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「哀れみのフィルターを通した視点」というものが、彼女たちや彼らを苦しめる・・・ " その正体 " だった [第16週・3部 (78話前編) ]

割引あり

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。

今回は第16週・「若き者たち」の特集記事の3部ということで、78話の前半部から中盤部という " 本編10分間 " を集中的に取り上げた内容だ。ちなみにこの前の特集記事となる、第16週・2部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。

さて78話も、初見の際に筆者が大感銘を受けた放送回だ。その影響もあってか、執筆しているとその思いが溢れてしまって・・・。また東日本大震災に対する筆者の雑感も、少しばかり書かせて頂いたため、原稿が相当長くなってしまった(苦笑)。したがって、78話も特別編ということで " 1話分を前編と後編 " に分けて書きたいと思う。

それでこの78話は、主人公の幼馴染・三生の人物像とその背景がフィーチャーされ、ある意味 " 主役的 " に取り上げられる放送回である。

その一方で、主人公・百音のセリフは極端に少なく、『スーちゃん、それは・・・ 』と『ううん。" こういう話 " ずっと聞きたかった気がする』の二言しか語らないといった、非常に特殊な放送回でもある。したがって一見すると、本編では百音のセリフが一言も入っていない、第14週・69話「離れられないもの」と類似した放送回であるようにも感じられるわけだ。


*第14週・69話「離れられないもの」の本編では、主人公・百音がセリフを一言も話さないという、かなり珍しい演出手法の放送回だった。百音は、父・耕治と上席・朝岡のやり取りの完全に聞き役に回り、それはまるで「狂言回し(第三者の視点)的な役割」を担っているようだった [第14週・69話「離れられないもの」]


では69話と同様に、この放送回においても百音が、「狂言回し(第三者の視点)的な役割」を担っているかと言えばそうではない。あくまでも百音や妹・未知の繊細な心の動きを言語ではなく " 彼女たちの表情 " から映し出そうとした、これまた非常に挑戦的な演出手法であることが、カット割やライティングからも伝わってくる。この放送回は、ぜひともこの部分に注目して視聴して頂きたい。

またシーン設定としては、大まかに分けると『汐見湯』と『Weather Experts』社の二つしかない。このシーン設定も、前回の77話と同様に " 二つの属性 " の考え方や捉え方の差異や、そのコントラストを浮き彫りにしようという狙いがある。77話では、東日本大震災を体験した登場人物における " 世代間の考え方や捉え方の差異 " というものが表現されていたわけだ。

そうなると、この放送回においては『汐見湯』に " 東日本大震災を体験した若者たち " を集め、『Weather Experts』社には、" 東日本大震災の非体験の若者たち " を集めることで、考え方や捉え方の差異やそのコントラストを浮き彫りにしようとしているのだろう。これは、今作の通奏低音のように脈々と流れている " 当事者と非当事者の心情 " にフォーカスを当てているわけだが、更にこの放送回では「 " 同じ属性 " であっても、実は考え方や捉え方にグラデーションがある」ということを、明確に打ち出しているところが非常に興味深い。この部分にも、ぜひとも注目して視聴して頂きたいと思う。

さて76・77話と同様に、この放送回においても菅波に " ある気づき " がもたらされる。このことが、80話での菅波の " とあるセリフ " へと繋がっていくわけだ。また百音にも " ある気づき " がもたらされることで、79・80話の " 重要な行動の選択へ " と繋がっていくところにも注目して頂きたい。

この放送回では " 登場人物の配置 " といったような、『映像力学』的なギミックやカット割、ライティングが非常に重要な意味を持っている。したがって、そのような視点からも丁寧に分析・考察していきたい。

さらに登場人物、特に主人公・百音の表情から滲み出る " 繊細な心の動き " も丁寧に捉えていきたいと考えている。したがって、『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら )をフル活用するため75話と同様に、15分間の全27,000フレームを、1フレームごとに観察した。この手法によって、特に登場人物の心情や演者の心情をその仕草や表情から読み解き、セリフでは語られない " 秘めた心模様 " にもフィーチャーしていきたいと思う。

この記事では分析・考察のために、ストーリー展開の時間軸が前後していることをご了承頂きたい。またストーリー展開の中で、関連性の高い過去放送回についても、取り上げた記事にもなっている。




○78話を鑑賞するにあたっての「注目の演出ポイント」


この78話は、本編が5シーンで構成される。

シーン① 『汐見湯』 ・・・ 未知が亮の生き生きとした姿を語る(亮は眠る)
シーン② 『Weather Experts』社 ・・・ 百音と菅波の交際話で盛り上がる
シーン③ 『汐見湯』・・・ 幼馴染と震災を振り返る(亮は起きる)
シーン④ 『Weather Experts』社 ・・・ 集ったメンバーが震災を振り返る
シーン⑤ 『汐見湯』 ・・・ 三生が「未来に向けて歩き出そう」と熱弁


それでまず「シーン①」と「シーン③」の編集で象徴的なのが、幼馴染が何かを語った後は、" 妹・未知 ⇒ 百音 " といったカット割が多用される。これは、永浦姉妹がお互いに抱えている " 震災 " に対する思いというものを、「永浦姉妹の表情だけで、" その心情 " を表現する」といったことを狙った編集であると考えられる。


*明日美が、「家族だからこそ・・・ 震災については話さない」と語ると、悠人も『うちも、そうかも』と同意する。この直後は " 妹・未知 ⇒ 百音 " という流れのカット割だ。 永浦姉妹の表情から「そっか・・・ 言われて見れば・・・ 私たち姉妹も震災については、ほとんど話せていないかも」といった心の動きが垣間見れる。このように「シーン①」と「シーン③」では、" 妹・未知 ⇒ 百音 " といったカット割を多用し、「永浦姉妹の表情だけで " その心情 " を表現する」といったことを狙った編集であると考えられる [第16週・78話より]


その一方で「シーン⑤」では、亮が何かを語ると " 亮 ⇒ 百音 " のカット割の流れが多用されるのだ。これは一見、亮が幼馴染全員に対して語りかけているように感じられても、実は「百音だけにメッセージを送っている」ということを表現しているのだろう。


*亮が『もう出来ないじゃん。昔、UFO呼んだ時みたいに・・・ こうして、「みんなで円くなって手繫いで叫ぶ」みたいなの』と語った直後には、百音のカットが入る。百音は、「りょーちんは・・・ 何を訴えかけたいのだろう」といったことを頭を巡らせているような表情にも感じられる。このように「シーン⑤」では " 亮 ⇒ 百音 " のカット割が多用される [第16週・78話より]


また『Weather Experts』社 と『汐見湯』のシーンでは、ライティングの方向性に差異がある。まず『Weather Experts』社 のシーンでは、陰りを一切感じさせない、眩しいほどの煌々と焚かれたような照明だ。


*「シーン④」 集ったメンバーが、百音が気象予報士を目指した理由と震災との関連性について語り合う。陰りを一切感じさせない、眩しいほどの煌々と焚かれたような照明だ [第16週・78話より]


オフィスのシーンのため、「明るいライティングの傾向にするのは当然だろう」と指摘されれば、その通りなのだが・・・・ 筆者としては、この煌々と焚かれたような照明には、「 " 東日本大震災の非当事者 " が集っている」といった意味合いを持たせているのではないかと考察している。

その証拠として『汐見湯』のシーンでは、『Weather Experts』社と比較すると暗めであり、また " 陰り " を感じさせるような方向性の照明なのだ。


*「シーン①」 明日美の『何で「地元で頑張ってるのが偉い」みたいになるの? 』という主張に対して、同意する三生と悠人。『Weather Experts』社 のシーンと比較すると暗めであり、また " 陰り " も感じさせるような方向性の照明だろう [第16週・78話より]


このように " 陰り " を感じさせるような方向性のライティングとなっている『汐見湯』のシーンでは、「 " 東日本大震災の当事者 " が集っている」といった意味合いを映像に持たせていることが考えられるわけだ。


*煌々と焚かれた照明の『Weather Experts』社 のシーンと、陰りを感じさせる照明の『汐見湯』のシーンとの対比で、" 東日本大震災の非当事者・当事者 " を映像として表現しているのではなかろうか [第16週・78話より]


このライティングの方向性と対比で、" 東日本大震災の非当事者・当事者 " を表現しているならば、「シーン⑤」の百音に対するライティングの方向性が非常に興味深い。


*「シーン⑤」 亮が『話しても地獄。話さなくても地獄・・・ なんだよね』と、震災について心情を匂わせるカットと、その直後の百音の表情を捉えたカット。亮のカットは非常に暗いライティング対して、百音のカットでは彼女自身にしっかりと照明が当たっているのが分る。背後の妹・未知の " 暗いライティング " にも注目すれば、その差は歴然だろう [第16週・78話より]


このように、" 東日本大震災の当事者 " が集まっている『汐見湯』のシーンにおいても、百音にはしっかりと照明が当たっているのが分ると思う。もちろん、「百音が主人公だから」というのもあるのだろうが・・・ 筆者としては " もう一つの狙い " があると考えているのだ。そう!! このメンバーの中では、発災当時に百音だけが唯一、故郷・亀島には居なかったわけだ。


*発災当時に百音は、故郷・亀島を離れていた。そのことで、百音の立ち位置が " 非当事者 " というところに置かれて、幼馴染たち・・・ そしてたった一人の妹・未知とは完全に隔てられ、「一緒には共有できない巨大な何か」が確実に生まれてしまっていた。さらに妹・未知から『お姉ちゃん、津波、見てないもんね』と、発災当時に故郷・亀島にいなかったことを責められてしまう百音 [上 : 第3週・15話「故郷の海へ」 下 : 第4週・20話「みーちゃんとカキ」より]


この" 東日本大震災の当事者 " が集まっている『汐見湯』のシーンの中でも、照明が当たっている百音だけは " 非当事者 " であることを映像で表現しているのではなかろうか。


* " 東日本大震災の当事者 " が集まっている『汐見湯』のシーンの中でも、照明が当たっている百音だけは " 非当事者 " であることを映像で表現しているのではなかろうか [第16週・78話より]


このように78話においては、全体的にカット割とライティングに注目して鑑賞すると、この放送回で訴求したい深層部が浮かび上がってくる。このことも踏まえて、今回の特集記事をお読み頂けると幸いだ。



○地方が抱える " 封建的で排他的な価値観 " を・・・ 逃げずに、真摯に描く


思いかけずに東京という街で、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)を筆頭に、亀島中学吹奏楽部のメンバーが集結した。


*第16週・78話より


『汐見湯』のコミュニティースペースでは、故郷・亀島の幼馴染・及川亮 (りょーちん 演・永瀬廉氏)が小学2年生頃の、「UFOと遭遇したエピソード」を話のタネに盛り上がる。一通り盛り上がった後、亮はソファーで眠っていた。


*第16週・78話より


後藤三生(みつお 演・前田航基)が、僧侶となって実家の寺を継ぐことの決心したことと共に、『島、戻るってことはさ・・・ やっぱ、いろんなもん背負うじゃん』と語ると、一転して深刻な空気感が漂う。その中で野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)は、独り言でも呟くように語る。


『明日美 : かわいい顔しちゃって。漁師なんかやめて、仙台でも東京でも来ちゃえばいいのに。』

『百音 : スーちゃん、それは・・・ 』

『明日美 : 何で? そういうの、おかしくない? 何で「地元で頑張ってるのが偉い」みたいになるの?

第16週・78話より


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*「 " 宿命を背負うこと " が苦しいのなら・・・ 漁師なんか辞めてしまえばいいのに」と語る明日美。その言葉に対して、「それは言ってはダメ・・・ 」というように、明日美の言葉を遮って、諭そうとする百音。それに対して、『何で? そういうの、おかしくない? 何で「地元で頑張ってるのが偉い」みたいになるの? 』と、不快感を露わにしつつ問い返す明日美 [第16週・78話より]


さて前回の特集記事でも指摘した通り、明日美は天真爛漫であり、自由に楽しさや快適さを追い求める人物像だ。そのような彼女であっても、故郷・亀島にそこはかとなく漂う、「地元に残って貢献する人間の方が価値がある」といった " 封建的な空気感 " に、これまで相当苦しめられていたことが窺えるシーンだろう。明日美が指摘したことに対して、三生も早坂悠人(演・髙田彪我)も同調を示す。


『三生 : まあな・・・ それな。』

『悠人 : 何か、分る。』

第16週・78話より


*明日美の『何で「地元で頑張ってるのが偉い」みたいになるの? 』という主張に対して、同調を示す三生と悠人。『汐見湯』のコミュニティースペースに " 重い空気感 " が立ち込めていく [第16週・78話より]


この展開によって、『汐見湯』のコミュニティースペースに " 重い空気感 " が立ち込めていく。

それで、故郷・亀島に漂う " 封建的な空気感 " に対する、明日美の否定的な意見に三生と悠人が同調したということが、筆者としては意外な印象を持った。二人とも故郷・亀島は離れたと言っても、仙台の大学に在籍しており、特に悠人は大学卒業後の針路を「故郷に戻って気仙沼市の職員を目指している」と語ったばかりだったからだ。そして、この " 三生と悠人の反応 " に百音も驚いたらしく、二人に視線を向ける所作が非常に印象的だ。


*明日美の『何で「地元で頑張ってるのが偉い」みたいになるの? 』という主張に対して、同意を示す三生と悠人。その反応に驚きの表情を浮かべつつ " 気まずさ " もあってか、二人に視線を送る百音 [第16週・78話より]


これは何を意味しているのだろうか? 同じ宮城県内であったとしても故郷・亀島と、東北全体の政治と経済の中心を担う " 政令指定都市・仙台市 " では、その " 封建的な空気感の濃淡 " が、かなり異なっていることを表現しているのではなかろうか。もっと言えば仙台は、「より東京に近い空気感が漂っている」とでも言ったところだろうか。

三生も悠人も故郷を離れ、都会である仙台の価値観に馴染んでいく中で、「亀島がどれだけ封建的で、排他的な価値観に支配されているか」ということを思い知らされる・・・ このことは三生や悠人だけではなく、百音自身もそこはかとなく感じ取っていたことが、過去の放送回で既に提示されている。例えば、このようなセリフからも窺えるだろう。


『百音 : でも私、りょーちんのお母さんのこと好きだよ。だって、明るいし。 みんなのこと、すぐに仲良くさせちゃう。うちのお母さんが島に馴染めてるの・・・ りょーちんのお母さんがいてくれてるからだよ。

第8週・37話「それでも海は」より


*永浦家と及川家は親密で、家族同然の間柄だった。東日本震災が発生する一年前・・・ 両家で食事会が開催され、亮の母・美波の明るさに『うちのお母さんが島に馴染めてるの・・・ りょーちんのお母さんがいてくれてるからだよ』と百音が語る [第8週・37話「それでも海は」より]


百音の母・亜哉子(演・鈴木京香氏)は仙台出身で、父・耕治(演・内野聖陽氏)との結婚の当初も仙台で暮らしていた。しかし、父・耕治は転勤が多かったため、単身赴任で各地を転々としていた。そのような生活の中で、百音を妊娠した母・亜哉子は、「一人での子育ては不安だから・・・ 耕治さんの実家に住みたい」と亀島に住み始めたわけだ。


*結婚当初は、仙台で暮らしていた永浦夫婦。百音の父・耕治は単身赴任中だった。母・亜哉子は「あなたを妊娠したタイミングで、お父さんの実家で暮らしたい」と、亀島に移り住んだ経緯を百音に話して聞かせる [第8週・40話「それでも海は」より]


しかし地方の・・・ さらに島という隔絶された場所では、封建的で排他的な価値観が形成されていることは否めない。したがって仙台から移り住んだ亜哉子が、島の生活に馴染んでいくことさえも、当初はかなり苦労していたことが百音のセリフからも窺える。こういったところからも、" 仙台と故郷・亀島の価値観の差 (都市部と地方の価値観の差) " というものを提示していたわけだ。今作では、このようなデリケートな事柄からも逃げずに、真摯に取り組んだことが評価できるところだと、筆者は考えている。

今作を制作するのにあたって制作陣や脚本家は、事前に東北地方や宮城県にかなり取材に入ったことは想像に難くない。特に亀島のモデルとなった気仙沼市大島の人々はロケ撮影も含めて、かなり世話になっているだろう。その大島の人々も注目する今作の中で、『地方は封建的で、排他的だ』と描くことは、非常に気が引けて・・・ 出来れば描かず、たとえ描いたとしても " 逃げた表現 " に着地したいところだろう。それでも・・・


[ " 抱えている問題 " からは逃げずに、真摯に描く ]


脚本を担当した安達奈緒子氏を筆頭とする " 制作陣の覚悟 " が、このようなシーンからも、ひしひしと伝わってくる。

いずれにしても、百音の母・亜哉子のエピソードや三生と悠人の反応も含めて、" 仙台と故郷・亀島の価値観の差 " というものを描いていると言える。さらに明日美は、このようにも語る。


『明日美 : そういう空気があるから・・・ それで、りょーちん、こんなにしんどくなってるんじゃん。』

第16週・78話より


*明日美は、故郷・亀島に漂う " 封建的な空気感 " に不快感を露わにしつつ、『そういう空気があるから・・・ それで、りょーちん、こんなにしんどくなってるんじゃん』と指摘する [第16週・78話より]


この明日美の一言には・・・ 百音は相当ダメージを受けたようだった。と言うのも、百音は故郷・亀島を離れて2年半、そして上京して半年が経っていても、明日美たちとは違って、


[ 地元に残って貢献する人間の方が価値がある。出来ることならば私も・・・ 故郷・亀島に残って、地元の人々に貢献したかった ]


といったような " 封建的な空気感 " を受け入れ、むしろそのことが " 彼女の価値基準 " になっていたことが分る。もっと言えば、現在は故郷・亀島の外に居住しているにも関わらず、未だに百音は「亀島を外側から客観的に、冷静に見つめるような感覚」では、捉えられていないとも言える。

そして、悪しき価値観を含めた " 封建的な空気感 " を、今まで信じて疑ったことはなかった百音。しかし、


『明日美 : そういう空気があるから・・・ それで、りょーちん、こんなにしんどくなってるんじゃん。』

第16週・78話より


ということを明日美に突き付けられて・・・ ハッとさせられる百音。そう!! この瞬間に・・・・ やはり " 亮のこの言葉 " が、彼女の脳裏を過ったことだろう。


『亮 : " 周りの期待に応える " ってさ、案外、楽なんだよ。最初はね。でも、だんだん苦しくなる。』

第16週・77話より


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*明日美に『そういう空気があるから・・・ それで、りょーちん、こんなにしんどくなってるんじゃん』と突き付けられた瞬間に、亮の語った『周りの期待に応える " ってさ、案外、楽なんだよ。最初はね。でも、だんだん苦しくなる』という言葉が脳裏を過る百音。「私が信じて疑わなかった " 封建的な価値基準 " が、知らず知らずのうちに・・・ りょーちんを縛り付け、苦しめていたのかもしれない。" 私という存在自体 " が・・・ りょーちんを苦しめていたのかもしれない」ということを、徹底的に思い知らされた瞬間だろう。居心地の悪そうな百音の雰囲気が印象的だ [第16週・78話より]


[ 私が信じて疑わなかった " 封建的な価値基準 " が、知らず知らずのうちに・・・ りょーちんを縛り付け、苦しめていたのかもしれない。" 私という存在自体 " が・・・ りょーちんを苦しめていたのかもしれない ]


明日美の言葉は、このことを百音に徹底的に思い知らせるものだったのではなかろうか。この思いと共に百音の脳裏には、亮に対する罪悪感が沸き起こり・・・ 彼女の心を少しずつ傷つけていくのだ。



○" あの日 " 以降の彼にも・・・「光り輝く日常」を感じる瞬間があった


明日美の『そういう空気があるから・・・ それで、りょーちん、こんなにしんどくなってるんじゃん』という言葉で一同が沈黙すると思いきや、百音の妹・未知(みーちゃん 演・蒔田彩珠氏)が、間髪入れずに異議を唱える。


『未知 : 決めつけないで。』

『明日美 : え? 』

『未知 : 確かに、辛いことあると思う。だけど、そこだけ見て「しんどくなってる」とか、勝手に決めつけないでほしい。』

第16週・78話より


*明日美は、故郷・亀島に漂う " 封建的な空気感 " に不快感を露わにしつつ、『そういう空気があるから・・・ それで、りょーちん、こんなにしんどくなってるんじゃん』と指摘する。しかし百音の妹・未知は、『決めつけないで』と間髪入れずに異議を唱える [第16週・78話より]


さて中学時代から歳を重ねたと言えども、妹・未知は未だ10代であり、百音や明日美たちとは2歳の年の差だ。中学時代に百音や明日美たちが3年生なら、妹・未知は新入生の1年だ。この " 先輩・後輩の見えない壁 " が、着座位置でも表現されている。


*百音や明日美たちの輪には入らず、少し外れて着座する妹・未知。カメラ位置や構図などの撮影時の事情もあるとは思うが、やはり " 先輩・後輩の見えない壁 " というものも、着座位置で表現されているように感じられる [第16週・78話より]


百音や明日美たちの輪には入らず、少し外れて着座する妹・未知。当然ながら、カメラ位置や構図などの撮影時の事情もあるとは思うが、やはり " 先輩・後輩の見えない壁 " というものも、着座位置で表現されているように感じられる。

そして姉・百音に意見をするなら未だしも、明日美の言葉に強く異議を唱える妹・未知。" 先輩・後輩の見えない壁 " を越えるということは・・・ よほど抑えられない感情があったのだろう。特に異議を唱えられた明日美の、その驚きは隠せない。


*2歳先輩となる明日美の言葉に、強く異議を唱える百音の妹・未知。特に異議を唱えられた明日美の、その驚きは隠せない [第16週・78話より]


さらに妹・未知は、言葉を続ける。


『未知 : りょーちん、船乗ってる時、ちゃんと良い顔してるし、市場で魚、降ろす時、めちゃくちゃカッコいい。すごい年上の大人とも対等に話せて、認められてるし。魚、いつも自慢してる。 』

第16週・78話より


*自分自身しか目にしたことがない、亮の生き生きとした姿を語る百音の妹・未知。亮も目を覚まし、その力説に耳を傾ける [第16週・78話より]


" あの日 " 以来・・・ このメンバーの " 亮の捉え方 " というものが、


[ 津波に母を奪われて、落ち込む父を支えつつ・・・ 若くして及川家を背負わざるを得なかった宿命 ]


といった、彼を「哀れみのフィルター」を通して見るような先入観に、こり固まっていたように思われる。そして、このメンバーのほとんどは、「仕事場での亮の姿」を目にしたことはない無い。唯一、同業者である妹・未知を除いては・・・ だ。そして、「亮の心情を代弁する」かの如く、

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