのは難しい。変わるきっかけは頂点にある東大入試しかない。そこはやっと一部に推薦が始まったばかりで全体は点数を争うペーパーテストで、選ぶ人材に多様性がない状態。この水準にある方々は東大をパスして海外に流出し、東大をスカスカにして変革するショックを与えて欲しい。

ライリーさんがグラフィックレコーディングを示しながら、聞いたばかりのお話を振り返っているところ

修了生運営メンバーの感想

MINT 1期生 Riley Riyo Harata(グラフィックレコーディング※担当)
※議論や対話の内容を、文字とイラストを使って記録する手法のこと。

私は子どもの放課後に関わるNPOに勤めていて、
『2040年教育のミライ』でも掲載されているロボット・プログラミング学習キット『KOOV(クーブ)』に熱中している小学生たちを何度も見たことがありました。
ですので磯津さんのお話をリアルタイムでお聞きできることをとっても楽しみに参加しました。

これからの大人と子どもの学びをどう考えていくか、
今の大人が子どもたちにできることは何なのか、
答えはないけれど、日本のこれからにも関わるとても大事なお話の場になると思い、

当日参加できなかった方も、この場から生まれた言葉や温度感を可視化して
一人でも多くの方に届け!という思いで
グラフィックレコーダーとして参加させていただきました。

戦略的学習とは”個性を表現すること”であり、
アウトプットありきということ。
「日本の今の大人たちは、数年間専攻していた分野など
過去の学びを過大評価しすぎている」という言葉に描きながらはっとしました。

今の時代いくらでも個人でアウトプットの場、表現の場を作ることができるからこそ、
「私文系だから、、」
「私専攻が違うから、、」
などとやる前からあきらめモードに入るのではなく、

大人も好奇心をもって実際にやってみること、
そして子どもにも好奇心を育てる環境を育んでいく大切さを
身に沁みて感じさせていただきました。

確かに最近「好奇心」を大切に行動していると、
パーパスの体現が加速しているしているように感じています。
背中をぐいっと押していただいたようなLuminary Talk!でした、ありがとうございました!

MINT5期生 Yasuhiro Nakui(ナッキー)

礒津さんとともえさんの対談イベントを知った時、熱いものがこみあげてくるのを感じました。

戦略的な学習についても、大人の学びについても、子どもの学びについても私の関心のど真ん中。学校教育、社会教育、企業内教育の3つの世界でずっと人材育成に関わっているので、拝聴している間何度も何度もうなづいていました。

MINTを通して、アップデートした私のパーパスは”Learnability is Refracting the Future”に落ち着きました。もちろん、これからこのパーパスはもっと進化するのだと思います。ずっとお互いに伴走した学びの仲間とコーチの力によって、過去に自分に向き合う中でまとめた「これだ!」と信じていた自分のパーパスを、一度本当に手放してみたこともやってみてよかったです。
礒津さんの話を聴きながら、次の自分の役目が解像度高く見えてきました。
「過去に学校で学んだことに縛られなくてよい」ということを早速家族にシェアしました。
ワクワクする対話の機会に参加できて嬉しいです。感謝を込めて。

MINT3期修了  川井美奈子

自ら学び続ける力「戦略的学習力」とは?ご自身のお子さんの学習進路がユニークというのはどんなこと?教育とテクノロジ―の関係とは?‥‥という興味をもって当日のお話を伺いました。

好奇心を持って、個性をどんどん表現していくのが戦略的学習力。親としては、子供のそれを見守るのが大切そうです。大人自身のこととしては、「今更これを学ぼうというのは無理かな」といった囚われを手放し、興味を持ったことをやってみるのが大事。自分の興味やためらいを受け止めて気付かせてくれるMINTの内省支援のコーチングや、実践や発表の場を作ってくれるコミュニティはとても大切だと改めて思いました。そして、大人も子供も、問いを立てる力がとても大切。ところが、日本では、前提になっていることを問われると、怒ってしまうなど対応できない大人や組織が沢山あります。政治や組織が変わりにくい構造があるけれど、そういうことを自分で把握することも、そして若い人がそこであきらめず選挙で自分の票を投じることも戦略的学習。そう伺うと社会と自分が代謝しながら相互に歩む感じがしてきます。

礒津さんのお子さんが、学校に新しい部の創設の提案をしたら、手続きが面倒という理由で放置されていたそうです。提案が先生の主張と違うからすり合わせよう、ではなく、黙殺するということは、学校が、学校での学びと社会をつなげるというとても大切なことを放棄しているということです。そこで子供が伸びて行ける環境を探した結果、海外に進学先を見いだしたのでした。

礒津さんがとにかくパソコンを身につけよ、と勧めるその心は、まずはITで解決できることが多いし、近いうちに多くのことがバーチャルで行われるようになるので先取りをしておいたほうが良いこと、他には、プログラミングに熱中することで、結果が出るまで粘り強く試行錯誤するなど、自分でプロジェクト型学習を行うことになり、クリティカルシンキング、すなわち物事の本質的な課題を見つけ、解決策へと導く思考がトレーニングされるからだということです。なるほど、学生時代に早々にプログラミングに取り組んでいた友人たちもそんな体験をしていたのか。私自身は今までプログラミングにうまくハマったことがないので、何かのきっかけでハマれるか、そうでなくても、好奇心を大切に、見つけたことをアウトプットしながら進もうと思います。

ミライも普遍的な価値観が大事 MINT5期生 りな(Sanagi Rina)

ソニーの教育部門トップによるトークイベントが開催されると知って、参加を即決した。「時代の最前線にいる磯津さんの考えから学びたい」。まず著書「2040教育のミライ」を手に取った。デジタル技術によって実現するであろう「未来の教室」が漫画でわかりやすく紹介され、読者のイメージを想起してくれる。「遠い未来の夢物語」と思うのは、今や間違いだろう。

ブロックチェーンやDAOなど技術的なことは別途おさらいするとして、最も印象的だったのは、磯津さんが大事にされていること。それは「メンタルブロックを外す」「好奇心を持つ」だった。メンタルブロックの方は、例えば「もう何歳だから、こんなことできない」などの固定観念を打ち破ろうという意味。好奇心については、これまでも様々な場面で語られてきたように「多方面に好奇心を持とう」というメッセージである。

そして、礒津さんの子供時代のエピソードが心に残った。「ソニーが超大好きで、電池一つ買うにもソニー製品しか買わなかった」という、ずば抜けたファン度である。好きなことをとことん極めることに通じているのではないかと感じた。

子どもたちには、大好きなことを見つけてほしい。そして、私自身も大好きなことを続けていこう。そんな個人的な思いと重なるトークが聞けて、勇気づけられた。「変化の時代も、普遍的な価値観が大事」と私なりに解釈した。新しさと普遍性のバランスを身につけて、未来に向かいたい。

こちらのイベントの全録画は下記のProject MINT Facebookページからご覧いただけます!ぜひ観てみてください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?