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著作権の窓から…身近に感じる著作権

書評⭐️⭐️⭐️⭐️

本書の著者である半田正夫先生は著作権法研究に四七年当たって来られた先生で、民法学の助手時代に「著作権の一元的構成」と言う論文を書いておられます。それから先生の著作権法の研究が始まりました。本著は全47篇の著作権法に関わるエッセイからなり、それほど難しい法律用語は用いられずに比較的に平易に書かれた著作権法の解説です。エッセイの中身も生活に身近な話題から取られており、すんなり入れる話題が多いのが特徴です。このNoteに投稿される記事や動画、写真などにももちろん著作権が発生しており、その様な創作活動を行うに当たって知的財産保護の観点からも、一定の著作権に対する理解が必要の様に思います。本著は創作活動を行う方々への招待としての役付が与えられた本と見ることもできるでしょう。ここでは、いくつかのエッセイを紹介したいと思います。

また所謂、創作物として創作された著作物はその人格的利益を保護する権利として規定された「著作者人格権」(公表権、氏名表示権、同一性保持権、また著作者の名誉または声望を害する行為によりその著作物を利用する行為は、著作者人格権侵害とみなさせる)と、経済的利益を保護する「著作権」からなり、さらに「著作権」は各種の細分化された複製権や上映権など支分権の束からなり、著作物の権利は二面的構造を取っているのが一つの特徴です。

公募と著作権の帰属

小説のような著作物を作成すると、著作権は自動的にその作者に発生する事になっています。通常、A新聞社の公募に応じてBが小説を書きこれをAに送ったとしても著作権はBに留まります。しかし、公募の多くにはその応募要項に「著作権は主催者に帰属する」と言う記述が見られます。これは創作者に発生した著作権が主催者にまるごと移転する事を意味し、まるごと移転するとは著作権から派生する、複製権、演奏権、公衆送信権、上映権などの諸権利がすべて一括して移転することを意味します。最近、多方面にわたって公募が行われていますが、小説や論文の公募は言うまでもなく、ポスター、標語、マンガ、写真、楽曲、詩、短歌、俳句、衣装デザイン、建築デザインなど多種多様です。この様な公募で「応募した原稿の所有権と著作権は当社に帰属します」の記載がある場合、これは「当選者」の原稿の所有権といわゆる著作権だけが主催者に移転するのではなく、「応募者」の所有権と著作権すべてが主催者に移転する事を示しており、注意が必要です!

タイトルの著作物性

太宰治の「斜陽」、三島由紀夫の「美徳のゆらめき」、石原慎太郎の「太陽の季節」などのタイトルですが、タイトルはそれ自体一つの存在意義を持つもので、作者の精神的創作物と言えますが、一般に短いものが多く、また作品本体と結合することによって作品との同一性を表象する役割を担うものにすぎません。そのため、作品本体とは切り離された別個独立の著作物と認めるわけにはいかないようです。そのため例えば、大岡昇平の「武蔵野婦人」をまねてポルノ小説に「武蔵野婦人」と付けたとしても、著作権侵害とはならない事になります。しかし、ある程度の長さを持ち、そこに作者の個性が認められる場合となれば著作物性を認め著作権を保護して良いように考えられます。現にイタリアやフランスの著作権法は、独創性を示す場合にタイトルに著作物性を認めているようです。

アイデアは著作権で保護されるか

著作権は表現を保護するものであって、アイデアは保護の対象とはならないと言われます。日本の著作権法では著作物の定義規定を置き、「思想又は感情を創作的に表現したものであって…」(著作権法二条一項一号)としており、「表現」が保護の対象で「アイデア」そのものは保護の対象とならないことが明らかになっています。表現の利用の中でもっとも重要なのは「複製」いわゆる「コピー」ですが、ここに言う複製には有形的複製と無形的複製とが含まれます。前者は、文字通り形あるものに再製することで、印刷、録音、録画、複写などで有形化されることを意味し、後者は、演奏、上演、上映、口述、放送などの無形的表現行為を言います。著作権は表現の保護に重点が置かれていることから、アイデアの利用である使用あるいは実施は全く問題となりません。あの小説や漫画はアイデアをパクった等の言い方がネット上に上がったりもしますが、著作権法の観点からはアイデアの使用は著作権侵害には当たりません。アイデアはより豊かな表現を持つ創作物を作成するためのヒントとして利用されたと言った方が正しいと思われます。

いくつか創作に身近な話題を取り上げてみました。本著は身近な話題を各トピックに分けて取り上げ平易な言葉で記述されており、普段、著作権法に触れる機会の少ない方にも、読み物として眺めるのに良い内容になっているのではないかと思います。

(了)








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