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使えば使うほど味が深まる「経年変化」する僕らの世界。

令和が始まってすぐ後に僕は38歳の誕生日を迎えた。

 いつ終わるとも知らされぬまま、どこまでも歩いて、ため息をついて、時には顔を上げて、そして泣きながら時を重ねていく。

過去

 若い頃は寝ても寝ても寝たりないほど寝ることができた。しかし今はどうだ。寝過ぎたら腰が痛んで眠れやしない。

 若い頃は夜更かしなんて三食の飯よりも当たり前だった。しかし今はどうだ。睡眠不足は次の日の死を意味する。

 お菓子を食べても肉を食っても野菜を食ってもなんだか全く太らない。でも今はどうだ。あれ、このパンって何カロリー?げげ…?!1個で500カロリー超えてんじゃん!太るからやめよう。

 洗顔なんか使わないし化粧水だって遠くの人たちの話だった。でも今はどうだ。やべ…肌がカサカサじゃん。そっか、昨日の夜に化粧水つけ忘れたからだ。萎える。

 何度も同じ映画を見て、ただやり過ごすだけの日々を過ごしたって気にしない。でも今はどうだ。この映画は1回観たから、せっかくの休みの日で、せっかく一人になれる時間が持てたのだから、少しでも無駄を省き、有意義な時間にしようと新しい映画を観る。

 風のように過ぎ去り、もう追いかけることも、戻ることもできない過去。ただあの頃は、世界の中心は自分だった。

なんだか「若い頃は良かった」なんて振り返っているみたいだけれど、決してそうじゃない。

 若い頃はテレビで流れる悲惨なニュースなんて別世界だった。けれど今は違う。心が痛み、「何か僕にできることはないか」なんてことを考えれるようになった。

 若い頃は美しい景色を、目の前のタバコの灰皿と同じ感覚で見ていた。けれど今は違う。美しい景色を見ると、心が安らぐ。

 若い頃は野に咲く花なんか気づかぬ間に踏みつけていた。けれど今は違う。その花を見て、じわっと泣けてくる。

 若い頃は感じの悪い人や態度の悪い人の表面的な部分を見ては、胸くそ悪くなっていた。けれど今は違う。「何かあったのかな?」なんて相手の背景やバックグラウンドを深掘りできるようになった。

 世界の中心は自分じゃないことがわかる。

    僕がこの世界から消えても世界は息を止めない。新たな生命を吸い込み、終わった命を吐き出すように、ずっと深呼吸を繰り返す。

 僕がいなくても、あなたがいなくても、世界は進んでいく。それはまるで、風と同じだ。

減っていくもの 増えていくもの

 僕に残された時間は、走らせれば走らせるほどガソリンのように減っていく。しかも時折、アイドリングなんてかましてしまったりする。

それは悲しい気持ち。そして寂しい気持ち。そんな気分にさせる。

 でも、僕の過ごした時間は、走らせれば走らせるほど走行距離のように増えていく。そのスピードに関係なく、ただひたすらに増えていく。

それは愛しい気持ち。そして尊い気持ち。そんな気分にさせる。

この世界のほぼすべてのモノゴトは、使えば減ることが宿命。しかし、僕らの人生、自分自身の「心」は、減ることもあるけれど、増えることの方が断然多い。革製品の経年変化のように、僕ら「人」の心も「経年変化」していく。

耳を傾けてみよう。ありのままの自分に。

 いつ終わるとも知らされぬまま、どこまでも歩いて、ため息をついて、時には顔を上げて、そして泣きながら時を重ね、そして僕らは変化していくことをやめることはできない。

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