「絵本は良いもの」その理由を深堀したい!~既刊絵本の魅力を再発見!非認知能力フェア~
突然ですが、
みなさん書店さんで、シーズンごと・テーマごとに、様々な「フェア」が開催されているのを目にしたことはありませんか?
児童書で言えば、一番多いのはクリスマスやハロウィン、入園入学など行事ごとのフェア。かわいい飾りやPOPとともに、同じテーマの本がまとまって展開されているので、選ぶ際にもとっても便利です。
こういったフェアは、書店員さんが考えてくださるものもあれば、出版社側から提案して、採用していただくものもあります。
フェアの嬉しいポイントのひとつは、過去に刊行された本にも再度、スポットライトを当てられること!
新しく出る本ももちろん手に取って欲しいけれど、既刊…たとえ何十年も前に刊行された本であっても、今の子どもたちのためになる本、届けたい本はたくさんある……! たくさん出ている本の中で、もう一度、お客さんに目をとめてもらうチャンスを作ってくれる場。そのひとつが「フェア」なのです。この記事では、そんな「フェア」に焦点を当ててご紹介したいと思います!
***
・絵本は成長の糧になる
・絵本を読むことはよいこと
と、私たち編集者は信じて日々、絵本と向き合っていますが、では具体的にどういいのか?というと……なかなか一言では説明できません。
でもそこを深堀することは、絵本の企画を考える上でも、絵本を届けていく上でも、とっても大事なはず。これをわかりやすく説明してくれる方はいないだろうか……。
そんな思いを抱いた編集者2名が、専門家の先生にお話を伺いに行ったことから、今回のフェアは生まれました。
その中で上がったのが、「非認知能力」というキーワード。
なんだか突然、小難しいワードが出てきたと感じるかもしれませんが、
「どんな絵本から、子どもたちはどんなことを学びうるのか」
「どんなふうに読むと大人も子どもも楽しめて、よりためになるのか」
などなど、絵本を選んだり、読み聞かせをする上で役立つ情報満載のお話をうかがえました。
この「非認知能力フェア」は現在、八重洲ブックセンター 京急百貨店上大岡店さんと、ルミネ荻窪店さんにて開催中! でも書店さんに足を運んでくださった方だけでなく、もっとたくさんの方にも目にしてもらいたい…! その思いで今回、フェア内容をこのnote記事でもご紹介することにいたしました。ぜひ、ご覧いただければ幸いです!
*******
「非認知能力」って大事そう。でも何だろう?
「非認知能力が養われる○○!」
「これからは非認知能力が大事!」
「非認知能力を伸ばそう!」
という言葉を、最近よく耳にするな…という方は多いのではないでしょうか?
なんとなく大事なんだろうな、とは思っていても、結局それがなんなのか? 伸ばすとどんなよいことがあるのか? よくわからない……
でも昔から漠然と言われてきたこと…「絵本の読み聞かせは、子どもにとって良い」「絵本は成長の糧になる」という根拠のひとつには、この「非認知能力」が関わっていました。
お話を伺ったのは、子どもの心や子育ての専門家、東京大学発達保育実践政策学センター(通常Cedep)の遠藤利彦先生。
ここでも、遠藤先生による「非認知能力」の解説からご紹介します。
「非認知能力」とは結局、どんな能力なのでしょうか?
(遠藤)非認知能力とは、私たち人間が日常生活を健やかに幸せに送るための心の基盤と言えます。より具体的には、自己と社会性のふたつの側面からなる心の力と言えるでしょう。
ひとつ目の「自己」に関わる心の力は、自分のことを大切にし、適度にコントロールができて、もっと良くしよう高めようとする心の性質を指します。これには「自尊心」や「忍耐力」「知的好奇心」などが含まれます。
ふたつ目の「社会性」に関わる心の力には、集団の中に溶け込み、他の人との関係を作って維持する力、平たく言えば他の人を信頼してうまくやっていくための力と言えるかと思います。たとえば「共感性」や「協調性」「規範意識」などの力です。
幼少期は、この非認知能力=自己と社会性の心の力の土台形成に関わる最も大切な時期です。
子どもはいろいろな人と濃密に関わったり、自発的な遊びに夢中になったりする中で、こうした力を身につけていきます。その遊びのひとつとして、絵本にも大事な役割があると考えています。
絵本のどんな面が、非認知能力を育む上で役立つのでしょうか?
(遠藤)絵本のよい点を一言で言うと、子どもと親、または子どもと仲間との関係を紡ぐものである点です。
読み聞かせを通して、子どもと親は、絵本に描かれている様々なものやストーリーを二人の共通の話題として、気持ちや言葉を交わします。そうすることで、子どもは親との情緒的な絆を深めたり、言葉や世の中の様々な知識を効果的に獲得したりできるのです。
もうひとつ重要なのは、絵本が豊かな遊びを支え、促すという点です。絵本の中には、絵や文字はあっても、音や動き、匂いや味や触感などはありませんよね。でも、子どもはそこにないものを自分の頭の中に創り出すことができるんです。時には、絵本のキャラクターを自分に置き換えて、自分の物語に変えたり……。
絵と文章のみというシンプルな構成だからこそ、子どもたちは絵本を通して柔軟に、想像する力と創造する力を身につけます。
さらに絵本に触発されて、現実の生活世界に探求や冒険に出かけたりもします。五感をフルに働かせ、自らアクションを起こす中で、環境から実に多くの大切なものを主体的に学び取っていく……。
絵本を通じたこの経験が、「非認知能力」を支え促す上でも、力強い味方となってくれるのです。
非認知能力について、もう少し具体的に教えてください!
(遠藤)非認知能力は、例えばこのような10の能力にカテゴライズすることができます。
(遠藤)「知的好奇心」や「自己効力感」、「協調性」などは、耳にしたことがある方も多いと思います。
それぞれがどんな力なのかは、具体的なシーンを見ていただいたほうがわかりやすいと思いますので、ここでは「自尊心」「レジリエンス」「セルフコントロール」「感情知性」をとりあげて、その力がよく表現されている絵本を例に、3名の研究者からご説明しますね。
自尊心 \ぼく、わたしが好き!/
(高橋)「自尊心」とは、自分自身に価値があると信じたり、自分のことを好きだと思える心のことです。「自尊心」は、精神的な健康と密接にむすびついています。
この「自尊心」が描かれている絵本としてご紹介したいのは『ルラルさんのバイオリン』です。
主人公のルラルさんは、年になんどかこっそり、お父さんの形見のバイオリンの手入れをします。ルラルさんも昔、バイオリンを習っていました。でも、いくら練習しても、お尻がむずがゆくなるような音しか出ないので、ほとんど弾かなくなってしまったのです。
ところがその日、ねこにせがまれて久しぶりに弾いてみました。でも、やっぱりルラルさんのバイオリンの音色は、ギコギコキーキー。
そこにやってきたワニが「体中の楽しい気持ちがお尻に集まって、笑い出すみたいだよ」と言って……。上手い下手ではなく、音楽を楽しむよろこびに満ちた作品です。
子どもは4、5歳くらいになると、次第に「自分はすごい!」「自分は何でもできる!」という幼児的な全能感から脱却して、自分にはできないことや、自分よりも他の子の方が上手にできることがわかるようになり、劣等感を抱く機会が増えていきます。お子さんに落ち込むようなことがあった日の夜には、この絵本を読んで、お子さんにはどんな素敵な所があるか話し合ってみてはいかがでしょうか?
レジリエンス \ピンチに負けない!/
(野澤)
「レジリエンス」とは、困難な状況に直面したときに、そのショックやストレスから回復し、適応していく心の力のことです。「精神的回復力」ともよばれます。
絵本の例はこちら。『くいしんぼうさぎ』です。
くいしんぼうなうさぎさんは、たくさんごはんを食べました。すると、からだが重くなって、ずんずん地面にしずみ、とうとう地球の反対側へ……。おうちへ帰りたいうさぎさんは泣き出しますが、すぐに気持ちを立て直し「どうやって、かえろうかしら?」と考えます。うさぎさんは、どんな方法を思いつくでしょうか? 無事におうちにかえれるでしょうか?
「レジリエンス」は、困難な状況に直面したときに、そのショックから回復し、適応していく力のことを指します。日本語では「回復力」、「弾力性」、「しなやかさ」などと訳されます。人生に困難はつきものであり、そこから回復し、適応するしなやかさが求められます。
子どもたちも日常生活の中で、物事に失敗したり、友達と喧嘩をしたり、悲しいことや悔しいことをたくさん経験すると思います。失敗や困難を避けることよりも、そこから立ち直っていく経験がレジリエンスを身につける上では重要です。その際に、唯一の正しい立ち直りの方法があるわけではなく、強みを生かして自分らしく前に進むことが大切だと思います。『くいしんぼうさぎ』では、くいしんぼうのうさぎさんらしいレジリエンスが発揮されます。ユーモアあふれる物語を親子で楽しんでください。
セルフコントロール \グッとがまん/
(野澤)「セルフコントロール」とは、大切な目標のために目先のやりたいことを一旦がまんしたり、自分の気もちをコントロールしたりする力のことです。
このテーマがよく描かれているのは『かうかうからす』。
主人公のげんたは買い物に行くと、何でも「買う買う〜!」としつこくおねだりをします。すると、偶然会った隣のおばちゃんが言いました。「買う買うばっかり言ってると、かうかうからすになっちゃうわよ」と。げんたがふと鏡を見ると、そこには「からす」の姿が……。近所のおばちゃんが怪しく、優しく、げんたを見守る、親子で読みたい一冊です。
お店でたくさんの魅力的なものを見ると、ついあれもこれも欲しくなってしまいます。それは大人にもある、ごく当たり前の欲求です。でも、がまんしたり、約束を守ることも大事なこと。
まさに葛藤しながら、自分の欲求をコントロールすることを学んでいる最中の、幼児期の子どもたちは、げんたの気持ちに共感を覚えるのではないかと思います。ぜひ、ほしい気持ちや、それをがまんすることについて、この絵本を通してお子さんと一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
共感性 \思いやりの心/
(佐藤)「共感性」とは、他者の気もちを、その人の立場になって理解する心のはたらきです。困っている人を助けてあげようとしたりする思いやりにつながります。
ここでご紹介する絵本は『だいじょうぶじゃない』。
1年生になったばかりのぼく。夏休みに山でひとりぐらしをするおばあちゃんのもとに行きます。
おばあちゃんは畑で自分が食べる分だけの野菜を作り暮らしています。
ぼくはおばあちゃんのことが大好き。でも、おばあちゃんの畑には毎日のようにサルがやってきて……。山にひとりで暮らすおばあちゃんは、地域の人々の知恵で、サルとたたかっているのです。
サルと向き合うかっこいいおばあちゃんの姿から、ぼくは「人と野生とのつきあいかた」を教わります。おばあちゃんを想うやさしさが現代的なテーマのもとに綴られた絵本。
困っているおばあちゃんを助けたくて居ても立っても居られないという「ぼく」の気持ちがひしひしと伝わってくる絵本です。経験を通じて他者の立場を理解することの大切さや、他者の苦境を私のことのように感じ取るジリジリとした共感、その共感が他者を思いやる行動に繋がっていくこと…私たちが生まれながらに持つ共感性について、様々なことを考えるきっかけになる一冊です。サルの立場になって読んでみても面白いと思います。
**********
東大Cedepの先生方、解説をありがとうございました。
この記事を読んでいただくことで、少しでも絵本の魅力を再発見していただき、さらに絵本選びや読み聞かせの参考になれば幸いです。
「非認知能力フェア」では、そのほかの6つの能力についても、その解説とおすすめ絵本をご紹介しています。詳細は以下のサイトでもご覧いただけますので、よろしければぜひ、ご覧ください!