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【短編小説】 メタバース

打ち上がる花火。スーパードライの空き缶をビニール袋のなかにしまって、無糖レモンサワーを出した。もうだいぶ酔いがまわっている頭で、僕はなぜだかメタバースのことを考えていた。この前に参加していたアート・フェスティバルで、急きょトークセッションが催されることになった。その打ち合わせにオンラインで参加させてほしい、と連絡したところ、先方が読み違えてトークセッション本番もオンライン参加する手筈になってしまっていたようなのだ。確かに、先方が読み違えるようなメッセージを送信してしまった僕にも落ち度はあるが、いくらメタバースとは言っても……自分の作品についてを語る/語ってもらうためのトークセッションで、ゲストはリアルに来場していて、ホストの僕がオンライン参加するっていうのは甚だ礼儀が欠けている、とは思わないか。思わないのか。メタバースだから。

僕みたいな古い価値観を持っている人間はそんなふうに考えてしまう。けれど、早くも新しい価値観にアップグレードしている人たち(僕からすればそれは少数派であるように見える)や自分よりも10歳以上若い世代とかはべつにオンラインであること/オフラインであることをいちいち気にしないのだろうか。


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