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【短編小説】承認欲求警察

「それって承認欲求ですよね?」
 突然飛んできたリプライにB子は驚いた。先ほど完成した絵をTwitterにアップロードしたところだった。××ちゃん描いてみました! というツイートの後ろにはキャラクターや作品名の他、「絵描きさんとつながりたい」「かわいいと思ったらRT」「神絵師になりたい」「こんな絵にいいねやリツイートがくるとは思わないけどもしも(中略)RTしてくれたら嬉しい」などというハッシュタグがこれでもかと盛られていた。
「違います。私の絵を見たい人向けに検索しやすくしているだけです」
「でもそれは結局、『私の絵を見てほしい』ってことですよね」
「まぁ、確かにそうかもしれないです」
「それを承認欲求というんです。あなたを逮捕します」
「えっ」
 玄関のチャイムが鳴った。

「それって承認欲求ですよね?」
 突然飛んできたリプライにO子は驚いた。「どうして私の絵にいいねが来ないんだろう」という愚痴をツイートしたところだった。O子は最近二次創作を始めたばかりの絵描きで、お世辞にも絵が上手いとは言えず、漫画に関してもネタが特別面白いというわけではなかった。
「違います。私の絵はもっとすごいんです。どこかに私の絵を好きだなって言ってくれる人がいるはずなんです」
「でもそれは結局、『私の絵を見てほしい』ってことですよね」
「まぁ、確かにそうかもしれないです」
「それを承認欲求というんです。あなたを逮捕します」
「えっ」
 玄関のチャイムが鳴った。

「それって承認欲求ですよね?」
 突然飛んできたリプライにK子は驚いた。午後九時になったのを見計らって、昨日の午後五時一分にアップロードした絵を引用RTしたのだ。
「違います。昨日私の絵を見れなかった人向けにRTをしたんです」
 K子は数日前に流れてきたRTを思い出していた。絵師様は自分の絵をどんどん宣伝してほしい、という一文から始まるそれは、再掲引用RTによって確認しそびれた絵を見ることができて助かるという感謝を示したツイートだった。K子がRTした時点でそのツイートはリツイート数が一万に達しており、多数の人々が共感、もしくは反感を覚えたことが伺える。
 先ほど送ったリプライに返事が来た。K子は早速通知欄を確認した。
「でもそれは結局『昨日私の絵を見れなかった人に私の絵を見てほしい』ってことですね?」
「まぁ、確かにそうかもしれないです」
「それを承認欲求というんです。あなたを逮捕します」
「えっ」
 玄関のチャイムが鳴った。

 昔、こんなツイートをした創作者がいた。
「最近、二次創作において承認欲求は悪! みたいな風潮あるけど、承認欲求って多かれ少なかれみんな持ってるものだと思うんだよね。過剰にいいね来ないRTされないっていじけるのはどうかと思うけど、承認欲求そのものを悪とするのは間違ってるような気がする」
 彼(もしかしたら彼女かもしれない)はFF外からボコボコに叩かれて、ツイートを削除の上、鍵垢になってしまった。

「それって承認欲求ですよね?」
 突然飛んできたリプライにE子は驚いた。午後九時になり、フォロワーたちが続々とTLに浮上してきたのを見計らって絵をアップロードしたのだ。
「ち、違いますよ。どうして絵を上げただけで承認欲求がどうのこうのって話になるんですか」
「絵を上げたからですよ」
「会話になっていません」
 次のリプライが届くまで、わずかな間があった。
「あなたはどうして二次創作をするのですか?」
「××が好きだからです。頭に浮かんだネタを形にするのが楽しいんですよ」
「では、どうして絵をアップロードするんですか?」
「そんなの決まってるじゃないですか。たくさんの人に見てほしいからですよ。私の描いた××を素敵だなって思ってほしくて」
「それは結局『私の絵を見てほしい』ってことですね?」
「まぁ、確かにそうかもしれないです」
「それを承認欲求というんです。あなたを逮捕します」
「えっ」
 玄関のチャイムが鳴った。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)