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安達太良山縦走

《山行概要》
奥岳登山口(07:30)⇨薬師岳(08:00)⇨安達太良山山頂(08:45)⇨鉄山(09:25)⇨湯の花採取場(10:00)⇨8の字交叉ポイント(11:25)⇨くろがね小屋(11:45)⇨奥岳登山口(12:30)

総距離:20.8km
累積標高:1,434m / 1,426m
日付:2022年5月25日

山行地図(注1)

詩人高村光太郎が最愛の妻智恵子の死後著した詩集「智恵子抄」に納められた「あどけない話」は、東京の空を見つめる智恵子が述懐する郷愁を綴った詩です。以下、深田久弥「日本百名山」から孫引きします(原文縦書き)。

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智恵子は東京に空がないといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
……………
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅あたたらやまの山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
《深田久弥「日本百名山」21.安達太良山》
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この日は夜明け前自宅を車で出発。東北道を一路二本松へと向かいました。

東の空が白み、徐々に空全体が明るくなってきましたが、残念なことに切れ目ない一面の低い雲に覆われていて、これでは「ほんとの空」は期待できないなと、半ば諦めました。

二本松ICをおりても空模様は変わらず、いよいよ本格的に諦めました。ところが、岳温泉の中心街を通り過ぎ、奥岳登山口へと続く林道をぐんぐん登っていくと急に雲を抜け、たちまち眼前に紺碧の空が広がりました。

安達太良山には何度も来ていますが、これ以上の青空は見たことがありません。つい先ほどまでの諦めはどこへやら。駐車場に車を停め、あまりの清々しさに出発の準備も忘れて、しばらくの間空を見上げてしまいました。

奥岳登山口は安達太良山の東に位置し、その先には智恵子の生家がある二本松市があります。すなわちここからは、智恵子と同じ空を見ることになります。じっくりと、この青さがどこから来るのかを考えました。

そして、ここからは、東から登る太陽を背にして、西の空を見上げることになるのだと気づきました。太陽の周辺は放たれた強烈な光で色が薄まりますが、遠く離れた空はその撹乱がなくなり、青が濃くなります。

なるほど、これが智恵子の「ほんとの空」なのですね。今日は出発から諦めていたので、感慨もひとしおです。

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あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈あぶくま川。
……………
ここはあなたの生まれたふるさと、
あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒庫さかぐら
それでは足をのびのびと投げ出して、
このがらんと晴れ渡つた北国きたぐにの木の香に満ちた空気を吸はう。
……………
あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川。
《高村光太郎「智恵子抄 樹下の二人」より。深田久弥「日本百名山」21.安達太良山から孫引き(原文縦書き)》
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俄然登る気が湧いてきました。深田久弥と同じく、「あれが安達太良山」とつぶやいてから出発します。

序盤はゲレンデをひたすら登り、途中から薬師岳まで、灌木に切り開かれた山道を進みます。この時期、安達太良山は雪解け後の本格的な春を迎えます。あちこちで春の到来を告げる花々との出会いがあります。

そして、安達太良山山頂に到着。「日本百名山」にて深田久弥は「霧に包まれて眺望は得られなかった」のですが、ここからは360°遮るものが全くない大パノラマを望むことができます。特に、ここから望む、裏磐梯の湖沼を従えた磐梯山と冠雪した飯豊いいで連峰の眺めは秀逸のひとこと。

そして山頂を後にし、ハイライトである沼ノ平(爆裂火口)へと歩みを進めます。この、地球が秘めるその強力なパワーを剥き出しにした、どこか日本離れした絶景は、いつ見ても圧巻です。

今回もいつもと同じく爆裂火口を一周。そのあとくろがね小屋を経由、8の字にぐるっと周回。そしてあだたら渓谷自然遊歩道を散策し、奥岳登山口まで戻りました。

そして、今日のご褒美温泉は、奥岳登山口至近の「あだたら山 奥岳の湯」です。ここは、鉄山直下の源泉から引き湯していて、完全掛け流しの温泉で湯浴みを堪能できます。pH2.5の強酸性の単純温泉ですが肌触りよく、香り爽やかで湯上がりもさっぱりして気持ちがいい。安達太良山の自然の恵みそのものの、素晴らしい温泉です。このためだけでも来る価値があります。

奥岳登山口を出発。
奥岳登山口から、安達太良山を見上げます。
道中の曇り空が嘘のような、素晴らしい晴天です。
登山口ではタニウツギがいっぱい咲いていました。
ミヤマオダマキ。磐梯山など、福島の山でよく見かけます。
チゴユリが咲いています。高尾山でもよく見かけます。
薬師岳手前の眺望地点まで上がってきました。
東の空を見ると、一面低い雲に覆われています。安達太良山までの道中、ずっと曇り空だったワケがわかりました。この雲の下を移動していたんですね。
振り返って、西の空。安達太良山方面。素晴らしい晴天です。
なるほど、これが智恵子がいつも見ていた「ほんとの空」なんですね。行きの曇り空で諦めていた分、感激もひとしおです。
オオカメノキ。別名ムシカリ。奥多摩三頭山に、その名も「ムシカリ峠」という峠があります。国内の山地帯で多く見かけます。
残雪を横切ります。
安達太良山山頂すぐ手前の、眺望スポットから、二本松方面。引き続き、雲が低く覆っています。
安達太良山山頂は遮るものが全くない360°の大パノラマ。
北西(沼ノ平)方面の眺望。
遠景には左から磐梯山、飯豊連峰そして吾妻連山の峰々。
奥に磐梯山。安達太良山からは直線距離で20kmほど。
磐梯山をアップ。荒々しい爆裂火口が見えます。
中心奥に飯豊連峰。右の方に吾妻連山。
それぞれ直線距離で概ね60kmと15kmほど。
飯豊連峰をアップ。その美しさで登山愛好家の憧れを集める、日本屈指の大山脈です。2,000mを超える峰々が連なり、朝日岳とあわせた山塊は日本アルプスを除けば本州では指折りの巨大な山脈で、日本有数の豪雪地帯であることも相まって、その重畳たる峰々を縦走するには緻密な計画と熟練の技術が問われます。
山頂から、南方面の眺望。視界が良ければ、筑波山まで見渡せます。
安達太良山登山のハイライト、沼ノ平(爆裂火口)に到着。
この日本離れした、迫力満点の絶景は何度見ても圧巻です。
今日は天気にも恵まれて、いつも以上に素晴らしい。
稜線上では、ミネズオウが満開でした。
この時期、安達太良山の稜線上ではミネザクラ(タカネザクラ)が満開を迎えます。
沼ノ平のほぼ反対側まで回ってきました。ここから一旦山をおります。
奥の方、写真の中心からやや左側に見えるピークが先ほどまでいた安達太良山山頂。
眼前には、磐梯山と飯豊連峰の勇姿。
あっ!イワカガミです。国内の山地帯から亜高山帯まで広く分布しています。
硫黄川は沼ノ平から湧き出る温泉が混流するため、白く淀みます。
湯の花採取場の樋に流れる温泉。熱そうです。それにしても、湯量豊富。
ゴゼンタチバナも、国内の山地帯から亜高山帯まで広く分布しています。
この時期、安達太良山を代表する花のひとつです。ムラサキヤシオツツジ。
湯の花採取場からの登り返し。だいぶ戻ってきました。
沼ノ平の反対側まで戻ってきました。8の字ラウンドの交叉ポイントまであと少しです。
人気の山小屋、くろがね小屋。まもなく建て替えられると聞いています。
この時期安達太良山ではあちこちで観察できる、ショウジョウバカマ。
こちらはオオタチツボスミレ。安達太良山では比較的よく見つかります。
距が白く(タチツボスミレは紫色)、花も葉もタチツボスミレと比べて全体的に大柄。葉はタチツボスミレに比べると艶やかで、上面は葉脈がはっきりと窪んでいて両面とも無毛、縁は波打つ。
コブシの花が咲いていました。
花の付け根に小さな葉っぱを一枚つけるのがコブシ。葉っぱをつけないのがタムシバ。
それ以外は両者そっくりで、極めて区別が難しい。
ここからしばらく、新緑眩しいあだたら渓谷の清涼な景色をご覧ください。
あだたら渓谷①
あだたら渓谷②
あだたら渓谷③
あだたら渓谷④
あだたら渓谷⑤
魚留の滝
本日のご褒美温泉は、奥岳登山口至近の「あだたら山 奥岳の湯」です。鉄山直下の源泉から引湯した、安達太良山の恵みである強酸性単純泉の掛け流しを楽しめます。露天風呂からの眺望も素晴らしい。


(注1)
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出典:国土地理院ウェブサイト(地理院地図:電子国土Web)
GPSデータに基づく軌跡を描線。

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