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備忘録 よーい

次の日、ご飯に行こうと誘った。
付き合おうが付き合わなかろうが関係なく、
たぶん、長い時間を一緒に過ごせる人なんだろうなと漠然と思っていた。

会った瞬間から彼は不安げな表情をしていて、
こちらから返事をするのだって結構、緊張した。

「絶対振られると思ってた。」

らしい。

その後はわたしの直感通り、順調に交際が進んだ。
土日休みのわたしと不定休の彼だったけど、
週末は一人暮らしの彼の家に行って慣れない料理をしたり、
有休を取って休みを合わせたりした。

急に外泊することが増えたから、母に恋人ができたと報告した。
わざわざ言うのは初めてのことだった。

洋服好きな彼の影響を受けて、服に対する価値観が変わった。
好きなブランドができておしゃれを楽しむようになった。
あれ、わたし、恋人色に染まるタイプなんだと気づいて驚いたりもした。
新たな発見だ。

サプライズでケーキが運ばれてきたり、
ホテルで夜景をみながらナイフとフォークでご飯を食べたり、
テーマパークに行ったりすることはなかったけど、
ジェットコースターみたいにドキドキすることもなかったけど、
彼はただただ大きな安心感を与えてくれた。

彼の好きなところはどこかと聞かれても難しい。
どこなのだろう?と考えに考えても、これだという表現が出てこない。
脳内お花畑状態だったのだと思う。
対する彼は毎日のように愛を伝えてくれた。
自己肯定が急上昇した。

彼は彼なりに何かしらの直感があったようで
恋人になってからほどなくして
1年後には結婚するつもりだと言う。
えええ?本気?と、もちろん思ったが、
若干24歳のわたしは、それはそれで面白いかもなどと考えたりした。
それに、手前味噌だがわたしが断ったらショックで死んでしまいそうだと思っていた。そのくらい、彼に溺愛されていた。

改札前での告白からちょうど一年経った頃、
予告通りプロポーズされた。
夜ごはんをちょっと良いところで食べて彼の家に帰ると
額縁に収納されたダイヤをプレゼントしてくれた。

「サイズが分からなかったから、一緒に選びに行こう」

わたしはたいそう感動した。ああなんていい恋人なんだろう。
彼なりに調べて悩んで、ここにしようと決めて、苦手な段取りをして、
一世一代のプロポーズをした、
そのすべてを想像して愛おしく思った。
この上なく幸せだった。
今回は保留することなく即答した。

「よろしくお願いします」

親友にはにやにやしながらこのエピソードを披露した。
相当浮かれていた。そりゃそうだ、浮かれさせてくれ。


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