【1本のnote記事が繋いだ出会い🦊】自分ですごろくを作っていたかつての小学生が、小学校ですごろく作りの授業をすることになった!
こんにちは。ポプラ社の竹村と申します。ポプラ社で働く一会社員の私ですが、この度なんと
小学校で「すごろく」について授業をしてきました……!
会社で働く会社員が小学校で授業????
それもすごろくの授業????
今回の出来事は、実は私にとっても寝耳に水の話でした。
しかもすべての発端は、私が2年前に書いた1本のnote記事なのです………!!
まったく予期しない出会いでしたが、この貴重な経験が、子どもに関わる仕事をする私に、重要な気付きをあたえてくれました。
思いがあふれて少々長くなりますが、ぜひみなさまに語らせてください!
はじまりは1本のnote記事
ことの始まりは2022年の12月。新卒で入社して1年目のときに、私は「自分ですごろくを作っていた小学生が、新入社員として出版社 に入ってすごろくを作ることになった!」という記事を、noteにあげました。
記事では、小学生のとき、ものづくりが好きで、マンガやイラストを描きながら、すごろくを作っていたこと、ポプラ社に入社して、大好きだった「かいけつゾロリ」のすごろく企画・『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム』の担当になったこと、そしてその経験から学んだことについて書いています。
あれから約2年、私は当時所属していたゾロリの本を作るチームから離れ、ゾロリをはじめとするポプラ社のキャラクターのグッズ化や広告利用をおこなったり、映像やSNSなど新たな手段でコンテンツを生み出したりと、本を軸としながらも本だけにとどまらない展開をめざして活動する部署に所属することになりました。
(端的に言えば、ライセンスビジネスと新規事業開発をあわせて行っているような部署です。最近では、下記のようなコラボをおこないました。新規事業としては、アプリでゾロリの本やアニメ、ゲームが楽しめる「かいけつゾロリバーチャルゾロリ城」の開発などを進めています)
🦊マクドナルド 『ほんのハッピーセット(R)』 にかいけつゾロリが初登場!
🦊かいけつゾロリが森永アイス「パリパリバー」とコラボ!
🦊バーチャルゾロリ城HP
今年度から新しいこの部署で働きはじめ、どうしたら本以外の手段でコンテンツを届けられるのだろうと模索する日々のなかで、頭のなかにいつも浮かんでくるものがありました。それは……
ボードゲーム……!!
紙でできたゲームは書店で売られることも多く、本とは近しい要素があるものですが、みんなでいっしょに楽しんだり、その場でなんども繰り返し遊んだりと、本とはちがう体験をもたらしてくれるものでもあります。企画で作ったゾロリのすごろくも、そのひとつです。
ゾロリのすごろくを作った経験を思い出しながら、私はまたなにかボードゲームの企画ができないかと考えていました。
やはり私は、『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム』のことを忘れられなかったのです。
突然のメール
そんな6月のある日、会社宛てに1件の連絡が届きました。
!!!!!!!!!!!!
なんと私に、「すごろくについて話してほしい」という依頼がきたのです!それも、私の書いたあのnote記事を読んでいただいて!!
会社の総務から転送されてきたメールをみて、しばらく呆然とする私。まさか2年前のnote記事をきっかけに連絡をいただくことがあるなど予想だにしませんでした。
ですが、小学校の児童のみなさんにすごろくについてお話しできるというのは、私にとってはこのうえなくありがたい機会です。ぜひともお引き受けさせていただきたい……!
さっそく「かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム」を一緒に担当した先輩と、現在の上長に状況を伝えました。返答は「ぜひやってみたらいいと思う」とのこと。
果てには社長から「子どもたちと直接交流する機会があるなんて羨ましいよ……ポプラ社のファンを増やしてきてほしい」とまで言われます。心強い会社の後ろ盾を得て、満を持して依頼をお引き受けできることになりました。
会社の広報担当・松田も同行して学校にお伺いすることが決定し、本格的な準備を開始します。
子どもたちに伝えるということ
それにしても、どうして先生は私に声をかけてくださったのでしょうか?
すごろく作りのスペシャリストであれば、ほかにもっと適役の方がいらっしゃるはずです。依頼の詳細や当日の流れをお聞きするために、益山先生とオンラインで事前打合せをおこないました。
益山先生が担任を務められている3年1組では、総合の時間にまちたんけんの学習を実施しているそうです。まちについて調べていくなかで、まちの魅力を伝えるための手段として選ばれたのが、すごろくでした。
つまり今回、私がすごろく制作について話をするよう依頼を受けたのは、子どもたちがこれから実際に、総合の授業ですごろくを作っていくからだということです。
しかし、それでもなぜ私なのでしょうか?
実はなんと、3年1組のクラスでは、普段からゾロリのすごろくを遊んでくれているそう。
付属のチップまでもが丁寧にファイリングされて、いつでも遊べるように教室に用意されています。
子どもたちがゾロリのすごろくに親しんでくれているのであれば、たしかに私がお話させていただく意義もありそうです。
また益山先生からは、すごろく作りの楽しさやコツだけでなく、すごろく作りを通して学んだ経験についても、ぜひ子どもたちに話してほしいと言われました。
私は、すごろく作りはもちろん、人と一緒にものを作るということにおいても、まだまだこれからの立場。
ですが、だからこそ、日々の経験を通じて現在進行形で学んでいることを、これから人と一緒にものを作りはじめていく子どもたちに、近い目線で伝えることができるのかもしれないと思いました。
子どもたちからの招待状
訪問の日が近づくなか、学校から郵便物が届きます。
なかに入っていたのは、子どもたちからの招待状……!
一生懸命に書いてくれた手紙から、ぜひすごろく作りについて教えてもらいたいという強い思いを感じました。
今回の訪問は私にとっても貴重な機会ですが、慣れ親しんだゲームを作った人に会えるというのは、子どもたちにとってもきっと、ほかにないような経験になるはず。
日々目まぐるしく成長する子どもたちですから、もし私の話が彼ら、彼女らの進む方向を変えてしまったとしたら、その変化が角度にしてわずか数度であったとしても、いずれは全く別の場所に辿り着かせることになってしまいます。
そうであるならば、できるだけ良い場所に辿り着いてもらいたい。
手紙を読んで、まだまだこれからさまざまに変化していくであろう子どもたちの前でお話させていただくことへの責任を強く感じました。
小学校への訪問、そして……
そして当日、お話をさせていただく横浜市立本町小学校へと向かいます。
お話する3年1組のある階に上がると、そこで待っていたのは、子どもたちからの熱烈な歓迎……!
「ゾロリのすごろく、いつもあそんでる!」
「ねえねえ、クラスこっちだよ」
「早く来て!」
「あれ、この服ゾロリ!?」
「このゾロリ、なんかちょっとちがってる?」
「本当だ! マントがやぶれてる!!」
「こっちはぼうしかぶってない!!」
シルエットのちがいを楽しめるゾロリシャツを着ていったばかりに、間違い探しを始める子どもたちに囲まれて、なかなか授業が始められません。
「はい! みなさん、授業始めますよ!」
益山先生の一声で、子どもたちはわらわらと席に着きはじめました。
物珍しいゲストに目を奪われながらも、しっかりと先生の話は聞く子どもたちの素直な様子を見て、少し浮かれてしまった私も襟を正します。
授業ではまず、私が小学生のときに描いていたマンガやイラスト、作っていたゲームなどを紹介するところから始めました。
私の小学生時代についてお話することで、私のことを、すごろくについて教えてくれる大人というより、自分たち子どもの延長線上にいる人として、身近に感じてもらえるのではないかと思ったからです。若輩者の私がものづくりについて話をさせてもらうなら、若輩者ならではの武器を使うしかない……!
実家から持ってきた自由帳を取り出してみせると、子どもたちは興味津々で「なにがかかれてるの?」「ぼくもじゆうちょうに絵かいてるよ!」などと、思い思いに反応を示してくれます。自由帳作戦はうまくいったようです。
しかし、肝心の話の本題は、すごろく作りについて。
その話をするにあたって、ぼくには子どもたちにぜひ伝えておきたいメッセージがありました。
「遊ぶ人の気もち」を想像して取り組んでほしい
私は授業で、すごろく作りの4つのポイントを伝えました。
① アクセル:どうすればおもしろくなるか考えて、アイデアをだしあう② ブレーキ:時間どおりにもんだいなく作れるか、せいりする
③ なかまをしんらいして、きょうりょくしながら作る
④ あそぶ人のきもちになって考える(なんのために作るか考える)
これらはすべて、チームでのものづくりにおいて基本的なことです。
ですが一方で、私が大人になってから、ようやく少しずつ意識できるようになってきたことでもあります。
小さいころからものを作るのが好きだった私ですが、子どものときは、イラストにしても、マンガにしても、ゲームにしても、いつもひとりで作っていました。
そしてただひとりで作っていたというだけでなく、すべてひとりでコントロールしてものを作るということに、価値をおいていた面もありました。自分の作る世界をほかの人に踏み荒らされたくないというような気持ちが、ずっとあったのです。
そんな私がはじめて人と一緒にものを作ることを経験したのは、大学生のとき。大学の謎解き制作のサークルに入り、謎解きが遊べるキットを作りました。私はデザインやイラストを担当していたのですが、いわゆる「謎解き」の問題を作るスキルはないため、問題作りの面においては、他のメンバーを頼るほかありません。
また、制作したキットは、大学の学祭などで販売する、お金を出して購入いただく商品でした。
いままでは、「面白いものを作りたい!」という自分の気持ちを原動力に、グググッーとアクセルを踏んでものを作っていましたが、期日通りに売り物としてのクオリティを保ったものを完成させるには、内容面や仕様面で「本当にできるのか?」と常に足をブレーキに置き、振り返る必要があります。
これまで、思うがままにものを作り続けてきた私は、この「ブレーキ」を踏むという点においてもほかの人に頼ることが多く、何度も助けられました。
そして、ポプラ社に入社してから制作にかかわったゾロリのすごろくでは、より一層、「人と一緒にものを作る」ということを意識するようになります。なにしろ、関わる人数が大幅に増えているのです。
社内の編集者のほか、社外の編集プロダクションの方々や、デザイナーの方などが一緒になって、すごろくの盤面を作っていきます。そのほか、製造や流通の過程にかかわる人も大勢います。
『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム』は、本当に多くの方が動くことによって成り立っていました。
様々な人の手を通してものが作り上げられていくのを目の当たりにしたこの経験で、よりよいものを作るためには、自分の世界に固執するのではなく、「一緒に作る人のことを信頼して尊重する」ということが大切になると、身をもって実感することになりました。
そしてもちろん、すごろくを作ったその先には、実際にすごろくを遊んでくれる人たちがいます。
ボードゲームは本と違い、それ自体に決まったストーリーのようなものはありません。あえて勿体ぶって言えば、ひとつの盤面を通した人との交流と、そこで生まれる体験こそが、ボードゲームの「ストーリー」です。
ある意味では、遊んでくれる人がいるからこそ、ゲームは作り上げられるのだと言えます。
そうであるならば、ボードゲームを制作するときは、なにかほかのものを作るとき以上に、遊んでくれる人や遊ばれるシチュエーションについて想像することが重要です。『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム』の制作で、私は「遊ぶ人の気持ちを考える」ということを学びました。
この経験から私なりに考え、これからすごろくを作る子どもたちに伝えたのが、先に書いた4つのポイントです。
ものを作るのがすきな子どものなかには、私のように、自分だけの手でなにかを作り上げたいと考えている子もいるはずです。もちろん、自分の力でひとつのものを作り切る経験は自信につながりますし、いまの私は子どものときのものづくりの経験によって形作られていると言ってよいと思います。
ただ、授業でクラスのみんなで、すごろくというひとつのものを作りあげるなら、一緒に作るメンバーや遊んでくれる人のことを思いやるという外向きの姿勢が不可欠です。(本当に自分の好きに作りたいのであれば、授業ではなく、個人の遊びとして作ることもできます)
少なくとも私は、そういう姿勢で子どもたちにものづくりに臨んでほしいと考えました。
私の話したことは、それ自体印象に残るようなことではないので、もしただ伝えていただけなら、ほとんど聞き流されてしまっていたかもしれません。ですが、今回はありがたいことに、私はゾロリすごろくの作り手として、大歓迎を受けている立場……! 子どもたちはすごろく作りの秘訣を聞き逃すまいと、真剣に話を聞いてくれました。
それぞれ自分なりに、話の内容を理解しようとしてくれているのが見て取れて、私は改めて、子どもたちに直接話ができる機会のありがたみを感じました。
子どもたちと触れ合って
お話をさせていただいたあとは、みんなで一緒にゾロリのすごろくタイム。
それぞれ班になって、全6種類のゲームの中から気になったものを選んで、遊び始めます。
「いっしょに『大金もち 大さくせん』やりたい!」
私はそのうちひとつの班に入れてもらって、「大金もち 大さくせん」をプレーしました。
自分が制作にかかわったゲームを子どもたちと一緒に遊ぶことができるというのは、なんと幸せなことでしょうか……!
ルールや仕様について省みる場面もありつつ、クラス中の子どもたちがみんな熱中してすごろくを遊んでいるのを見て、改めて手前味噌ながら、「かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム」は幅広い子どもたちに楽しんでもらえる、本当によい商品だと感じました。
持ってきた自由帳や書籍を子どもたちと眺めたり、一緒に給食を食べたりと、そのあとも楽しい時間を過ごします。
「思う気もち」であふれた教室をささえる担任の先生
楽しそうな子どもたちに囲まれながら、私は教室の壁に目をやります。そこには、教室に入ってから、ずっと気になっていたものが貼られていました。
総合の時間の活動についてまとめた、手書きのポスターです。
今回、子どもたちは最初から私を喜んで迎え入れてくれ、きっと難しかったであろうものづくりについての話も、真剣に聞いてくれました。クラスみんながあまりに素直なので、こんないい子たちばかりのクラスがあっていいのかと感じたほどです。
ですがこの歓迎ぶりも、子どもたちへの愛がこもったポスターを見て、納得しました。私たちが訪問するまでに、子どもたちのすごろく作りへの意欲が高まるよう、担任の益山先生が丁寧に子どもたちを導いてくださっていたのです。
私はふだん、子どものための本やコンテンツの制作にかかわっていますが、子どもたちと直接触れ合える機会は多くありません。
「楽しいものを作りたい」というのが一番の動機で就いた仕事でしたが、働くうちに実際に本を手に取って読んでくれる子どもたちやその保護者の方のことを思う気持ちも少しずつ強くなってきました。
益山先生のクラスは、まさにその「思う気持ち」にあふれた場所でした。
わざわざ2年も前のnote記事を見つけ、私に声をかけてくださったのも、「子どもたちに前向きにすごろく作りに取り組んでもらいたい」という気持ちからのはずです。子どものために労力を惜しまない姿勢は、そう簡単に真似できるようなものではないですが、子どもにかかわる仕事をしている身として、しっかり見習わなければいけないと感じました。
お礼のお手紙が届いて
訪問から数日、子どもたちからお礼のお手紙が届きました。
手紙を読んで、子どもたちがしっかりと私の話について考えてくれたことが伝わってきて、本当に嬉しかったです。
一度授業しただけの立場ではありますが、子どもたちには、自分の「好き」も「周りの人」も、どちらも大切にできる人になってもらいたいと思っています。
***************
今回の訪問は私にとっても学ぶことの多い機会でした。
そして、いままで私が与えてきてもらったものを、次の世代に伝える立場に少しずつなっていかなければならないという責任も感じました。
貴重な経験をさせていただいたことに感謝しつつ、今後も引き続き「楽しい」ものを作っていきたいです。
(ただいま新しい書籍の企画やボードゲームの企画も、企画中&進行中なので、3年1組の生徒のみなさんに負けないように、私もがんばっていきます!)
(文・編集部 竹村)
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『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲーム』
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