Project U/0 #006

#006 死の救済



「救済実験…ですか…?」

「ああ、そうだ。」


アズマは戸惑った。
自殺志願者を救う事を実験と呼ぶのだろうか。
そもそも、救うことと科学的な繋がりが見えない。


「…証明したい事象があるんでしょうか?」

「人を救う、といえば少し大袈裟かと思うが…それが社会にもたらす影響を調べている。」

「科学的な実験ではなく、社会実験ということですか?」

「半分正解というところだな…。」


クジョウは改めて自席に腰掛けると
アズマに近くに来るよう促すような視線を向ける。

アズマは応えるようにクジョウの机まで歩く。

互いが正面に向き合うと、クジョウは口を開いた。


「まずは、昔話をしよう。」

「…昔話ですか?」

「ああ、まだこの国が絶望する前の話だよ。」


クジョウはアズマから視線を外す事なく話し始めた。



ーーー


君も知っていると思うが、60年ほど前
この国は電子戦争に敗北した。

もともと世界中で急速に発展していった
電子技術が世界的なネットワーク回線を
圧迫しつつあり回線の分配について
各国でさまざまな協議がなされていたんだ。

しかし、我が国と大国の同盟国は
自分たちの分配率を上げようと電子戦争を仕掛けた。
電子戦争というのは仮想空間で行われる
電子技術を用いた戦争のことだ。

そこで世界各国を敵に回し、大国と共に敗北した。

まあ、ここまでは君も教科書で学んだと思う。
しかし、歴史には続きがある。

敗北を機に、国中に絶望感が蔓延し始めた。
命は失っていないが技術やネットワークは失った。
外国との通信も途絶え、物流も激減
多くの人々が職を失った。

一方で、富裕層によるネットワークの売買等
利益の独占により、一般層との格差が広がった。

そして、それ以降自殺率は増加し続けている。

国も何も考えていないわけじゃないさ。
国民の信頼や国への信仰を取り戻すため躍起になって
「天使」を作ろうと考えたんだ。

はるか昔、外国で「天使信仰」というものがあった。
それを模倣しようと考えたのだろう。

しかし、現代で人々を納得させられるような
「天使」という存在を生み出すことは困難を極めた。
ネットワークも発達し、誰でも情報を得ることが
出来るようになったために嘘では誤魔化せなかった。

だから、誰もが信じるしかないような存在を
生み出すことが必要だったんだ。

そこで発足されたのが
"Project U/0 (プロジェクト ウーレイ)"

それは天使を生み出すためのプロジェクトだった。
古代に行われていた儀式と現代の技術を用いて
死者の魂を呼び出し、実世界に留める。

そして、その天使をU/0と呼ぶことにしたそうだ。

ちなみにウーレイというのは、
古代に死者の魂を表していた「幽霊」という言葉を
現代の発音に近づけたそうだ。

そしてU/0を生み出すため、何度も実験が行われた。
多くの魂を呼び出したが一向に定着しない。
現実に留めることが困難だったのだ。

長く定着できても1時間。
早いと一瞬で消えてしまう。
そして、長時間留まることが出来るケースを
分析し続け、魂の選別を行い、何度も実験した。

そして、月日は流れ40年前。
ついにU/0を生み出すことに成功した。


天使が生まれたんだ。





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