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【短編小説】神絵師様が二次創作の素晴らしさを教えて下さった

 二次創作はみんな・・・、キラキラひかって美しいものだ。
 そういった風潮は神絵師様から生まれてきた。
 他の界隈では「私の絵は評価されないからクズゴミなんだ」と嘆く見苦しい絵描きや物書きがいるらしいが、この界隈ではそういったメンヘラはいない。神絵師様がありがたいお言葉をくれるから、みんな・・・は迷わずに済んでいる。
「自分の好きなものに胸を張って好きと言って、それを形にするだけでとても素晴らしくて幸せなことなのに、誰かからいいねやRTが来て、たまに『××さんの創作が大好きです』なんてコメントまで来ちゃって、とっても幸せな気持ちになれる。タイムラインを流れる二次創作は全部素敵。すべての創作物はとっても尊いもの。そこに巧拙なんて関係ない。うまくてもへたっぴでも大事な作品なの」
 だから、みんな・・・神絵師様に感謝をしている。
「神絵師様のお言葉のおかげで、私たちは二次創作を始めることができました」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 神絵師様は新たな創作者たちにほほ笑んだ。
「いえいえ、私の力なんて大したものではありませんよ。皆さんの『好き』を形にしたのは他でもない皆さんなのですから」
「これから、もっといろいろな人に絵を見てもらえるよう頑張ります」
「私は毎日模写を頑張ります。もちろん模写をアップロードするようなことはしません」
「私も模写を頑張ります」
「私も頑張ります。たくさんの人たちに絵を見てもらいたいです」
「神絵師様が教えてくれた二次創作を全力で楽しみます」
 新たな創作者たちの作品にはいいねがついている様子はない。神絵師様はほほ笑んで、ありがたいお言葉を授けた。
「自分の好きを詰めていけば、きっと誰かに見てもらえますよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 そして、神絵師様は新作のイラストを投げた。
 みんな・・・はパッと顔を明るくさせて、神絵師様にいいねを投げた。
 みんな・・・が口々にお礼を言う。 しかし、その中で一人だけ神絵師様にいいねを投げない人がいた。
 みんな・・・が一斉に、その人にリプライを送る。
「神絵師様の絵ですよ? いいねをしないのですか」
 返事が来る。
「神絵師様は私の絵をいいねしてくれないので……」
 界隈の空気が変貌する。穏やかな、しかしどこかあまりにも潔癖な雰囲気が一斉に威圧感を解き放つ。神絵師様はそんな界隈を眺めつつ、心の中で独りごちた。 

(ええ、ごめんなさい。私はあなたたちの作品にいいねを投げたことがありません。初心者丸出しの下手な絵だからではなく、単純に魅力がないからです)

「何? 神絵師様からのいいね返しを期待していいねをしてたってわけ!?」
「おこがましい! 承認欲求モンスターじゃん」
「あなたが如何に神絵師様の言うことを聞いていないかが今のリプライでよくわかりました。あなたのような人がいるから二次創作界隈では常に馬鹿げた争いが絶えないのですよ。自覚してください」

(でも別に問題はありません。なぜなら私はあなたたちを二次創作の沼に突き落とすのが仕事であって、落ちた先で泳ぎを教える義理はないからです。だからあなたたちが上手く泳げなくても、可哀想なことに溺死しそうになっていたとしても知りません)

 袋叩きにされたその人は、ひとつのツイートを投げた。
「でも、皆さんはそうじゃないと言い切れますか? 神絵師様ではなくて、私たちがお互いに作品を見たときに、『このひとはいいねを返してくれるから』という理由でいいねをしたことがないと言い切れますか?」 

(あなたたちが上手く泳げなくても他のうまく泳げるひとたちで創作の世界は回りますし、私にとってあなたたちの絵は無価値なものです。まぁ、私にとって、という話ですので世界のどこかにはおそらく・・・・あなた方の作品を好む人もいるでしょう)

「言い切れます」
「言い切れます」
「言い切れます」
「言い切れます」
「言い切れます」
 みんな・・・が同じ言葉を返す。しかしその人はひるまなかった。
「本当ですか? 誰かを下に見たことはないんですか?」

(そもそも私は、他の人を突き落とすのに忙しいので……)

 神絵師は、作品にいいねを押した。「神絵師からいいねをもらったことがない」とツイートした人の作品に。
 みんな・・・が殺気立つ。

(あまり余計な仕事はしたくないんですよ)

「いいね乞食」「承認欲求モンスター」「お前みたいなのがいるからインターネットはクソ」「なにかを勧めてくれた人に対して自分が上手くいかなかったからってその後始末まで要求するクレーマー」「お前二次創作向いてないよ」「よかったじゃん! 神絵師様がいいねくれたよ! 喜べよ!」「神絵師様がいいねしてくれないからいいねしない、ってイヤイヤするクソガキ見てる気分」「ほら神絵師様のいいねだぞ、とっとといいね返せよ××」「こういうのが神絵師様の精神を傷つけるんだろうなぁ。×ねばいいのに」「私は神絵師様からいいね来ても来なくても神絵師様の絵にいいねするし、他のみんな・・・の絵も素敵だなっておもうからいいねしてるからお前と一緒にしないでほしい。勝手に仲間扱いしないでくれる?」



 今日も界隈は平和だ。みんな・・・が健全に二次創作を楽しんでいる。神絵師様は今日も「二次創作はみんな・・・、キラキラひかって美しいもの」と言って、みんな・・・を正しく導いている。
 あの承認欲求モンスターはいつのまにかいなくなっていたので、みんな・・・はとても安心していた。神絵師様も変わらずみんな・・・に向けて作品を上げてくださっている。みんな・・・はいいねをする。神絵師様からは特に何もないけれど、みんな・・・に二次創作の楽しさを教えて下さっただけでおつりがくる。十分すぎる幸福だ。それが分からない連中はみんな・・・死んでしまえばいいのだ。
「神絵師様のお言葉のおかげで、私たちは二次創作を始めることができました」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 神絵師様は新たな創作者たちにほほ笑んだ。
「いえいえ、私の力なんて大したものではありませんよ。皆さんの『好き』を形にしたのは他でもない皆さんなのですから」
 今日も、神絵師様のおかげで二次創作を始めることができた人たちが、神絵師様に感謝を述べている。
 みんな・・・神絵師様に感謝をしている。
 誰一人の例外もなく、みんな・・・が。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)