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何故戦わなければならなかったのか

日記92日目。

映画「アルキメデスの大戦」を観てとても面白かったので、翌日ネカフェに籠って原作を読んだ話。

簡単なあらすじは、元帝国大学の数学者である櫂直が海軍に入り、世界一の軍艦「大和」の建造を阻止しようと奮闘する史実を基にしたフィクションである。
詳しいあらすじはこちら。


まず、映画を観た感想を箇条書きでまとめた。
・非常に分かりやすく日本史や軍に疎い私でも理解できた。
・歴史物だが、構成も良くラストの意外な展開がエンタメ作品としても楽しめる。
・会話劇がメインで、戦闘シーンは少ないため暴力シーンが苦手な方でも見られる。
・反戦的なメッセージが伝わる。第二次世界大戦とは何だったのかと考えさせてくれる。
(補足:戦争映画は時に好戦的だと捉えられることがある。同じ山崎監督の作品「永遠の0」がその例だが、この作品は冒頭の戦闘シーンに恐怖を強く感じる。また、最初にそのシーンを見せることでその後のストーリーにも影響を与え、良い意味で後味の悪いものになっていた。)


私が原作を読みたいと思うほど、この映画を気に入った理由は、人間の抱える矛盾を描いているからだと思う。
何度も書いているかもしれないが、登場人物たちの葛藤みたいなものを上手くリアルに描いている作品が好きだ。この作品だと、負けると分かっている戦争に向かっていく矛盾だろう。歴史は疎いので史実通りであるかは分からないが、おそらく軍の上層部は負ける確率が高いことは分かっていたのでは無いだろうか。何故そんな戦争に日本人は立ち向かわなければならなかったのだろうか。

ここらからネタバレを含む。


戦艦「大和」の建造を立案した平山中将は、最後に「大和」を造りたい本当の理由を櫂に語るのだが、その理由がなんともやるせない。
それまでは、世界一の軍艦を作ることで日本の脅威を世界に知らしめるようなことが語られているのだが、平山中将が心にしまっていた本当の理由は違った。
彼は、軍艦が時代遅れであることも日本が負けるであろうことも分かっていた。そんな戦争に向かった「大和」はきっと敵に沈められてしまう。そして、日本の強さの象徴として称えられた世界一の軍艦が沈んだとき、日本人は諦めるだろうと言うのだ。「大和」の沈没は日本人に大きなショックを与え、早く戦争を終わらせることができるのではないかと考えていたのだった。
なんて恐ろしい思考回路。
戦争って本当に何のために誰のためにやっているのか。
この理由はあくまで映画の作り手側の解釈だが、妙にリアルに感じた。
ちなみに、このシーンは原作にはない映画オリジナルシーンである。


もうひとつの矛盾としては、技術者たちの葛藤である。
作品の中で、櫂が活き活きと軍艦の図面を描くシーンがある。もちろん彼は戦争に反対し、多くの犠牲者が出るであろう軍艦の建造を止めようとしているのだが、作り手としての喜びみたいなものも同時に体験する。
また、平山中将は、櫂直に軍艦の欠陥を指摘されたとき、ショックを受け、自ら軍艦建造から身を引く。彼は、軍人である前に一人の技術者であることが表現されている。
私はこれらのシーンからすぐにジブリ作品の「風立ちぬ」の堀越二郎が頭に浮かんだ。
彼は技術者として自分の作った飛行機が戦争に使われることに葛藤していた。
きっと戦争中このような葛藤を抱えていた人たちはたくさんいたのだろう。
やはり何のための戦争なのかと改めて問いたくなる。

原作では堀越二郎も登場し、櫂直と対立するという胸熱展開があると知り、原作を読まずにはいられなかった。
映画では、戦艦「大和」の建造予算が低すぎる不正を暴いて海軍の会議で戦うことを軸に描かれているが、原作ではその会議後にもあらゆる手段で進められようとする建造計画をいろんな方面から阻止しようとする櫂直の姿が描かれている。そのひとつの方法がゼロ戦に関わってくるのだ。
主人公の櫂直は架空の人物だが、堀越二郎以外にも実在した有名な人物たちがたくさん出てくるところがとても興味深い。
歴史や戦争に疎い私にとっては、どれが史実通りなのか分からないので、史実を調べる良いきっかけとなった。
今の時代だからこそ戦争を知るために触れてほしい作品である。
そして、ぜひ映画も漫画も楽しんでほしい。







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