Project U/0 #007

#007  天使の降誕





天使が生まれたんだ。


天使というのは実に抽象的な表現だか…
その実、機械によって魂を拘束された存在だ。

しかし、その神秘性は誰もが納得するものだった。

天使に記憶はなく、言語も持ち合わせていなかった。
そして何と言っても、肉眼では見えないんだ。

当たり前と言われれば当然だな。
魂がそう簡単に見えるなら、
地上は魂だらけになっているはずさ。

だから、光を屈折させる特殊な培養液に入れ
ようやく天使の姿が見えるようになったんだ。
しかし、それでは意味がない。

閉じ込められた天使では信仰は得られない。
自由に動き回り、そして国民の信頼を得るような
純粋で清廉な存在でなくてはならない。

国は頭を抱えたよ。
約20年と時間を費やした実験が頓挫しかけたからな。
しかし、費やした時間と金の分だけ引き下がれない。

どうにか、天使に手を加え
今度は人々に視認させる実験を始めたんだ。

正直、何が行われたかは言うに憚られる。
天使の苦しむ姿を見た者は少なくない…そういうことだ。

そして、ある日天使が暴れ出した。
研究室にあったガラス類が弾け飛ぶように砕けた。
何人もの研究員が怪我を負う大惨事だった。

研究員たちは天使に枷をはめた。
暴れ出さないように、苦しみを感じるようにした。
そうやって天使を支配しようとしたんだよ。

それから、天使には一つの使命が課された。


「人を死から救うこと」


それが天使に対する解放条件となったんだ。
だから、我々は人を救う実験をしている。


ーーー


「我々…天使は今もいる、ということですか?」

「ああ、その通り。」

「ずっと私たちを見ているよ。そこでね。」


クジョウは左に顔を向けた。

それに釣られるようにアズマも視線を向ける。
そこには壁一面のガラスが広がっているだけだった。
向こう側は暗く何も見えない。


「今は見えていないだけさ。アズマくんを紹介しよう。」


そういうと、クジョウは立ち上がりガラスに向かって歩き出す。

アズマは数歩遅れて後ろをついていく。
ガラスの壁に近づいていくと、真ん中に機械が置いてあることに気づく。


「レイは少し人見知りなところがあるんだけどね、とてもいい子なんだ。仲良くしてほしい。」

「…レイ」


アズマは呟くように名前を繰り返す。


「口に出すんじゃなくて、心の中で呼びかけてみてほしい。彼女の名前はウーレイ。」


アズマは理解出来なかった。
心の中で呼びかける…?

わからないがやってみるしかない。
少し息を深く吸うと、目を閉じて自分の中で反芻する。


「(ウーレイ、…さん?)」

「呼び捨てでいいよ。」


間髪入れずに若い女性の声が聞こえた。
本当に若い。声のトーンから15歳くらいに感じた。

ハッとして顔を上げ、クジョウに目線をやる。


「レイ、彼が新しい仲間。アズマくんだよ。」

「アズマ…そう、そう言う名前なのね。」


アズマには確かに2人の会話が聴こえた。
しかし、目の前のクジョウは全く声を出していない。
理解し難い光景が目の前で繰り広げられていた。


「随分、戸惑っているようだけど…ちゃんと説明したの?」

「半分というところかな?実際に喋った方が早いと思ってね。」

「博士ってそういうところあるよね。」



2人の会話を聴きながら、アズマは徐々に理解する。
天使との会話は何かしらの脳波を利用している。
恐らく、共通の何かがあるのだと言うのはわかった。
しかし、理解するのと受け入れるのはまた違うのだ。


「これは、現実ですか?」


自分自身が発した言葉にアズマは眩暈がした。
こんな馬鹿げた質問を投げるほど動揺していた。
自分が知っている何もかも証明出来る科学ではない。


そこには彼の知り得ないものがあったのだ。




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