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【読んだ本の話】一田憲子さんの「大人になってやめたこと」から緩やかな衝撃を受ける


明日でいいことは今日しない

さてさて。

私はまだ人生半ば、折り返し地点なので。「これまでの人生はこれでよかったのか」と思ってしまうし、大成なんて程遠い、世界の片隅で密やかに生きていることを満足もしていなければ憂えてもいない宙ぶらりんな状態です。

そんな自分が、ライターの一田憲子さんのことを「いいなあ、すごいなあ」と思うことは自然なこと。著書を何冊も出していて、暮らし周りのライターとして名を挙げていて、今まで知り合った何人かのライターさんが「憧れはあの人」と言っているのを聞いたことがあるから。

一田さんが語っていることは、とてもとてもふつうのこと。

彼女が紡ぎ出す言葉は、耳馴染みのいい、私もよく使う言葉。

でも、やっぱり全然違うのは、「遠回りを繰り返してたどり着いた答え」だからなのと、自分の目で見て自分の頭で考えて、自分の言葉で表現しているから。

最近読んだ「大人になってやめたこと」という本は、読みやすくて、でも深くて、とても共感できるのでした。


この本の中に「明日でいいことは今日しない」という格言が出てきます。

その言葉を知っているけれど、私はずっと実行できませんでした。一田さんもそう。だけど、彼女はついに50代にして手放してみた(つまり早く早くと業務を先に進めるなどの無理をすることをやめた)ら、とっても楽になって、心に余裕ができたという話。

そして、その姿勢こそが「本当の幸せ」に近づくためのヒントなのだそう。

vison hotel のテラスでコーヒー

自分のことを書くことの勇気

一田さんが自分の失敗談を書いたエピソードの一つに、こんな話がありました。

ある出版社に企画を持ち込んでエッセイを出そうとして、取材をして原稿を書いて編集者に渡したら。「これ違います。これじゃただの取材記事です。あなたの言葉で書いて」と戻され、その企画はおじゃんになってしまったそう。

とても悔しくて、とても泣いたと書かれていました。

それ、本当に難しいお話。

友人知人のライターさんから

「私自身に言いたいことなんて何一つない。ただ、仕事だから書いている」
「取材対象が言ったことをまとめればいいから、私の中に意見は必要ない。自分のことを自分の言葉で書くのは難しい」

などと聞いたことがあります。

自分の考えていることを、自分の言葉でまとめて、世に出すこと。それは実はとても勇気がいることだと思います。

そのステージを乗り越えたから、一田さんは今、こんなに著書を出されているんだろうなあと。そしてそのためには、たくさんのことを手放してきたのだろうと思うのです。

知人がバジルを乾燥させるために作ったボックス

その先を期待しない。今ここにある幸せを思う

そして一番胸に残ったのは、次の言葉。

今度は「いい仕事をしたら幸せになれるだろう」と考えました。少しでも有名な雑誌に記事を書き、たくさんページを担当し、少しは名が知られるライターになる。でも、一体何冊ぐらいの雑誌に記事を書き、どれぐらいのページ数をこなしたら「幸せ」と言えるのか、いつまでたってもその答えは見えませんでした。

扶桑社文庫「大人になってやめたこと」一田憲子著 p100

有名になれば幸せなのか。
記事をたくさん書けば大成するのか。
本を出せばゴールなのか。

いや、違うなという答え。

毎日のご飯が美味しくて、両親が元気でいてくれて、散歩をしたときに吸った空気が気持ちよくて、すれ違った人と挨拶すると元気になれる。

そういうものがゴロゴロその辺に転がっていて、それを「いいなあ、幸せだなあ」と思えることが幸せなのだと。

幸せは日常の中にある。
そして「もっと、もっと」と求めることを少し休んで、心に余白を作ることが大切じゃないかという考えが綴られていました。


秋葉山の上社。ロケーションが最高です

さてさて。

私は全くそんなレベルまで到達していないので「そういうものか」と思いながら読みましたが。

例えば本棚にいつも本がぎゅうぎゅうに入っていると、それ以上本を買うことができなくなります。それと同じように、
「いつもフル稼働で仕事をしていたら、もっと興味のある案件が来ても挑戦できない」
とか、
「24時間ぎちぎちに使っていると、コーヒーを飲んでホッとする時間が作れない」
とか、そういうことは理解できます。

多分そういうこと。

ぎゅうぎゅうパンパンな日々を過ごしてしまうと、それをフィードバックする余裕もありません。

ほんのちょっと余裕を作ることで、人生はもっと幸せになれるよ。だからいらないものは手放そうね。

そんな一田さんの優しい言葉から、ゆるやかな衝撃を受けるのでした。

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