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新興宗教「幸福の科学」総本山 正心館に行ってみた。

1 話題の新興宗教

 新興宗教に疎い方でも「幸福の科学」を知らない人は少ないだろう。おそらく現在では「創価学会」「統一教会」とともによく耳にする宗教団体である。数年前には若手女優の教団芸能プロダクションへの移籍、教祖実子によるYouTube等メディアでの活動、そして2023年の3月には教祖の死亡など何かとメディアの話題になることが多い。
 なお本記事については後継者問題や各種トラブルの内容には踏み込んでいないのでご了承いただきたい。また幸福の科学の信者の信仰そのものを否定、嘲笑する意図はないということを明言しておく。

2 「幸福の科学」とは?

 すでに「幸福の科学」についての知識を持っていらっしゃっている読者も多いと察するが、「霊波之光」と同様にアラサー限界独身男性の資料をパクって解説していく。

沿 革

 「幸福の科学」は1986年に大川隆法により立教された。立教当初は大川による大川を媒体として過去の偉人の霊魂が発する「霊言」を中心に勉強をするオカルトサークル的な存在であったという。同年に根本経典である「正心法語」を翌1987年には教団の教義の中核となる「太陽の法」「黄金の法」「永遠の法」が出版、ベストセラーとなった。この三書は「基本三法」と呼ばれている。「幸福の科学」はこの3冊で会員の数を大幅に増加させたようである。「基本三法」の内容については後述する。1991年に宗教法人としての認証を受ける。同年、大川は自らを地球の最高神(最高意識)である「エル・カンターレ」だと宣言する。1994年には海外初の法人として「幸福の科学USA 」が設置。以降世界各国に現地法人を設置している。現在では世界70か国に現地法人を有している。余談にはなるが、教団職員によると日本のような宗教に関心のない国家よりも、キリスト教など宗教が文化として根付いているような国家のほうが布教しやすいとのこと。90年代前半、一連のオウム真理教の事件が発生するまではスピリチュアルブームが追い風になり順調に信者数を増やしていった。2009年には政党「幸福実現党」および学校法人を設置。「幸福実現党」は2023年現在、一人も国会議員を当選させていない。一方で地方議会においては数十議席を持っている。学校法人「幸福の科学学園」は栃木県と滋賀県に中高一貫校と大学に準じる教育を行う無認可校「ハッピーサイエンスユニバーシティ」を擁している。なお教団職員には本校の出身者が多いとのこと。
 2023年総裁の大川が自宅で死亡。享年66歳であった。教団側は2023年5月現在、教祖の死亡について公式に発表していない。したがって新たな教団総裁についても発表されていない。なお見学した際に教団職員は「世間的には死亡したこととなっている」と含みを持たせていた。

大川隆法

 次に沿革と内容がかぶってしまう点もあるが、教祖である大川隆法について説明しておく。1956年7月、徳島県で生まれ。出生時の名前は「中川隆」。幼少期には宗教団体「GLA」や「生長の家」の影響を受けていた父「善川三朗」から聖書などを読み聞かせられていたそうである。1976年に東京大学文科一類に合格、その後法学部に進み政治学を専攻。司法試験と国家公務員上級試験には合格できなかったものの大手総合商社に入社する。要するににエリートである。商社マン時代に「イイシラセ(福音の意味)」という内容の霊界からの通信を受信し、「霊的覚醒」を経験する。その後、「霊言」を収録した著書の出版活動を行う。1982年には渡米しニューヨーク市立大学大学院センターで国際金融論を学んだ。1986 年に立宗。1989年から大川総裁は自らを「仏陀の再誕」と称し、1991年に地球系霊団の至高神「エル・カンターレ」であると宣言した。大川は2009年11月から2010年11月まで発刊した52冊が、年間・最多発刊書籍のギネス世界記録として認定。2010年以降も毎年記録を更新しており、2014年だけで163冊を出版した。2010年から離婚協議中であった大川きょう子と2012年に離婚。同年教団職員と再婚した。2023年、自宅で死亡。

植 福

 「幸福の科学」ではお布施を「植福」と呼んでいる。教団においては「植福」自体が与える「愛」の実践であり同時に執着を断つ修行であると位置づけられている。「植福」は対価性がないからこそ尊くて功徳があるとのこと。
 入会時の「植福」は1000円程度であり、入会時にはエルカンターレを信仰することを誓わなくてはならない。入会の第二段階として「三帰誓願」という手順が必要となる。「三帰誓願」の式典には目安として8000円の「植福」を要する。
 また原則として月会費が1000円であり、最低でも会員であり続けるためには年間12000円がかかると推定される。コストコの2倍の年会費である。他にも大川の講話の聴講や書籍等の購入のための費用を考慮するとそれ以上の支出があると容易に想像できる。
 また各種「祈願」を受け付けており中には「コロナワクチン副反応抑止祈願」といった時流にのったものまで数多くそろえている。私は現世利益を重視しないという教義であるにも関わらずこういった「祈願」が多数準備されていることには矛盾を感ぜずにはいられなかった
 教団ではお布施の額に応じて「~菩薩」等の称号を与えられるようで、「植福」が宗教的実践と位置付けられていることと合わせて、教団への寄進を増加させる要因となっていると思われる。

関連団体

 「幸福の科学」も他の新興宗教同様、様々な関連団体を擁している。ここではその一部を紹介する。
 出版社として「幸福の科学出版株式会社」、アニメ制作会社として「HS PICTURES STUDIO」、芸能プロダクションとしての機能を備え、映画製作や劇団運営を行う会社「ニュースター・プロダクション」を有している。先述したとおり政治政党や学校法人も保有している。

3 「幸福の科学」の教義

 幸福の科学の教義は多岐に渡るため基本的な要素のみ簡潔に解説する。内容に誤りがあるかもしれないので先に断っておく。
 「幸福の科学」は創価学会の「折伏」のように信者による直接的な勧誘ではなく、書籍の出版を通して教えを広めていくという独特のスタイルをとっている。これこそが大川をギネス記録保持者としている所以である。

エル・カンターレ信仰

 幸福の科学の信仰は「エル・カンターレ信仰」である。「エル・カンターレ」は「地球の光」を意味し(どの言語かわかる人がいたら教えてください)、いわば地球の最高神(最高意識)である。教団によればヤハウェ、アッラー、天御祖神、仏陀すべてはエル・カンターレを指す。そして大川隆法がエル・カンターレであると信じるのが幸福の科学の信仰の本質である。なおエル・カンターレは「基本三法」でも明かされるが、その魂の分身を地上に幾度も送り、過去のさまざまな文明を創造したとのこと。ガウタマシッダールタヘルメスオフェアリスリエント・アール・クラウド(約7,000年前の古代インカの王。キープ、結縄でどう綴るのだろうか…?というか7000年前に文明があったのだろうか…?)、トス(約1万2千年前にアトランティスに総合文化を築いた大導師…)、ラ・ムー(約1万7千年前にムー文明の最盛期を築いた王……)はエル・カンターレの魂の一部、分身であるとする。オカルト雑誌の「ムー」に掲載されていそうな内容である(個人の感想です)。なお教団職員曰く「エル・カンターレの魂であっても魂の発展のために人間として生まれる。そのため物理的、生理的には人間としての能力しか有しない。また生まれた時から自らがエル・カンターレであるという自己意識はなく何らかの霊的な覚醒が必要である。」とのこと。

基本三法

 「幸福の科学」の教義について知りたければこの三書を読むのが一番の近道である。『太陽の法』は人間の本質である魂の真実が説かれた、教団の聖典である。教えの中心となる法理論、真理の流 れの歴史を示した時間論、あの世の次元構造を示した霊界論・空間論が示されている。『黄金の法』は エル・カンターレが観た歴史観であるとともにエル・カンターレが立案した地球の 計画がわかる、真実(とされる)の人類史。未来の予言記や、地球神の価値判断が示されている。『永遠の法』 あの世のシステムがすべて解明された(とする)理論書。霊界の次元構造の理論と、あの世の実態、 霊人の生活が説かれている。なおこちらの三書についてはアニメ映画化もされているのでぜひ見ていただきたい。

多次元宇宙論とコスモロジー

 「幸福の科学」においては、我々の住んでいる宇宙は多次元であり、この世は三次元の世界である。 高次元から順に低次元が成立し、八次元以下はその星に固有のものである。 魂は高次元の根本物が下位レベルで発現したものであるため、人間自身が根本仏の一部である。根本仏は二十次元以上の存在とされる。
 また「幸福の科学」の教えによれば、四百億年前、ビッグ・バンにより三次元宇宙空間が成立。100億年前、太陽系が出現。45億年前に地球がそ れぞれ誕生した。 太陽系最初の生命体は、55億年前に金星に誕生した九次元神霊「エル・ミオーレ」で、 金星人を作ったものの、15億年前に絶滅。 地球の十次元意識(大日意識、月意識、地球意識の三神霊)が、地上に現れた生命の発現レベルに上下の差、高低の差を持たせ、地上での生命活動は有限とし、多次元世界との 輪廻転生を法則とする、という二本の柱を設けた。 6億年前ほどに、三神霊は地球に高級生命を創造するため、九次元霊界を作り、金星から エル・ミオーレを招いた。四億年前、地上に人類を誕生させるため、他の星からの応援を求 め、アモール(イエス)、モーリヤ(モーゼ)、セラビム(孔子)を呼んだ。 その後、アール・エル・ランティ、マヌ、マイトレーヤ(弥勒仏)、クートフーミー(ニ ュートン)、ゼウス、ゾロアスターが招かれ、九次元霊界に10人が集い、四次元幽界が成立したとされている。
 「幸福の科学」は独特の文明史を信仰している。アトランティス文明やムー文明もその一部である。文明史には5つの共通する事項があり、下記のア~オのとおりである。
ア 必ず栄枯栄衰がある。
イ 神は、必ず各文明に偉大な光の大指導霊を出した。
ウ 文明が最盛期を迎え、魔が競いたち、暗い想念エネルギーの雲に人類がおおわれるよう になると、地軸の変化、大陸の陥没などの大異変が生起する。
エ 新しい文明は、古い文明の流れを受け継ぎながら、必ず異なった価値尺度を求める。
オ どのような文明であろうとも、人間が魂の修行のために転生輪廻の過程で要な修行の 場であった事実には変わりはない

四正道(幸福の原理)

 そもそも「幸福の科学」の目的は霊的な真実を広め人間にとっての本当の幸福を探究すると共に、神仏の願う平和で繁栄した世界を実現することである。そしてその目的を達成するためには「正しき心の探究」が必要となる。その実践として挙げられているのが、「愛の原理」、「知の原理」、「反省の原理」、「発展の原理」の四原理からなる「四正道」である。
(1)愛の原理
 見返りを求めずに他者を愛する(「与える愛」)を実践すること。 人にやさしくする、親切にする、思いやるなど。
(2)知の原理
  仏法真理を学び、仕事や生活等の実体験を通して智慧に変えること。人間の本質は魂であると知り「心の教え」を学ぶこと。
(3)反省の原理
  間違いや悪を犯したことを心のなかで深く反省し、過去の罪を修正すること。反省によって自らの罪が許され、天国の光が射してくる。本来の自己を取り戻すこと。
(4)発展の原理
  自分の魂を成長、向上させながら、仏国土ユートピア建設に努力すること。幸福な人々を 増やしていく、いわば「この世を天国化していく運動」である。

霊 言

 「幸福の科学」といえば大川による「霊言」であろう。「イタコ芸」と呼ばれ批判されることもある。大川がギネス記録を保持できる理由の一つであろう。詳細はWikipediaに譲る。

正心法語

 信仰の基本は「正心法語」を読み、仏法真理を学び、自らの心を振り返ることとされている。教団にはオリジナルの経典「仏説・正心法語」がある。これは大川が自動書記(手が自動で動き記述するという霊的な現象)により作成したものである。教団公式ホームページによればその功徳は、「般若心経」や「法華経」など、仏弟子による経典に比べ一万倍以上あるとされている。毎日読誦すると人生が好転するらしい。

エル・カンターレ ファイト

 幸福の科学において、「悪霊・悪魔・サタン追放の祈り」として行われる修法である。詳細はWikipediaでも見ていただきたい。

 

4「幸福の科学」の政治的主張について

 1970年代以降の新興宗教の特色として「右寄り」かつナショナリズム的傾向の強い団体が多い。幸福の科学も例にもれず「保守反動的」(定義が難しいためカッコをつけた。「右寄り」も同様。そもそも保守主義と反動主義を一緒くたにすべきではないと筆者は考える。)な色合いが強い。宗教家(浄土真宗)の釈徹宗は、それまでの新宗教が「左寄り」であったことの揺り戻しが原因でないかと仮説を立てている。
 ここでは「幸福の科学」の政治的主張について一点のみ取り上げる。LGBTQの権利問題について大川は著書「地獄に堕ちないための言葉」で「生前LGBTQだった人たちの一部が死後、2メートルもの雌雄同体のミミズとなって糞尿の池を泳ぐ。」と語っている。

5 総本山 正心館に行ってみた

総本山とは?

 幸福の科学には総本山(総本山の定義はよくわからないが…)が4つあり、いずれも栃木県に所在している。「幸福の科学」では教会を「精舎」と呼んでおり、その中でも大型のものを「正心館」と呼称している。
 総本山正心館および附属するネパール釈尊館の入館については基本的には無料であり、会員でなくとも見学は可能である。なお建物内は撮影禁止であった。

お財布にやさしい。

所在地

 栃木県宇都宮市に所在。南宇都宮駅から徒歩10分。住宅街に所在しており向かい側は「さがみ典礼」である。総本山の建設地選定理由については、都心の喧噪からの距離、地域との良好な関係の構築可能性が挙げられていた。

宗教法人はギリシア神殿風建築が好きなのだろうか…?

 外観はいつも(?)のギリシア神殿風である。柱のエンタシスは再現されていない。
 正面の階段を上っていくとメインエントランスがある。エントランスを入って左手には受付があり、受付には綺麗なおねえさんが立っていた。綺麗な女性に案内してもらえるとウキウキしていたら30歳程度の男性職員さんに案内していただけることとなってしまった。当初、教団側は我々を警戒していたと感じた。
 なお駐車場には道路側からはいわゆる大衆車しか止まっていないように見えたが、正面階段の裏側にレクサスが駐車してあり複雑な気持ちになりました。

礼拝堂

 3階には礼拝堂がある。最大で800人ほどを収容できる面積がある。中央前方には金色のエルカンターレ像が安置されており、その大きさは4mほどであった。天井には教義で語られているアトランティス等の各文明をモチーフにした天井絵が施されていた。なお幸福の科学の施設には施設ごとにコンセプトがあり、それにしたがった装飾がなされている。総本山正心館は信仰の中心であるため、「信仰の光が遍く広がる」ような内装を施しているとのこと。

ネパール釈尊館

 敷地内には「ネパール釈尊館」といわれる建物がある。これは2005年の「愛・地球博」(愛知万博)のネパールパビリオンを移設したものである。このパビリオンはネパールのハラティ・マタ寺院のレプリカである。真偽不明の情報であるが2億円でパビリオン自体が販売されていたのこと。「幸福の科学」は2億円で落札したと思われる。なお栃木県に移設する際には一度解体し輸送、再度組み立てたらしい。輸送と建築にかかった費用を考えると相当の金額になると思われる。内装についても基本的には万博当時と変更していない模様。中央に金色の仏像が鎮座していた。そのとなりに50㎝ほどのエル・カンターレ像もおかれていた。ネパールから僧侶を招聘して作成した「砂曼荼羅」は見事であった。

ネパール釈尊館 
基本的には施錠しているようなので見学の際は受付にお願いしましょう。

質疑応答

 見学時には教団の職員についてもらっため教義について質問することができた。ここでは他宗教の教義との相違点の質問について頂いた回答を紹介する。
Q1 仏教の目的は輪廻転生から解脱し涅槃に至ることである。エル・カンターレはなぜ生まれ変わるのか?(ブッダは涅槃に至ってるのではないか?)人は輪廻転生し続けなくてはならないのか?
A1 「エル・カンターレは地球の至高神であるため、その意志さえあれば涅槃(高次元)から再度、低次元に戻ってくることができる。人は常なる魂の発展のため何度も生まれ変わる。」
Q2 ヤハウェもエル・カンターレであるとするならば、キリスト教的世界観においては死後「最後の審判」において裁かれるため、輪廻転生を否定しているのではないか?
A2 「最後の審判」的な要素としては「幸福の科学」においても死後に裁かれるという点においては相違ない。いわゆる閻魔様的なシステムはある。(輪廻転生については明確な回答はなかった。)

 なお教団には、信仰には至っていないものの基本的な理念には賛同し入会している会員もいるようである。教団職員さんとは、中村元博士の話や、宗教と哲学の違いは信仰により論理的な飛躍を許容するか否かである、何らかの信仰は尊いものであり、人間にとって不可欠なものであるという点で合意し非常に盛り上がった。

おまけ

 宇都宮と言えば餃子である。私たちは宇都宮駅構内の「みんみん」で舌鼓をうった。個人的には餃子が最もビールに合う食べ物だと思う。なお宇都宮には「正嗣」という白飯もビールさえも置いていないクレイジーな餃子専門店もある。

焼き餃子3人前

6 おわりに

 私の感想にはなるが、「幸福の科学」の教義はオカルティックな側面があり、とても癖の強いものであると感じた。とはいえ大いなる存在やあの世への配慮というのは歴史の中で人類が長い間、配慮してきたことであり、そういった「霊性(というか人間が持つ宗教や信仰の根源のようなもの)」を思い出させてくれるという意味では評価できると感じている。また愛・知・反省・発展の四正道のみになら共感できる人も少なくないのではと思う。「幸福の科学」においても諸宗教同様「人生は修行の場」であるという教えが強い。修行というと宗教味を強く感じるが、これは「人生死ぬまで勉強」と同義であると私は考える。「おのづから兵法の道にあふこと我五十歳のころなり それより以来は尋ね入るべき道なくして光陰をおくる」と断言した宮本武蔵のようなレジェンドクラスの例外を除いて、多くの人に当てはまることなのではないだろうか。
 今回については幸運なことに、教団職員さんに敷地内を案内していただいた。教義について詳しい話をできたのは大きな収穫である。お忙しい中(おそらく教団が大変な時に)、時間を割いていただき、ありがとうございました。執拗な勧誘等は全くなく楽しく見学することができました。
 ネパール釈尊館の砂曼荼羅など見ごたえのある宗教装飾も多いので一見の価値はある。ぜひ餃子を食べるついでに見学しに行ってはいかがだろうか?

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