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経済

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2019年12月の記事一覧

MMTerと積極財政派の事実誤認

年末なので、MMTer、積極財政派・反緊縮派が「目から鱗」の誤りを犯している二点について再掲する。 一つ目は、政府が国債を発行して財政支出をすると同額の民間預金が生まれるというMMTerの主張について。 政府が赤字財政支出をするにあたって国債を発行し、その国債を銀行が購入する場合、銀行は中央銀行に設けられた準備預金を通じて買う。この準備預金は、中央銀行が供給したものであって、銀行が集めた民間預金ではない。そして、政府が財政支出を行うと、支出額と同額の民間預金が生まれる。つ

2018年度の日本経済と構造問題

内閣府から2018年度の「国民経済計算」が公表されたので、グラフを参考に示す。 国民所得国民所得(要素費用表示)は前年度比+0.8%の404兆円で過去最高を更新した。 国民可処分所得に占める家計(個人企業を含む)の割合は、前年度比を上回ったものの、低水準が続いている。 就業者1人当たり実質GDP就業者1人当たり実質GDPは前年度比-1%で、2013年度よりも少ない。バブル崩壊、金融危機、リーマンショック後の景気後退期よりも停滞が長期化する異例の事態が続いている。 雇用

積極財政派の認知の歪み

積極財政派・反緊縮派は政府の赤字(資金不足)がなければ民間部門は成長できないと思い込んでいるようなので、資金過不足の対GDP比のグラフで検証する。なお、企業の黒字・赤字はキャッシュフローのことであり、利益と損失ではないことに注意。 家計、一般政府、企業(非金融法人企業+金融機関)の三部門から二部門を対比する。 高度成長期は基本的に政府部門は資金余剰(黒字)だった。その後はバブル期を除くと基本的に赤字になっている。 1990年代後半からの家計の黒字の縮小に対応するのは企業

増税すれば名目GDPが増える?

高橋洋一が積極財政派・反緊縮派の「名目公的支出をa%増やせば名目GDPもa%増える」との主張を否定している。 名目GDPの伸び率と財政支出の伸び率は密接な関係があるが、これは財政支出が名目GDPの結果となるという因果関係を必ずしも意味しない。 むしろ名目GDPが財政支出の結果をもたらすという因果関係のほうが実務的にはしっくりする。 全くその通りである。 積極財政派のロジックでは「税収の伸び率と名目GDPの伸び率はほぼ等しい→増税すれば名目GDPが増える」とも言えてしま

現代貨幣の創られ方とMMTの事実誤認

現代のマネーは素材(紙やプラスチック)そのものはほとんど無価値の銀行券や、銀行の帳簿上の情報で物理的実体のない預金の信用貨幣だが、何らかの価値のある「資産」が裏付けになっている点では、金貨や銀貨など素材に価値がある実物貨幣(商品貨幣)と変わりがない。 例えば、普通の勤め人が銀行から住宅ローンや消費者ローンを借りる場合には、銀行はその勤め人の稼得能力を裏付けとして預金通貨を発行する。 From an economic viewpoint, commercial banks

高度経済成長は外資依存という歴史修正

どうもこの辺り(⇩)が出所のようだが、日本の高度経済成長は海外からの借金に支えられていたという歴史修正を信じ(たがっ)ている積極財政派・反緊縮派がいるようである。 (23:30~) 佐藤も断っているが、ガリオア援助(Government and Relief in Occupied Areas)とエロア援助(Economic Rehabilitation in Occupied Areas)はその名の通り、アメリカが占領期間に日本の飢餓疫病・社会不安防止、経済復興のために

公的支出とGDPの相関関係

いわゆる積極財政派・反緊縮派の「名目公的支出をa%増やせば名目GDPはa%成長する」との主張についてこちら(⇩)では国際比較を行ったが、今度は日本とアメリカの時系列データで検証する。 国内総生産=民間需要+公的需要+純輸出 なので、この主張は「公的需要をa%増やせば民間需要+純輸出もa%増える」と言い換えられる。 日本 アメリカ 解釈は読者にお任せする。

日本人に貧しさをエンジョイさせたい毎日新聞

毎日新聞の社説が政府予算を「身の丈」に合わせてダウンサイジングせよと、橋本龍太郎のようなことを書いている。 税収全体も63兆円台と今年度を上回るという。 それでも歳出を賄うにはほど遠い。 歳入の1/4が特例公債金(赤字国債)なので「借金漬け」ということになる。 消費税率が3%→5%→8%→10%と引き上げられる一方で、法人税率は引き下げられている。仮に、1990年代半ばまでの税率だったとすると、法人税収を2倍近くに増やせることになる(あくまでも他の条件は一定だが)。

実質GDPが増えても庶民が豊かにならない理由がわかる5つのグラフ

下級国民の実感からは乖離しているかもしれないが、日本の1人当たり実質GDPはバブル崩壊後に伸び率は低下したものの、着実に増加している。1998年度→2018年度の20年間では約1.2倍である。 完全失業率もバブル崩壊前の水準に戻っている。 しかし、平均給与は2018年にリーマンショック前の水準を回復したものの、ピークの1997年を7%下回っている。 実質ベースではピークから9%も少ない。約30年前の水準に逆戻りしている。 分布も全体的に下方シフトしている。 男女計

税・社会保険料・金融資本主義

国税+地方税と社会保険料収入をグラフに示す。所得税には個人住民税、法税税には地方法人二税を含み、消費税の1988年度以前は物品税である。 税収のバブル期のピークの1991年度と2017年度を比較する。 消費税+社会保険料とその他に二分すると、前者は増加、後者は減少している。 消費税と社会保険料の大幅な増収は、社会保障給付の増加に対応している。 もう一つの要因が金融資本主義の浸透である。「労働に対する税金」に対応するのが社会保険料。 国家は課税政策のバランスをとる能力

銀行の信用創造/MMTの国債廃止論

マネーに関する記事を三つまとめて取り上げる。 銀行は無から預金を創造しているのか銀行がバランスシートを両建てで拡大させる信用創造では、預金は無(out of thin air, ex nihilo)から創られるのではなく、資産から創られるという内容である。 When banks create money, they do so not out of thin air, they create money out of assets – and assets are far

WSJの歴史修正

また同じネタになってしまうが、WSJも日本経済の歴史を修正している。 日本の経済政策において歴史は繰り返す。1度目は悲劇として、2度目は茶番として。1997年と2014年の消費税増税がいずれも同じ効果をもたらしたことを踏まえれば、増税が景気回復に水を差したときに政府はいいかげん驚いたふりをするのをやめるべきだ。 実質民間需要の1997年4月の引き上げ後と2014年4月の引き上げ後の推移を比較すると、落ち込みの大きさと期間、前後での成長率の変化が全く異なる。 引き上げた四

チャン・ハジュンの一般向け経済学講座

『世界経済を破綻させる23の嘘』や『経済学ユーザーズガイド』の著者장하준が一般向け経済講座がなかなか良さそうなので紹介する。英語字幕付き。 まだ一部しか見ていないのでコメントは後日に。

工作機械受注の大幅減を消費税のせいにするのは短絡的

景気の先行きを示す工作機械受注額が10月、11月と前年同月比で大幅に減少したことや、今年度の税収が当初見込みを下回ることを「消費税率引き上げのせいだ」と騒いでいる人がいるが事実誤認である。 工作機械受注額の前年同月比は2017年末~2018年初にピークアウトしてから下落を続けており、消費税率引き上げはその流れに乗っただけである。 認識しておかなければならないのは、内需よりも外需が多いことと、内需が外需に左右されていることである。そのことは、東日本大震災や2014年の消費税