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ゲーテの大作『ファウスト』 - 努め励む者の冒険

今回は、ドイツの大詩人ゲーテ(1749 - 1832)が残した最大の作品『ファウスト』のあらすじと冒頭、ラストを紹介します。

ファウストの話は、中世ドイツに遡る伝説です。ファウスト博士は悪魔のメフィストフェレスと契約を結び、世界の暗い側面に入っていきます。

これを18世紀〜19世紀に戯曲風の詩作品として、新しい形で完成させたのがゲーテの『ファウスト』でした。

キリスト教の神様から、ドイツの街角、古代ギリシアの英雄たちまで勢揃いする壮大な物語です。

冒頭には、「天上の序曲」が置かれ、そこで「主」(神様)と悪魔のメフィストフェレスが賭けをします。

主は、野心に燃える博士ファウストの話をメフィストフェレスにします。すると、

メフィストフェレス 何をお賭けですか。大旦那のお許しさえあれば、
あの男をそろりそろりと私の道へ引き入れてごらんにいれます。

 あれがこの地上に生きている間は、
お前が何をしようと差し支えない。
人間は精を出している限りは迷うものなのだ。

ここの「人間は精を…」のところは、「人間は努力をするかぎり迷うものだ。」とも訳されます。『ファウスト』のなかでも有名な台詞です。

この後、メフィストフェレスは地上にくだり、ファウストの魂を奪うための算段を始めます。

さて、ファウストは書斎でうめいて考え込んでいます。

あらゆる知識と魔術に手を出し、「博士」とまで呼ばれ、ときには神や自然を感じて崇高な気持ちに浸ることもあるファウスト。

しかし、広い世間へ出ていって、冒険をしないと、人生の醍醐味は掴めないのではないか、と悩んでいるのでした。

そこへメフィストフェレスが現れます。

ファウスト まあ、いい。君は一体何者なのだ。
メフィストフェレス 常に悪を欲し、常に善をなす、あの力の一部分です。

この不思議な応答のあと、ファウストはこの世にしか興味はない、と言い切ります。

ファウスト あの世のことは己(おれ)にはどうでもいい。

己の喜びが湧き出るのは、この世の、この大地からなのだ。
己の苦しみを照らすのは、この世の、この太陽なのだ。

そこで、メフィストフェレスはこの隙につけ入り、この世ではあなたの家来になって魔術を使うから、死んだら魂をもらう、と契約させます。

ファウスト 己がある刹那(せつな)に向かって、「とまれ、
お前はあまりにも美しい」といったら、
己はお前に存分に料理されていい。
己は喜んで滅んで行く。

これが『ファウスト』の有名な契約のシーンです。

野心家のファウストが、悪魔の魔法で好き放題やった挙げ句、「時よ止まれ、この瞬間はあまりにも美しい」という内容の言葉を吐いたら、魂を奪われる、という約束です。

このあと、ファウストとメフィストフェレスが連れ立っての冒険活劇がはじまります。

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