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大学院の「闇」に迫る!(前編)修士の「闇」、学歴ロンダについて語る

こんにちは、現役ポスドクの毒太郎と申します。このnoteはあくまで毒太郎のアカデミア研究の体験を元に、偏見に基づいた知見を語っていく場です。ですのでほとんど統計値などは出てきませんので悪しからず。いちポスドクの意見、感想だと思って下さい。

また今記事は「闇」だのなんだの言っていますが、筆者は修士課程進学を強く勧めています(少なくとも理系の場合)ので、その理由を知りたい方は最後まで読んでいただければと思います。
 



そもそも「博士」とは?

まず、博士(はかせ、はくし)というか、日本の学位に関して簡単に語っていきます。なんとなく頭いい人のあだ名は「はかせ」になりがちです。またよく巷でも昆虫博士やら筋肉博士やら、水土橋博士やら名前を聞くこともありますが、博士とは一体何者なのでしょうか?
 
博士とは、本来Ph.D.という称号を得た者が名乗れます。Ph.D.とはDoctor of Philosophyの略称で、大学における最高の学位です。

大学を卒業して企業に就職する方は自覚がないかもしれませんが、4年生大学を卒業すると「学士: Bachelor (バチェラー)」の称号を得ることができます。

その後に大学に残って研究をしたい場合は、修士課程に進むことになります。修士課程は2年間が一般的に必要で、単位を取得し、大学から決められた基準を満たした場合、「修士号: Master(マスター)」の称号を得ることができます。
 
そこからさらに自分の研究分野を極めんと大学に残る者たちは博士課程にうつります。博士課程は修士課程に比べ、大学から決められた基準が厳しいので、取得には3-5年かかりますし、取得しないまま大学を辞めていく人も多いです。この厳しい基準をクリアして初めて「博士号: Ph.D. (そのままピーエイチディーと読みます)」を獲得できます。
 

修士について物申す?

ではまず博士の前に、修士に関して説明せねばなりません。
といっても修士に関して語ることはあり





ません!!


なぜならば、はっきり言って日本の修士号なんて誰でも取れるからです。バイオ系の修士号の話に限定しますが、周りの学生で修士号を取れない奴なんて一人しかいませんでした。その学生は親が急死してしまい、家業を継がないといけないという理由で修士を諦めていました。

ですので修士号は家庭の事情や、重病などの理由がない限りは誰でも取れます。なのでテレビやX等で修士号を前面に出してイキってる奴らは大体怪しいと思ってください。博士号取得者からしたら子供のようなものです。ちなみに学士は孫のような存在です。
 
学士と同様で、授業に出て単位を取得し、修士論文をまとめ、発表すれば卒業が認められるところが多いです。この修士論文は、以前の記事で話した審査が厳しい国際的な学術雑誌に採用してもらうという意味ではありません。

大学の卒業論文と同じ形式で、大学の教員に形式的に審査してもらい、大学に提出するのみです。しかもほとんどの場合は日本語でOKです。さらには大学教員が監督するので、審査する先生に手直しをくらうことはあっても、それによってまず落第、留年することはないでしょう。
 
皆さんが聞いたことがあるMBAはMaster of Business Administrationといって、要はこれも修士課程です。現在海外で働いている身としては、海外で学位を取ることは非常に尊敬できますが、日本で働く際に海外大のMBAがそんなにありがたがるほどの称号であるかはよくわかりません。

そもそも皆さん考えてみてください。

大学を出た直後の高々2年間のトレーニングで、どこまで学士と変わると思いますか?いやもっと考えてください。修士課程の就職活動は2年目からスタートします。ですのでまともに研究活動をするのは実質最初の1年です。
 
また授業は大学によって変わるかもしれませんが、大体週に一回程度あるのみです。しかも大学の教授の研究内容を聞かされるだけのことが多いです。週一回の授業以外は、研究室に閉じこもって研究をするのみです。ですので修士課程のカリキュラムのほとんどは配属された研究室の匙加減一つです。
 
それぞれの研究室で修士に特別なトレーニングを受けさせることが出来るかというとそんなことはありません。教授にとって修士学生は「無料の手」としてしか思われてないので、ただただ上司のポスドク、教職員の言う通りに手を動かすのみです。
 

これから修士課程を目指す皆様。これは肝に銘じておいてください。

これは博士課程にもいえることですが、『日本の大学院は、研究の進め方、論文や申請書の書き方などのトレーニングを受ける場所ではございません。これらのコツを「独学で」掴む場所です。』昔の寿司業界などで言われた「目で見て盗め」です。めちゃくちゃ非効率的です。ただし、これは研究室の方針や、研究室にいるいい先輩の存在一つでも変わってきますので一概には言えませんが。
 

修士は所詮「無料の手」?

日本の修士課程は実質2通りに分けることが出来ます。

博士まで進学する修士と、進学しない修士です。これは恐らく入学前に教授に聞かれることと思います。

博士課程に進学しない修士学生は研究面ではあまり期待されません。恐らく「無料の手」として使われることでしょう。なぜなら研究室の技術を習得してやっと使えるようになったと思ったら、彼ら彼女らは就職活動に移るからです。研究室によっては「無料の手」にも認定されないかも知れません。

一方、博士課程進学を希望するとそれなりの研究プロジェクトを与えられることが多いです。なぜならばその学生は、修士、博士の少なくとも5年間は同じ研究室に在籍することになるからです。また次回の記事で詳しく述べますが、博士号を取得するには「査読ありの国際紙」に論文を載せることが卒業要件になっていることが多く、論文になるプロジェクトを任されます。研究室の業績の立派な稼ぎ頭に格上げです。ただ「無料の手」であることには変わりません。
 
個人的にはよっぽど日本のアカデミアに興味がある場合でない場合は、博士で就職するより修士課程を卒業して就職するのが良いと思います。博士課程を出ると日本では就職しにくくなると感じます。所属する研究室のコネがある場合は別ですが、日本の新卒至上主義的に、色々スレた30歳前の博士号取得者よりも、まだ身が綺麗な修士課程の方が好まれます。

というか博士まで行くと色んな意味で後戻りできなくなります。修士ならまだこの科学の深淵から引き返せるぞー!!

筆者は企業就活したことがないので、データはなくあくまで筆者の感想です。筆者の周りでは修士で就活していた学生に比べ、博士で就活していた学生の方が苦労していただけかもしれません。また海外で就職する際は、博士号は重要になりますし、今後、日本の博士が重用される可能性もあるのでご注意ください。
 
 
次に有名な話かもしれませんし、筆者も散々言っていた修士課程の「闇」に関して話します。
 

修士の闇「学歴ロンダリング」

皆さん「学歴ロンダリング」という言葉は聞いたことがありますか?上で説明しました修士課程は学歴ロンダによく使われます。
名のある大企業に就職したいとしましょう。その場合、有象無象のFラン大卒の学歴ではとても太刀打ちできませんね。そんな時は東大、京大等の名だたるSラン大学の修士課程に入ります。先ほど言ったように修士課程の卒業は簡単です。
 
卒業は簡単でも入学は難しいだろって?そりゃ筆記試験と面接があるところが多いと思いますが、倍率は通常2倍あるかどうかです。今は少子化ですし、研究室からすれば学生は無料の働き手なので、大学入学時のような狭き門ではありません。東大に倍率2倍以下で入れるのです。そこで2年過ごし、修士号を取得できれば、晴れて最終学歴東大の完成です。
 
このようにSラン大学の修士、博士号を取得することで最終学歴を変更することを学歴ロンダリングと言います。就活には有利らしいですが、企業側も事情はわかっているので、出身大学をみるところもあるそうです。

かくいう筆者もFラン大ではないものの(と信じたい)、この学歴ロンダ組です。ですので生粋(きっすい)のSラン生(学士からSラン生のことを筆者はこう呼んでいます。)には嫉妬はないものの、尊敬はしています。筆者の母校は博士号をとったSランではなく、学士を取得したBラン大学だと今でも思っています。

ただ筆者は卒業が厳しいと説明した博士号までとっているので、Sラン卒の誇りを少しは感じてもよろしいでしょうか、Sラン卒の皆様方?

そうですか、やっぱりダメですか。。。
 

修士課程のすすめ

さて修士に関して語ることはあまりないと言いましたが、そこそこの分量となりました。ここまで聞くと修士号を取る意味があまりないじゃないかという人もいるかもしれません。最初に書きましたが、筆者としては「修士進学」はかなりお勧め(少なくとも理系なら)です。
 
自分の分野で就職したいと思っている企業や職種が「修士号」を求めているならぜひ修士課程に進学することをお勧めします。繰り返しになりますが「修士号」は誰にでも取得出来るからです。卒業要件が厳しくないので、大学のようなモラトリアム期間が伸びると考えて良いでしょう。実際バイトや合コンばっかりしていた修士学生を数多く見てきました。
 
本記事の前半と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、この記事を通して一番言いたいことは「修士号」なんて大したことないので、少しでも研究に興味があれば、またキャリアの足しになるなら軽いノリ(学歴ロンダ狙いでもOK)で進学してほしいということです。修士号はコスパ良しです(学部によるので要注意)。博士のように進学したものの、学位も取れず路頭に迷うことはありません。またSラン大とはいえ、大学院学生は「無料の手」なので研究室は欲しがります。

ですので「私くらいの学生がこんなトップラボに修士で入るなんて恐れ多い」なんてことは全く考えないでください。どんどん日本のトップラボを狙いましょう。
 

ちなみに筆者が考える大学院生向けの”いいラボ”の選び方はこちらをご覧ください。


続いて学歴ロンダリングのメリットについて語っていきます。

学歴ロンダのメリットその1

また現状日本の大学院は、研究に必要なスキルを「独学で」掴む場所になっていますが、言い方を変えれば自分の頑張り次第できちんと成長できる場所でもあります。Sラン大には筆者のようなロンダ生もいますが、勿論生粋のSラン生や優秀な教職員がたくさんいます。ですのでこのような環境に身を置くことで、周りから吸収できること、学べることは大いにあります。

また週に1度の授業では、様々な教授が自分の研究内容を話しにくると述べましたが、今思うと結構偉い先生も来ていて、もっと真面目に聞いておけばよかったと後悔しています。


学歴ロンダのメリットその2 

また良くも悪くも生粋のSラン生の底を見ることも出来ます。勿論優秀な人が多数ですが、「(特に研究に関して)大したことないなぁ」と感じる生粋のSラン生も多々いました。

お前らは大学に入った後に遊びすぎや!!

生粋のSラン生は気づかないかもしれませんが、Sラン大学は所属する研究室、施設どれも日本屈指であり、あいつらはその価値がわかってません。自分がいかに恵まれた環境にいるか分かってないのです。彼ら彼女らは、Sランの環境が普通だと思っていて世間を知らない純粋培養が多いです。

要は「勉強できるけど馬鹿」なタイプも多いのです。ただし彼ら彼女らを起こしてしまうと、筆者レベルは余裕で超えていくので、そのまま寝かせておきましょう。安心してください、4年間の長い眠りについていたので簡単には起きません。

まとめ

ちょっとでも研究に興味があるなら、修士に進学することを筆者はお薦めします。とてもコスパ良しで、もしたまたまでもいいので、現行の研究プロジェクトがうまくいったら博士に進学することを視野に入れるのもありだと思います。ただしその前に筆者の次の記事を読むことを強くお薦めします。


さて、では次にいよいよ本番である博士課程の「闇」に移っていきたいと思います。

ある人は言いました。日本の博士号は足の裏についた米粒だと。なぜならば普段は全く役に立たないけれど、いざというときに少しだけ役に立つからだと。

後半はこちら


 

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