2024年1月、とってもかわいくて笑える、ことば遊びの絵本が誕生しました。文・織田りねんさん、絵・ちえちひろさんによる『なぞなぞどろんのもり』です。
この絵本は、江戸時代を中心に楽しまれていた言葉あそび、「判じ絵」をテーマに作られています。言わば令和版判じ絵えほん!
こんな感じで、お話の中に、絵とひらがなをヒントに解くなぞなぞが、全部で26個入っています。
わずか32ページの絵本ですが、完成までには2年以上かかりました。
「判じ絵」というテーマがいかにして、この『なぞなぞどろんのもり』という絵本につながっていったのか。今回はその2年間で、作家さんや画家さん、デザイナーさんとどんなふうに絵本を作っていたのかを、文の織田りねんさん、絵のちえちひろさんにも、その時々のコメントをいただいて、ここに記録したいと思います。
(文章・聞き手/担当編集 上野萌)
はじまり 「判じ絵」っておもしろい
まず最初に、みなさま「判じ絵」というものをご存知でしたでしょうか。
江戸時代のおもに庶民に広く親しまれていた絵を読み解いて答えを出す、なぞなぞです。たとえば、手ぬぐいの柄などでよく見られる「鎌〇ぬ(かまわぬ)」も、判じ絵の一種と言われています。
大人でも結構むずかしくて、トンチやシャレを利かせたものが多いというのが特徴。江戸の人と知恵比べ・ユーモア比べをしているような感覚で答えがわかったとき、思わず「わかった!」と叫んで、そのセンスにニヤリと笑い、誰かに伝えたくなる楽しさがあります。
とある判じ絵の展覧会で、こどもたちがなんとものびのび、展示を楽しんでいる様子を目にしたことが、このテーマで絵本ができないかなと考えはじめたきっかけでした。
「だじゃれ」のようなことば遊びって、やっぱり面白い。昔ながらの判じ絵をここまで楽しめるのならば、これを現代の言葉で絵本にできたら、めちゃくちゃ面白いのではないか…?
そんなことをぼんやり思いつつも何年か… ついに形にしてくださったのが、作家の織田りねんさんと、イラストレーターのちえちひろさんです。
2022年1月 スタート!
なぞなぞ遊びは、実は高度なコミュニケーション
「判じ絵」をテーマにしたら、おもしろい絵本になるに違いない…
では実際にどんな内容にするのか? やっぱりお江戸を舞台にするのがいいかな? 1見開きに1問ずつ出てくるような、クイズ絵本がいい?
そんな漠然とした状態の中、これだ! と進むべき道へ光を当ててくれたのが、作家の織田りねんさん。
子どもたち目線に立って無理なく楽しく、そして答えに納得感のある現代版の判じ絵を考えてくださるに違いない…! そう感じてお話をしたところ、おもしろいですね! 考えてみます! とすぐにのってくださった織田さん。それから織田さんも判じ絵についてたくさん調べてくださって、
「この絵本で大切なのは、判じ絵を解いたときに、『あ〜!なるほど〜!』というしっかりした納得感があることだと思います!」
という大事な指針を定めてくれました。
それから何度かのメールでのやりとりを経ていただいた原稿が、今の絵本のもとになっています。
それは「主人公がある日、不思議な森へ招待されて、その森で『判じ絵のような不思議なもの』に化けてしまっている動物たちを、元の姿に戻していく」…という、ストーリー絵本になっていました。
ストーリーを入れることで、お話の最後の「オチ」もしっかりでき、絵本で実はとっても大事な「繰り返し読みたくなる面白さ」が生まれました。
そこからは、ストーリーには描かれない裏設定まで含めて、絵のちえちひろさんも一緒にラフも描いていただきながら、ブラッシュアップをしてくださいました。
「判じ絵」を、子どもたちにも身近な響きに言い換えよう、と案を出してくださったのも織田さん。昔話も参考に、「変身」や「ばける」というイメージから「なぞなぞどろん」という、耳に残るフレーズが生まれました。
2023年3月 絵のタッチを決める
ストーリーと並行して、今回の絵本をどんなタッチで描いていただくか? という点も、ちえちひろさんにはたくさんご検討いただきました。
元々、そのおおらかな作風、ユーモラスな表情、そしてゆったりとした線が、浮世絵版の判じ絵と通じるものがある…
まさしく現代版の、今のご家族や子どもたちに愛される「判じ絵」を描いていただけるに違いない…と感じて、ご相談をしたちえちひろさん。
ただ今回はふつうのストーリー絵本とちがい、お話の中に問題がたびたび登場するという特殊な絵本のため、とくに「なぞなぞどろん」の部分をどう描くか、じっくり考えてくださいました。
・ストーリーの中でどの部分が問題なのか、はっきりわかるようにしたい
・とくに「なぞなぞどろん」の絵は、ユーモアはありつつきちんとその「物」だと認識できるようにしたい
というふたつを大事に、何パターンも検討してくださいました。
2023年6月 こどもたちと遊んでみる
そうしておおよそ固まってきたころ、最後に何度も検討を重ねてくださったのは「なぞなぞどろん」のレベル感でした。
ひらがなを習いたての5歳~小学校低学年の子が、絵やヒントを手掛かりに無理なく解けるのは、どのレベルだろう?
ラフの段階でも、何度かこどもたちの意見はもらっていましたが、やはりカラー絵でないと、子どもたちの本当の理解度をはかるのは難しい……。
そこでちえちひろさんに、「なぞなぞどろん」部分を先行して描いてもらい「なぞなぞどろんカード」を作成。
そして、大阪の織田さん・佐賀のちえちひろさん・東京の担当編集と3か所で、対象年齢のお子さんにそれぞれに遊んでみてもらいました(ご協力くださったみなさま、本当にありがとうございます…!)
そこでいただいた意見や子どもたちの反応をもとに、最初はシンプルに絵とひらがなをつなげて読む問題。
次は、絵をひらがなにおきかえて解く問題や、数え方の問題、濁音を使う問題…と、徐々に難しくなる展開になっています。
こうしてストーリーが定まり、ラフや絵のタッチも決定!
この段階でチームに入っていただいたのが、デザイナーさんです。
2023年7月 デザインでさらに魔法がかかる
『なぞなぞどろんのもり』は、ストーリーの流れの中で「なぞなぞどろん」を楽しんでもらう絵本。
絵とテキストの配置がとても大事になると考えて、今回はデザイナーさんにも比較的早い段階で入ってもらいました。
担当していただいたのは、伊藤紗欧里さん。
という流れでつくられています。
(※原画と色が若干ことなるのは、データの関係です)
もうひとつ大事なのが、絵本の顔となる表紙絵。これも伊藤さんのアイデアで大きく変わりました。
目をひく表紙にするためには、タイトルとキャラクターをしっかり大きめに見せることを優先した方がいいのでは? 「どんななぞなぞなのか」については帯で補足するのはどうでしょう?
とご意見をいただいた結果…ひかるの顔がドーンと目に入り「なぞなぞ」の文字もよく目立つデザインになっています。
2024年1月 いよいよ発売!
以上が、入稿の直前まで、『なぞなぞどろんのもり』がたどった約2年間です。
ここでご紹介した絵本づくりの流れは、あくまでも今回は…という例です。作品にあわせて、いろんな作り方、作家さんにもいろんなお考えがあると思いますが、振り返ってみても今回の『なぞなぞどろんのもり』には合ったつくり方ができたかなと、今感じています。
最後に、織田りねんさん、ちえちひろさんさんから読者の方へのメッセージをご紹介します。
ちえちひろさん、織田りねんさん、素敵なコメントもありがとうございました!
担当者の私は、この2年ですっかり「なぞなぞどろん脳」になってしまって、「なぞなぞどろん」にするとどんな絵になるかなあ、と考えている自分がいました。
みなさんも自分で「なぞなぞどろん」を作りたくなりませんか? この記事を通して、絵本の…そして「なぞなぞどろん」のおもしろさが伝わったらうれしいです。
みなさんもよろしければ…絵本でいっしょに、