元AWSスペシャリスト西谷圭介氏とProgate CEO加藤將倫が考える、プログラミング学習の壁とその先の可能性
義務教育でのプログラミング教育必修化やIT人材育成のニーズ拡大など、プログラミング学習を取り巻く環境は近年大きく変化している。
本連載では、IT業界を牽引されてきた方や第一線で活躍されている方々とProgate CEOの加藤將倫が対談形式でプログラミング学習の意義や未来について紐解いていく。
今回お迎えしたのは、SIer、アマゾンウェブサービスジャパン株式会社を経て2021年6月に株式会社Singular Perturbationsの取締役CTOに就任した西谷圭介氏。Progateを知ったきっかけから、初学者時代の話、Progateへの期待などを伺った。
Progateとの出会いはAWS時代
ーー西谷さんがProgateを知ったのは、いつ頃のことだったのでしょうか?
西谷:アマゾンウェブサービスジャパン(以下、AWS)に在籍していた頃、スタートアップ支援やアプリケーションデベロッパーに対していろんな情報を発信していた時期があったんですが、その時に福岡で開催されたとあるイベントで加藤さんとご一緒したことがきっかけでProgateを知りました。
加藤:4年前ぐらいですかね。
西谷:そうですね。当時AWSではアプリケーションデベロッパー向けのサービスが増えていたので、そのあたりのコンテンツでProgateと協業できないかという可能性をディスカッションしましたよね。
加藤:懐かしいです。当時、Progateはどのような印象でしたか?
西谷:僕はAWSの人としてサービスを知ったので、1人ひとりコンテナ環境が立ち上がってブラウザの中でコードが書けるのは凄いな、どうやってオーケストレーションしているんだろう?と、コンテンツよりも仕組みに興味を持ちました。多分、当時はコンテナでユーザーごとにアイソレーションするというサービスはあまりなかったので、すごく印象的でした。
一度は諦めたプログラミング。再び背中を押したのは、“ものづくりへの思い”
ーー西谷さんは文系出身とのことですが、そもそもプログラミングを始めたきっかけはどういったものでしたか?
西谷:小学生の時に家にMacがあったんです。当時はMacintoshと呼ばれ、医者か弁護士のおもちゃと言われていた時代だったんですが、なぜか普通のサラリーマン家庭であるうちにもありました。単純に父親が好きで買っていたという話なんですが、僕も興味津々で。
その中にHyperCardというカード型データベースがあり、Macではそこでソフトウェアを作って配布するカルチャーがありました。次第に自分でも作ってみたいと思うようになり、チャットbotのようなものを作りました。今思い返すとすごくしょぼいんですが、入力したテキストに対して定型文の回答が返ってくるようなものです。ロボットアニメに出てくる人間と会話するコンピューターに憧れて作った感じですね。
その後もスクリプト言語を解説している書籍を読んだりはしましたが、インターネットもないし、周りに教えてくれる大人もいなかったので、早々に挫折してしまいました。
次にプログラミングに触れたのは大学生の時でした。経営学部だったので授業としてプログラミングを履修したわけではないのですが、僕が大学に入学した1997年当時はインターネットが世間一般で使われ始めた頃だったのと、自分はやはりものづくりに興味があると気づいて独学でプログラミングを勉強し始めました。
ーーどのように学習を進めていったのでしょうか?
西谷:基本的には書籍とインターネットです。僕の場合はプログラミングそのものを体系的に一から学んでいったわけではなく、「作りたいものを作るためにはどうやればいいのか」というところから入っていて。書籍で調べたり、ネットで調べた後にサンプルコードをコピペし、それを自分好みのものに直していく、というやり方をしていました。
加藤:僕も西谷さんと同じで、作りたいものが先にあって、色々試行錯誤しながらやるという方法で進めていました。進めていく中でわからないことがあった場合は周囲に頼れる人を見つけるようにしていたんですが、西谷さんは詰まったときどうしていましたか?
西谷:詰まったときは調べて何とかするか、場合によっては諦めるという方法をとっていました。やりたい方向性でうまく実装ができないときは、アプローチを変えてみるなど、元々のやり方を諦めて実現させるようにしていました。
文系の学部だったこともあって、周りにプログラミングについて聞ける人はいない。ネット上に質問できる掲示板はあったけれど、今ほどネット上のコミュニケーションが発達していなかったので、自分で試行錯誤してやらざるを得なかったんですよね。もちろん壁もたくさんあったけど、なんとか乗り越えてきたという感じですね。
ーーProgateではプログラムで世の中に価値を生むことのできる人を「創れる人」と呼んでいます。ご自身は、いつ「創れる人」になったと思いますか?
西谷:僕はプログラム1本だけで食っている凄腕プログラマーではないので、そもそも創れる人になれてるかは正直わかりません。けれど、一方でプログラミングの価値や、ソフトウェアの価値、それを作れる人の価値はわかっているので、ちょっと言い方は悪いですが、それらの価値をお金に変換することはできます。それができるようになってからは、ある意味創れる人になったかなって思いますね。
加藤:僕自身も価値を生めたなと思ったのが、初めて受託開発の案件で納品して、お金をもらったときだったので、感覚としては近いかもしれないです。自分が生み出したものでお金をもらう経験が衝撃的というか、すごく印象的だったんですよね。
サーバーレス推進の背景は、初学者時代の経験
ーー初学者がプログラミングを学ぶときに、課題やハードルだと思うことがあれば教えてください。
西谷:初学者が壁に感じることって、昔も今もあんまり変わらないのかなと思うんですよね。
今って参考になる書籍やネットサービスがいっぱいあるので学びやすくはなったものの、一方で「変数とはなんぞや」みたいな基礎的なことを理解しなければいけないのは変わらないし、ターミナルでコマンドを叩くこと自体が初めてだったりすると、本当にやりたかったことに辿り着くまでの大変さも変わらない。そういう昔から変わらずある壁のハードルを下げることが大事だなと思っています。
加藤:僕も同意見です。Progateも創業当時から環境構築を不要にするなど挫折ポイントを極力取り除くことで、最初の一歩を踏み出せる人を増やそうという思いでやっています。
西谷:僕もSIerの頃にアプリケーションをデプロイしたら動く環境を作ったり、AWSでサーバーレスを推進したりしていたのは、基本的にアプリケーションのデベロッパーがアプリケーションを書く以外のところに手間取らないようにするためでした。それは自分が独学でやっていた時、プログラムを書く手前のフェーズでたくさんやらなきゃいけないことが嫌だったという背景があります。
加藤:なるほど。そこの経験が生かされているんですね。
プログラミングは世界を変える道具。プログラミングが秘めている可能性とは
ーー西谷さんはエンジニア向けコミュニティを運営されたり、様々なイベントに登壇されていますが、西谷さんにとってイベントやコミュニティはどういった位置付けなのでしょうか?
西谷:僕にとってイベントやコミュニティは、技術力を向上させたり自分の知見を深めたりする場というよりも、各コミュニティーの技術テーマやトピックをキーワードにしていろんな人とつながる場という位置付けです。
自分の可能性を広げるための人との出会いや、自分のキャリアにつながるチャンスがあると思っています。実際、AWSに転職したのも、AWSコミュニティーに参加していたときに社員の方が「ソリューションアーキテクトをやってみませんか?」と声をかけてくれたのがきっかけなんです。当時はただ新事業のプラットフォームとしてAWSを利用することになったので勉強しようと情報収集をしていただけで、AWSにジョインするという選択肢は全くなかったので、まさかの展開でした。
加藤:なるほど。僕はあまりイベントやコミュニティには参加しないタイプなんですが、Progateでは「プログラミングは人生の可能性を広げる」ことを伝え続けているので、自分の可能性を広げるための人との出会いというのはすごくいいなと思いました。
今のお話以外に、プログラミングで可能性が広がったなという経験はありますか?
西谷:何か特定の経験があるというわけではないんですが、小学生のときに興味本位で触れたプログラミングが、途中で離れた時期はあったものの、最終的に仕事として今も触れていることを考えると、プログラミングそのものが少なからず人生の可能性を広げるきっかけになったと思います。
ーープログラミングを学ぶことによって、人や世界はどのように変わると思いますか?
西谷:プログラミングを学ぶ過程で身に付く思考の仕方、例えばロジカルな考え方などは現実世界を抽象化するときに役に立つのかなと思っています。
プログラミングだけで世の中を変えるのは難しいけれど、プログラミングを通して世の中の様々な事象や社会課題などにアクセスし、変えるための仕組みを自分の手で作ることができる。そんな風に、プログラミングは世の中を変える道具の一つに今後ますますなっていくのではないかと思っています。
Progateに求めるのは、メンタリングを含めた中級者向けコンテンツ
ーーProgateに期待していることがあれば教えてください。
西谷:プログラミングは誰でも気軽に始められますが、そもそもパソコンがわからない人や、環境構築がおぼつかない人など本当の初学者にとってはまだまだハードルが高いと感じています。
プログラミングをやりたいと思ったきっかけになった、例えば「これを作りたい」というゴールに到達する前に挫折する人ってすごい多いと思うんですよ。その点、Progateはコンテナで環境が出来上がっているので、最初からコードを書いて動かすところに触れられるのがとてもいいと思います。
ただ、初心者向けのコンテンツが充実している一方で、「Progateで学習したけど、次はどこに行けばいいかわからない」という声をちらほら聞くので、答えを提示するのではなくメンタリングを含めた中級者向けのコンテンツが出てくるとより良いのではないかなと思っています。
「Progateをやってみました!」という初学者の人がすごく増えてきているので、その一歩先に進むためのコンテンツサービスを提供いただけると、より良いプログラマーが増えるんじゃないかなと期待しています。
加藤:ありがとうございます。実はProgateとしても全く同じことを感じていて。環境構築などの一番最初のハードルを無くした状態でコードを書いてみる体験をしてもらって、まずは「面白いな、もっと学びたいな」と思ってもらいたい。
楽しいと思ってもらえた人には自分で環境構築をして、課題を発見をして解決できるようになってもらえるよう、もっと深い学びを提供できるような「Path」という新サービスをまさに今開発中です。
Pathというのは、ミッションである「Be the gate, be the path(※)」から来ています。プログラミングの世界への最初の入り口(Gate)となり、創れるようになるまでの最適な道のり(Path)を示すことを目指しています。
Gateは初学者向けのサービスですが、Pathはユーザーさんが詰まってしまったときに、適切なタイミングで適切に自走を促す、メンターのようなサービスにしたいと考えています。
西谷:独学でももちろんできるとは思いますが、導いてくれる人がいたら圧倒的に理解の速度は上がります。師匠と呼べるような人であったり、サービスであったり、そういう存在はすごく大事だと思います。
※:ミッション全文は「Be the gate to the exciting world of programming.Be the path to an independent coder.」カルチャーブックにも記載があります。
ーー最後に、今後挑戦していきたいことを教えてください。
西谷:まさにSingular Perturbationsにジョインした理由でもあるのですが、20年ぐらいこの業界にて、いろんな知見をそれなりに持てたと思うんですね。今度はその知見を社会課題の解決に直接結びつけたい、ソフトウェアの力で課題を解決したいというのがこれからの僕の目標です。
加藤:僕は今後よりグローバルに打って出るための重要なピースとして、先ほど話したPath事業を位置付けているので、そこに注力したいと考えています。西谷さんとお話して、より一層頑張ろうと思えました。ありがとうございました。
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