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[6]損益計算書分析で最も重要なこと

前回は、「予測が大事だ」という主張は既に言い古されており結局は予測に繋がる「分析」に回帰する事、その方法論において「単位を単位で割ると、単位当りの単位量がわかる」事についても触れました。

今回から予測に繋がる「分析」について、更に具体的に見ていきます。この文脈に沿えば、財務分析で重要なのが、比率の算出や知っている勘定科目・財務指標の多さで無い事が容易にご想像頂ける中、本欄では、初めに個々の財務諸表の中で、損益計算書分析に着目します。

損益計算書分析で最も重要なことは、このコラムで触れてきた内容に沿うと、売上高から償却前利益(EBITDA)までを「モデル」にすることです。よく「コロナ禍でA社の利益は~円減少する見込み」といった表現に出会いますが、これは対象先の「モデル」が存在して初めて可能になる訳です。

損益計算書の「モデル」構築で大事なのは、3つの「分ける」プラス1です。具体的には以下の各々です。

『数量と単価』に分ける

「金額 = 数量 × 単価」の黄金式については既に語られて久しい訳ですが、予測に繋がる財務分析への初期ステップとして、売上高の下に「販売数量の行をエクセルで設ける」意義については触れて触れすぎる事がありません。

売上高を販売数量で割れば販売単価が自ずと出る訳で(単位を単位で割ると…の話です)、販売数量に関する情報を初期段階で得るのは、売上高の合理的予測だけでなく、後述のとおり「変動費」のそれにも役立ちます。

『固定費と変動費』に分ける

EBITDAに至るまでの費用や損失を「固変分解」する。「固定費」は(労務費を含む)人件費と経費に二分されますし(EBITDAは償却<前>利益ですからここでは償却費が除外されます)、「変動費」は後述のとおり売上高でなく販売数量連動である点に注意します。

人件費の把握に越した事は無い一方で、叶わない場合は固定費を従業員数で割れば「1人当り労務人件費・経費」が自ずと出る訳で(これも単位を単位で割ると…の話です)、これが固定費の合理的予測に役立ちます。

材料費などの変動費は、素直に考えれば解るのですが販売単価が下がっても下がりません。売上<高>連動では無いのです。従って「変動費 = 販売数量 × 単位費用(単位を…、もう繰り返しません)の構造です。
(変動費の定義として「(数量面への言及なしに)売上高連動」と解釈され得る書籍もあり要注意です。また、ご承知のとおり、損益計算書の「原価・費用類」は、生産面より販売面に対応する点から、変動費は生産数量よりも販売数量で割る方が論理的です)

『事業部門(セグメント)』に分ける

公表資料に沿っても良いですし、先述した2つの「分ける」によって目鼻が付いた特徴に沿うのも良いでしょう。大事なのは多く分け過ぎない事です。5つ以上のセグメント分類は、予測を過度に煩雑化します。

プラス1は『税金』

繰越欠損金はもとより、税制面の影響が損益予測に無視できないのは容易に想像つくでしょう。某大手通信グループの例からもお解りのとおり、税引前利益に法定実効税率を乗じ控除しただけの当期利益の予測は危険です。

とは言え、実務上の経験を踏まえれば、一個人が国内外の税務に十分詳しくなる事は「無いものねだり」なのが実情です。税理士の先生に教えを請う事を含め、ここは「税金を大事にする」という自省心が必要でしょう

ご想像のとおり、無駄なく情報収集したいのならば、狙いを「3プラス1」と関係の強いものに定めれば良いのです。例えば「市場規模(金額)」はそれ単独でなく、数量・単価の各要因に分解される事で初めて活きます。

往々にして、市場規模にシェアをそのまま乗じて予測売上高を算出する例が見られます。この手法は一見「知識的」と言われそうですが、シェアが「原因でなく結果」である中、冷静に「その予測売上高が妥当な理由」を紐解くと、説明が苦しくなり、他のロジックが自然に出てくるのではないでしょうか。
得た情報が「3プラス1」にどう繋がるのかを、常に意識すると良いでしょう。

財務分析を学ぶ際、現状の教材について「重要なこと」が多数かつ並列的に書かれている印象を持つ方もいらっしゃると思います。「最も重要なこと」を一つだけ、ご自身で腹落ちすると、ご想像のとおりその習熟度は加速度的に高まります。
たとえ初級者とご自身で位置付けて財務分析を学ぶ方々でも、本欄で触れた「全体像」を最初に踏まえた上で個々の論点を押さえるのとそうでないのとが、大きな違いを齎すのは既にご認識のとおりです。「本当の財務分析」はこういう所に関係する気がします。

追記:

この「予測に繋がる財務分析」は、分析本来の目標であるアクションプランの提示にも無駄なく繋がる中、格言として『全ての道は収支予想に通ず』と言われます。この文脈に沿えば、例えば主要勘定科目の売上高比率から業種や個社を当てる内容は、財務分析の「ゴールでなくプロセスである」という位置づけになるのでしょう。

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