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Project U/0 #007

#007 天使の降誕 天使が生まれたんだ。 天使というのは実に抽象的な表現だか… その実、機械によって魂を拘束された存在だ。 しかし、その神秘性は誰もが納得するものだった。 天使に記憶はなく、言語も持ち合わせていなかった。 そして何と言っても、肉眼では見えないんだ。 当たり前と言われれば当然だな。 魂がそう簡単に見えるなら、 地上は魂だらけになっているはずさ。 だから、光を屈折させる特殊な培養液に入れ ようやく天使の姿が見えるようになったんだ。 しかし、それでは意

    • Project U/0 #006

      #006 死の救済 「救済実験…ですか…?」 「ああ、そうだ。」 アズマは戸惑った。 自殺志願者を救う事を実験と呼ぶのだろうか。 そもそも、救うことと科学的な繋がりが見えない。 「…証明したい事象があるんでしょうか?」 「人を救う、といえば少し大袈裟かと思うが…それが社会にもたらす影響を調べている。」 「科学的な実験ではなく、社会実験ということですか?」 「半分正解というところだな…。」 クジョウは改めて自席に腰掛けると アズマに近くに来るよう促すような視線を

      • Project U/0 #005

        #005 結縁の狼煙 「おはようございます。」 アズマは研究室に足を踏み入れると クジョウに向かって挨拶をする。 「ああ、おはよう。コーヒー飲むかね?」 「いただきます。」 「うちの研究室は飲食自由にしているから、ここのコーヒーや紅茶も好きに飲んでいいからね。」 「ありがとうございます。」 アズマはメラミン製のマグカップを受け取る。 一口つけると、苦味と酸味が口の中に広がった。 ふと、懐かしい様な気配がアズマの胸を擽る。 「匂いというのは記憶に深く結びついて

        • Project U/0 #004

          #004 暗闇に嘯く 「レイ、仲間ができそうなんだ。きっと我々の力になってくれる。」 「仲間ですか…?」 「ああ。既に入所時から第一条件を満たしていたようでずっと気にかけていたんだが、昨日から私の研究室所属になったんだ。」 「そう、じゃあその人にも私の声が聴こえるのね。」 「潜在的エンダーだとしても、自らの力でコントロール出来ているかはまた別の話になるがな。だがまあ、彼は優秀な様だからすぐに扱える様になるだろう。」 「…」 「不安か?」 「どうだろう…わからな

        Project U/0 #007

          Project U/0 #003

          #003 有限の幽けき 人は死んだらどこに行くんだろう。 毎日そればかり考えている。 綾、今どうしてるの? もう泣いてない?寂しくない? 「私は寂しくて死にそうだよ。」 もう随分、外に出ていない。 何日経ったかもわかっていない。 涙って枯れるんだね。 ずっと悲しいのに涙が出てこない。 私の綾への想いはこんなものなんだろうか。 情けなくなる。 綾はもっと苦しんでいたのかな。 考えれば考えるほど、わからなくなる。 彼女は前日まで笑っていたし 放課後は一緒にパフェを食べ

          Project U/0 #003

          Project U/0 #002

          #002 龍の憂 "501研究室" 扉の横の壁にはそう記されている。 ここがこれからアズマの研究室となる。 アズマは扉に近づく。 するとピピッという音が鳴りデバイスが認識される。 ほどなくして、扉が開いた。 研究室内は非常にシンプルだった。 学校の教室くらいの広さの部屋にデスクが一つある。 壁の一面は本棚になっている。 向かい合う壁はガラスだろうか、窓にも見える。 そして、一つ置かれたデスクに人が座っていた。 アズマはそれを認識した途端、感覚が研ぎ澄まされ、気を引

          Project U/0 #002

          Project U/0 #001

          #001  楼に上って 案内された先には大きな扉があった。 古い書物にあった、羅生門が現代にあれば このくらだったのだろうか。 来るものも去る者も拒むような 重厚な扉がアズマの前に鎮座している。 「この先が内部施設となります。私の案内はこちらまでです。あとはデバイスに従った行動をお願いします。」 続けるように「失礼します。」と一礼すると 案内役の研究員は来た道を戻っていく。 アズマは左手を見つめ、 軽く握ったり開いたりを繰り返した。 もう違和感は全くない。 デバイスを

          Project U/0 #001

          Project U/0 #000

          #000 Prologue 「...また、救えなかった。」 (また...” また ”?どうして、また救えなかったなんて...これが初めての救済実験だったのに。) ウーレイは自分自身の口をついた言葉に驚く。 「レイ...人の死に踏み込み過ぎるな、お前自身が辛くなるだけだ。」 「博士、私たちはこれから...こんなことを繰り返していくんですか?」 博士は机に置いた写真立てに手を伸ばす。 そして、静かに目を伏せると苦しそうに呟いた。 「そうだ。それが我々の一番の近道なん

          Project U/0 #000