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ソムニウム~夢~

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夢をモチーフにした詩と短編小説です。
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2022年4月の記事一覧

ソムニウム(85)リトリート

ソムニウム(85)リトリート

救急病院の入り口に 車を横づけして降りる
どうしましたか、と女性医師
デイジーが死ぬ
死んでしまう
手首を切って 首をつって
屋上から飛び降り 電車に飛び込み 
脳腫瘍で 心筋梗塞で 肺癌で
感電事故で 感染症で アナフィラキシーショックで
通り魔に刺されて ライフルで撃たれて
毒ガスをまかれて 白燐弾にやられて
凍えて 溺れて 火傷で死にそう
殺さないで 死なさないで
助けてください 命をとどめ

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ソムニウム(84)希望の玉

ソムニウム(84)希望の玉

食糧難になりつつある
スーパーは暗くて品物も少ない
米袋に囲まれた部屋の中にいる
いつ備えたのか分からない
米を研ぐと水に溶けて消える
消えてない、ここにある
半透明な男が横で言い
排水口のゴミ受けを外して見せる
何もない 研ぎ直す
また消える
農家さんに電話する
無くなるどころか余ってる
価格がどんどん下がってく
これじゃ来年作れない
苦い声を聴きながら
ロスタイムを生きていると知る
ぱぁん、

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ソムニウム(83)春の熊

ソムニウム(83)春の熊

夜勤の仕事の休憩時間
同僚と繁華街へ行く
人生相談の看板で外壁がおおわれた
黄色いビルの中に入る
エレベーターが檻のよう
同僚はいなくなり
メキシコ人の女と双子の少年が乗っている
同じ空気を吸っちゃだめだ
そう思って息を止める
Serían un buen cebo.
メキシコ人の女が笑う
エレベーターのドアが開くのに合わせて
体の肉が右から左へ消える
骨になって歩き出す
外は春の牧場で
双子の少

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ソムニウム(82)監督の眼球

ソムニウム(82)監督の眼球

激しい雨が降っている
雑居ビルの屋上で
映画監督と影が喧嘩をしてる
ハンティングナイフを監督が振り上げ
影の頭を上から突き刺す
刃が顎まで貫通する
二人の体が入れ替わり
ぎゃああと監督が悲鳴をあげる
ずぼり、
と影がナイフを引き抜き
監督の鼻と左目の周りを
ぐるりとえぐって切り落とし
それから顔の右半分を
顎に向かってざっくり削ぐ
監督の顔は雨に流れて
雨どいの中で詰まってしまう
目玉が外れ 一階

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ソムニウム(81)シャチ

ソムニウム(81)シャチ

海をひとりで泳いでる
すぐ横の海中に
大きな瞳が現れる
歯が 口が 顔が現れ
波を持ち上げ 水面を割る
それは大きなシャチの頭で
イルカのようにじゃれついてくる
遊びながらいっしょに泳いでいると
口の中から木が生えてくる
みるみるうちに大木になり
壁のように視界を覆う
抱きついてみる
脈打っている
深い森の中にいる

(終わり)

ソムニウム(80)違法建築

ソムニウム(80)違法建築

瓦礫を積み上げて作られた
違法建築の塔がある
そこにいるのは男たちばかりで
あとからあとから 出入りが激しい
階段はなく 外壁を登る
錆びた取手を頼りに上がる
何度もへし折れ 落ちそうになる
何人も 何人も 落ちていく
必死に頂上へよじ登る

屋上のペントハウスから出てきた男が
何がほしい、と訊いてくる
分からない 忘れてる
ここへ何しにきたんだろう
ペントハウスの周囲には
大量のズボンが脱ぎ捨て

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ソムニウム(79)ロードレーサー

ソムニウム(79)ロードレーサー

占星術家の家へ行く
金属の粉を吐きながら喋る男を紹介される
一緒に駅まで行くけれど 電車には乗らずに俺だけ戻る
面倒くさい奴だったから君に押しつけた、
と占星術家に言われ
酷いな、
と思いながら非常階段を駐輪場へ降りる
自転車がメチャメチャに壊されて
植え込みに投げ捨てられている
私が壊した、
と占星術家が言い
彼のお下がりの自転車をくれる
俺は乗らずに肩にかついで
今書けなくなってます、
と言う

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