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自分ですごろくを作っていた小学生が、新入社員として出版社 に入ってすごろくを作ることになった!

2022年ポプラ社に入社して児童書編集の編集部に配属されることになった新入社員が、試行錯誤しながら初めての本作りに挑戦。しかも担当することになったのは、通常の児童書書籍ではなく、箱に入ったちょっと変わったアイテムでした。本人のレポートと共に今書店でも大評判で年末年始にもぴったりな『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲームBOX』が出来るまでをご紹介します。

▲おかげさまで好評をいただいております!

小さいころから描くことが好きだった

こんにちは。児童書編集部の竹村と申します。
今年度ポプラ社に新卒で入社した一人です。小学校にいつも自由帳を持っていき、イラストやマンガを描いては、友達に見せる毎日。
とにかく暇さえあれば絵を描いているような子どもで、小学校を卒業するときには、クラスのみんなからもらう寄せ書きに、「また絵を描いて見せてね」と書かれるほどだったので、周りからも何かをいつも描いている子と思われていたようです。
そして描いていたのは、イラスト、マンガはもちろんのこと、めいろやさがしえ、まちがいさがし、ゲームブック、図鑑、飛び出す絵本など、ペンと紙で作れるものは、なんでも作っていました。

▲大迷路らしきものも作っていたようです。

そのなかでも私がとくに作るのが好きだったのは、「すごろく」
すごろくというのは、サイコロをふって、スタートからゴールをめざすだけのシンプルなゲームですが、シンプルであるがゆえに、そこにはたくさんの創意工夫の余地があります。コースを追加したり、カードを用意したり、特殊なサイコロを使ったり……。とにかく奥が深いんです!
絵を描くことだけではなく、ゲームを作ることも大好きだった私は、このすごろく作りに熱中しました。いくつもすごろくを作っては、家族や友達を誘って、実際に遊んでもらう。が、あまりのその回数と頻度のため、親は面倒くさがってプレイしたがらないので、もっぱら弟とふたりで遊ぶことになっていました。

そんな私も年を重ね、現在は24歳。立派な、といえるまではまだまだですが、十分に大人といえる年齢になりました。
あんなに熱中していた、すごろく作りも忙しさの中ではなかなか時間が作れず、それでも絵だけは描き続け、たまにマンガも描いています。中学生のときから作り始めた、超大作の300以上の分岐ができてしまったゲームブックを、今年こそは……と毎年思いながら、完成に向けてがんばっています。

▲なんで続けているのか自分でももはや分からない…ゲームブック。正直、終わる気がしません。

好きなことから仕事としてのすごろく作り

そんな好きなこととして絵を描くこと、ゲームブックを作ることを日々楽しんでいる中、入社したポプラ社では、編集部へと配属が決定しました。とにかく最初は、見様見真似で先輩や上司から頼まれる仕事を進めていくのが精一杯であったある日、編集部内で進行していたある企画の担当になりました。それは、「かいけつゾロリのすごろく」の企画。「仕事として、すごろくが作れる! しかもそれを全国のみなさんに遊んでもらえる!」
企画の担当として任命された私の気分は高まります。(ちゃっかり、いっしょにすごろくで遊んでいた!?というか、付き合わせていた弟にも大急ぎで報告しました)。
大好きなすごろく作りの上に、大好きなゾロリまで!全巻持っているのはもちろん、大好きな巻はセリフまで覚えているような、そんなゾロリのキャラクターを使って、しかも公式のすごろくを作ることができるだなんて、小学生のときの自分が知ったらどう思うんだろう。まさに、そのとき夢見ていた仕事を、今まさにやれているんじゃないだろうかと、制作に取り組む前から得意満面でした。

▲2001年に発売された、すごろくが入った『かいけつゾロリのおたからブック』も遊び尽くした覚えがあります。

ただ、いざ、大人になってからの、仕事としてのすごろく作り。
その工程は、小学生のときのすごろく作りとは、そして自分が思っていた編集作業とは違っているところが多々ありました。
まず、関わる人の人数が違います。自作のすごろくはひとりで制作しますが、出版社で作るすごろくは、たくさんの人たちと協力しながら作業を進めていくことになります。
今回のすごろくはBOXになっており、収録されるすごろくの数は6種類。まずは編集プロダクションに制作を依頼します。編集プロダクションとは、編集業務を行う制作会社のことで、編集業務の量が多くなる場合には、委託で業務を行ってもらうことがあります。

外部の人と協力しながらの作業に、最初は緊張しながらのスタートでした。実をいうと作業を始める前は、「6つのすごろくの盤面を作るだけなら、ひとりでもできるんじゃないの?」と、不遜にも思っていたところがありました。(だって、小学生のときはひとりで作ってたし……)もしかすると、「アイデア」としてなら、6つ作るのも可能なのかもしれません。実際に、編集プロダクションのかたがラフを共有してくださったのは7月の頭ごろで、9月の末を予定している校了まではかなりの余裕がありました。
しかし……私自身が想像していた以上に、すごろくを商品として発売するまでには、さらにいくつもの工程が待っていたのです……!(結果的に全然時間に余裕はありませんでした……)。

商品としてのすごろく作り

編集プロダクションのかたが作成してくださった肝心のすごろくのラフですが……

それがすごく面白い!!!!
シンプルなすごろくにならないように、それぞれのゲームにオリジナルのギミックがあり、カードやチップを使って盛り上がるような展開が用意されています。まさに、小学生のときの自分が作りたかったようなすごろくが、そこにはありました。しかし、そのラフをそのまま印刷して商品に、というわけにはいきません。まず、プレイしてみて実際に楽しめるか、矛盾するようなルール(バグ)はないかということを確認するために、テストプレイを行う必要があります。
「こんな面白いすごろくゲームはない!」と意気揚々とすごろくを広げ、編集部の先輩たちにお願いをしていざプレイしてみると……、「あれ?」と思うことなど、やはり気になる点がいくつか出てきました。(思い返してみると、私が小学生のときに作ったすごろくも、実際に遊んでみると、狙っていたルールがうまく機能しなかったことがよくあったんですよね)。

たとえば、こちらの「大金もち 大さくせん」

▲こちらは、その何度もの試遊の結果、やっと完成し出来上がった盤面。

盤面の外側を周回しながらお金を集めて金貨に換え、先に金貨を4枚集めた人の勝ち、というゲームです。しかし、お金が10枚集まると自動的に金貨に換わってしまうため、お金が必要なタイミングで手元にないことが多いという問題が見つかりました。

このゲームの一番の醍醐味は「投資ができること」
商売ゾーンに止まったプレイヤーが始める商売に、ほかのプレイヤーがお金を出して出資します。商売がうまく成功すれば、出資したお金は何倍にもなって返ってきますが、失敗するとリターンがゼロになってしまうことも。このゲームには、お金の仕組みを学んでもらうという狙いもあったので、「投資」は外すことのできない重要なルールでした。
しかし、手元にお金がなければ、投資ができません。このように、せっかく面白いルールを用意しても、それ以外の要素を調整しなければ、実際にはその面白さを体験できないということが、ゲーム作りではよくあるのだと知りました。

ルールの大枠を整備したあとは、コマの色々な動きを想定して、マスの指示に矛盾がないことを確認します。

たとえば、マスの指示に「6マスすすむ」とあるのに、その5マス先にストップマス(強制的に止まらなければいけないマス)があったとします。その場合、その指示はうまく機能しないので、マスの位置を変えるか、指示を変えなければいけません。

カードをたくさん使用するゲームでは、そのルールも複雑になっていくので、いろいろなパターンを想定しながら調整を行っていく必要がありました。(すごろくを作る作業自体に、パズルゲームのような要素があると感じます。が、もともとパズルゲームなども大好き&得意なのでそれはそれで違った意味で楽しんでいる自分もいました)。

こうして、ゲームとして問題なく遊べるすごろくが完成! 
しかし編集作業はまだまだ終わりませんでした。
ゲームとして問題なく遊べる盤面ができたら、つぎはルールには直接関係のないテキストやイラストの確認です。

今度は、こちらの「大発明 タイムトラベル」

▲情報たっぷりのにぎやかな盤面。作った自分自身でも学べるポスターとして家に飾りたい…。

紀元前から現代まで、それぞれの時代に発明された発明品をたどりながら、エジソンやライト兄弟など、有名な発明家からサインをもらうすごろくです。高校で日本史と世界史を選択していた私ですが、このすごろくで紹介される発明品の歴史は知らないものばかり。(水洗トイレの歴史など、皆さんご存じでしたか?)事実に間違いがないか、参考文献を眺めながら丁寧に確認していく必要があります。そのほかのゲームでも同様に、書かれている内容が本当に正しいかを見ていきました。

ファクトチェックを終えたあとは、文章が分かりやすくなるように直していきます。ボードゲームといえど、この工程は、書籍の校正と変わりはありません。こうして校了直前まで何度も盤面と向き合って、いよいよ最後の確認が終わります。

「できた~!!!!!」

▲完成した『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲームBOX』。

こうして、『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲームBOX』が完成!!!(「大金もち 大さくせん」など、スタンダートなすごろくとは異なるゲームも含まれていたので、最終的に「ボードゲーム」という名称を使うことになりました)。

このボードゲームBOXですが、自分ひとりが担当していたわけではなく、実際には、編集プロダクションのみなさんにくわえて、上司である先輩の編集者と協力しながらの作業でした。
さらに担当編集の手を離れたあとは、印刷所での印刷、梱包、配送の流れがあり、ユーザーの手に届くまで、多くのかたがこのボードゲームBOXにかかわります。

小学生のときにひとりで黙々とすごろくを作っていた私が、大人になってから、こんなにたくさんの人と協力しながらいっしょにすごろくを世に送り出すことになるなんて! 
届いた見本を確認した日には、家に帰っても興奮が冷めやらぬ状態でした。
だって目の前には、自分で作った憧れのゾロリのすごろくがあるんですから!!

仕事としてすごろくを作ってみて

もちろん、商品として作るすごろくは、ひとりで好きなように作れるすごろくとは違うので、大変なこともありました。

しかし、すごろく作りの醍醐味は、サイコロを振ってすすむだけというシンプルなゲームのフォーマットに、独自のルールを追加して、ほかにはない展開を作り出せるところにあります。
今回の6つのすごろくは、どれもほかにはないゲームに仕上がりました。
それぞれまったく違う動きをするゲームが、しっかりと機能するように調整するのが、私にとってはとても楽しいことでした。

ぜひみなさんも、『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲームBOX』をプレイしてみてください!
そして、この記事を読んでこの商品に興味を持っていただいたら、『かいけつゾロリのあたまがよくなるボードゲームBOX』のプロモーション動画を作ったので、ぜひご覧になってください。(こっちは、ほとんどひとりで作りました!)
ボードゲームの世界に迷い込んだゾロリたちの運命はいかに……!
ゾロリ愛を込めた動画になっています。

▲自信作の動画でも紹介しています!コマ撮りにも挑戦しました!

そしてそして……もしよければ、自分オリジナルのすごろくを作ることもおススメします。集中力も高まりますし、自分自身の限界に挑戦も出来る、そしてお金もかからない趣味になりますよ!
私ももちろん、まだまだすごろく作ります!

▲昔から、技カードを使ったすごろくを作りたいと思っているのですが……思案中。

まだまだ駆け出し新入社員 竹村直也



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