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生意気小娘の参戦🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第4話

🇰🇭タタ

レナが音楽のレッスンをする傍ら、ケンはカンボジアの若者たちに「体力トレーニング」を始めました。

なぜかというと、カンボジアの若者たち、体力が無い子が多かったのです。

音楽と同様、学校でも体育の授業は無いし(あるとしても、軽い体操くらいだったかな)、何しろ“歩く”ことが少ない。

日本だと、都会っ子であれば、駅までとかスーパーまでとか会社までとか、けっこう歩く機会多いですよね。(ちなみにケンは東京育ち、レナは神奈川の横浜育ち、ばっちり都会っ子)
それに、体育の授業では否が応でも持久走マラソンをやらされ、プールもやらされ、バスケやらサッカーやら色んな球技もやらされ、運動会もある。

その経験が有るのと無いのでは、そもそもの基礎体力に大きな差が出ることがわかったケン。

スーパースターは、歌って踊る!
体力なくっちゃ始まらない!

「よーし!お前ら!まずは筋トレからだ!!」

ケンは日本ではミニバスケットのコーチをやっていました。
そんでもって昭和生まれ。
がっつりカミナリ親父的なトレーニングになっちゃったわ。

生まれて初めて、腹筋や腕立て伏せをする若者たち。
おーっと、一度も起き上がれないぞ!!

ちょっと昔に流行ったビリーズ・ブートキャンプにも挑戦。
あらら、みんな半泣きでモニターの中のビリーに向かって「家に帰ってくれ」と叫んでいるわ!

最終的には事務所の周りをぐるっと走るランニングにも挑戦。
10代後半の若者たち、運動音痴な30代のレナにも負けているわ!

翌日。

スーパースターになりたい若者たちの数が、めちゃくちゃ減りました。
数名の子たちが曇った顔で、ヨロヨロと事務所にやって来たのに加え、親御さんがご来所。

「昨日、ウチの娘がここに来たでしょ。ウチの娘、変な病気になったのよ!身体じゅうが痛いと言って寝込んでるわ!」

そう、日本人の皆さん、お分かりですよね。
その身体じゅうが痛む病名とは・・・筋・肉・痛!

ミッキーが、身体が痛むと言いながらもレッスンに来た数名のスーパースター候補生と、変な病気にかかったと焦る親御さんに、「筋肉痛」について説明してくれましたが、それでも日に日に、スーパースターになりたい若者の数は減っていくのでした。

そんな中で、毎日、事務所にやって来る女の子がいました。
彼女の名前は、タタ
当時14歳、たまたま事務所の近所に住んでいた女の子です。
タタは数人の友達と連んで事務所にやってきては、音楽・体力トレーニングを受けていました。

ところで、日本の方はカンボジアっていう国に対して、こんなイメージを持っている人もいらっしゃるんじゃないかしら。

「貧しい暮らしながらも、豊かな心を持つ人びとが住んでいる」

それ、合ってます。
実際、ケンとレナも、たくさんの優しいカンボジア人の方々に助けられて生活していました。
例えば、ケンがバイク運転中にガソリンが無くなってしまって、給油できる場所が見つからなくて、バイクを押してウロウロしていると、カンボジア人の女性が
「はい」
とペットボトルに入ったガソリンをくれたり。(カンボジアの小道では、ガソリンはペットボトルに入れられて、販売されてまーす)
お金を渡そうとすると「要らないわ」と颯爽と去って行ってしまいました。

はたまた、大雨で道が冠水し、レナが木の枝につかまったまま動けなくなっていると、
「 僕のバイクの後ろに乗っていいよ」
と見知らぬ兄ちゃんが助けてくれたことも。家の前まで、見知らぬおばさんを運んでくれたのです。お金も要らないと、そう言って。

そして、ケンやレナはカンボジアで暮らすうち、そんな優しさと紙一重なもう一つの面も垣間見ることがありました。

ケンやレナがカンボジアに住み始めてしばらくした頃に感じたのは、カンボジア人がニコニコ笑顔でケンやレナのような外国人に接してくれる優しさと共に、「優しく接したのだから、ちょっとお金ちょうだいよ。あなたたち、お金持ちの国から来たんでしょ」という態度でした。

観光地であるアンコールワットやナイトマーケット、ケンやレナがボランティアに行ってみた小学校でも
「1ドル、1ドル」
と子どもたちが寄って来たりしたものです。

ケンが芸能プロダクションを始めるまでに友達として付き合っていたカンボジア人男性なんかは
「お母さんが病気だ」
と嘘をつき、ケンから契約書つきでお金を借りて、結局お金は返してくれませんでした。
「だって、“どうしてもお金を返せない時であっても返さなくてはならない”って、契約書に書いてないもん!」
って言われちゃいました。

ケンは芸能プロダクションを始める前に、カンボジアの孤児院にいる子どもたちをと交流をもってみたりもしたけど、その孤児院のカンボジア人オーナーは、寄付をくれる観光客のお金を自分の懐に入れていました。
孤児院は貧乏くさいままなのに、オーナーと奥さん、彼らの子どもたちの持ち物だけは、なんだかリッチになっていくことを不審に思ったケン。
ケンがオーナーを問い詰めると、こんな答えが返って来ました。

「君も、観光客たちも、この孤児院にお金を寄付して気持ち良かっただろう。だったら良いじゃないか。」

そんな事もあって、ケンとレナは、ニコニコ笑顔で接してくるカンボジア人に対して、ちょっとした警戒心を持ってしまうようになっていたのです。

ケンの事務所にやって来る「スターになりたい」若者たちも、ニコニコ笑顔でケンやレナに接してくる子が多かったのですが・・・

タタは違いました。
タタは最初っから、生意気でした!

「ねえ、事務所に置いてあるギターやピアノの数を増やしてよ。私たちがやりたい時に、他の子が使ってると出来ないじゃない。」

はぁ!?
レナ、ブチギレる。
(レナって陰気で自信ない顔のくせに、けっこう怒りっぽい。嫌な性格よ。)

「あのさ、ギターやらピアノやら買うのには、お金かかるんですけど。そのお金、どっから出すわけ!?」

「なぁんだ、買えないのか。お金あるわけじゃないんだ。」

なんっっっって生意気な小娘なのかしら!!

タタの一味は日本でいう「塾」的なものに通っていて、英語が話せます。
彼女たちは、自分たちが英語を話せることを鼻にかけて、他のレッスン参加者たちを見下すような態度さえもありました。スタジオの掃除を他の子たちにやらせたりね。

ついでに、レナのこともバカにしていました。レナの英語が下手っぴだったから。
レナが下手くそな英語で音楽のレッスンをしている途中にクスクス笑ったりして、レナは怒り心頭よ。

もう一回言うけどレナって性格悪いのね、陰気だからストレートには怒らず、みんなの前でネチネチとタタの一味を攻撃しました。

「みんなさぁ・・・“ウサギとカメ”って知ってる?
ウサギとカメは、ヨーイドン!と、かけっこをしました。
多分、長距離走かなー。
で、脚の速いウサギは大幅にカメをリード、ウサギは調子に乗って途中で休憩してたらコツコツ頑張るカメに抜かされて、最後はカメが勝つっていう話ね。
最近、みんなの様子を見てるとねぇ・・・いるよねぇ、ウサギが。
調子に乗って、あぐらかいてるウサギが最後はどうなるのか・・・見ものだわ。
はい、じゃあレッスン始めまーす。」

タタの一味は賢い子たちです。レナの嫌味が自分たちに向けられていることをすぐに察しました。曇った顔をしています。

さらに、掃除を人にやらせてるタタの一味を目撃したケンは、レナと違って単刀直入な性格。
人に嫌わられたり、批判されたりするのが怖くない性格だから、平気で何でも言えちゃうのよ。
ケンは、タタの一味に対して特大のカミナリを落としました。

「お前ら、英語ができる自分が凄いと思ってるかもしれないけどな、大間違いだからな!
確かに、外国語ができるということは、世界のより多くの人と話せる便利なツールかもしれない。人生の幅が広がるかもしれない。でも、あくまで“ツール”なんだからな。
外国語が話せなくても、一生懸命頑張るヤツにはかなわねぇぞ。
カンボジアの道端で、英語が話せなくても、コツコツとバイクの修理してくれるおじさんがいるだろ。
電気の修理をしてくれるボロボロのサンダル履いた兄ちゃんがいるだろ。
オレのカンボジア生活を救ってくれてるのは、そういう人たちだ。
スーパースターってのは、そういう頑張る人たちを照らして元気を与える存在なんだ。
そういう人たちをバカにするようなヤツを、俺はスーパースターなんかにしねぇからな!」

カミナリが落ちた翌日。
タタの一味は、いなくなりました。

ただ一人、タタを除いて。

タタだけは、一緒に連んでいた友達がケンの芸能事務所に来るのを止めても、スーパースターになるトレーニングを続けることを決めたのです。

この小さくて、賢くて、お転婆で、勇敢で、素直で可愛い女の子は、ケンとレナにとってかけがえのない存在になるのですが、それはもう少し先のお話です。


タタ


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