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【出る杭は打たれる⇒曲がった釘は抜かれる】(新釈ことわざ辞典)記事版

「出る杭は打たれる!」
たいして出てもいないし、打ってもいないのに、こう言って騒ぎ出す新入社員がいる。
(めんどくせえ奴!)
指導を放棄すると、
「『出過ぎた杭は打たれない』って本当ですね」
となんだかうれしそう。
(……そろそろ引き抜いて他部署に捨てにいくか)

自分を「出るくい」だと思っているのは本人だけで、実は「くぎ」程度に見られているってこと、ありますね。
しかも、仕事になかなかうまく嵌まらないので、打ち込もうとすると、途中で曲がったりする
それ以上打つと、さらにどんどん曲がっていく ── これはマズイ。
結局、釘抜きで引き抜くことになります。

この「曲がったくぎ」を抜くのは、よほど慎重に行わないと、禍根を残すことになります。

ここは、責任のある上司や、チームメイトであっても、下手なことを言うのは禁物です。
ましてや、善意であっても、
「お前、曲がってるぞ」
「ここ、直した方がいいよ」
などと絶対に言ってはいけない。
パワハラだ、イジメだ、と大騒ぎになることもあります。
騒ぎが大きくなると、「曲がったくぎ」君よりも、指導しようとした上司だったり、親切心で声をかけた同僚の方が先に引っこ抜かれてしまいます。

「曲がったくぎ」の処置は、釘抜きのプロに任せるべきです。人事部(課)はそのために存在しており、各種ノウハウを持っています。
どういう順序で釘を抜くのが最も安全か、心得ています。


友人がある会社の製造現場で管理職をしていた時、人事部に呼ばれました。

「あなたの部署のAさんが、派遣社員にセクハラをしているようです。被害者から訴えがありました」

A氏はその管理職よりも年長の技術者で、契約切りをちらつかせながら派遣会社の女子社員にしつこく迫っており、手紙まで送っている、とのことでした。
(スマホ普及以前の話です)

「こんなことが明るみに出ては、会社の信用にかかわります。そうなれば、── あなたの代わりはいくらでもいますからね

人事担当の若手にここまで言われ、その管理職は暗澹たる気持ちになったそうです。
(……派遣社員も、人事に駆け込まずとも、俺に直接言ってくれれば良かったのに……)

人事の担当者は、その管理職に、「曲がったくぎ」の抜き方を丁寧に教えました。
「いいですか? これ以外のことは絶対にやらない。余計なことも一切言わない。── いいですね?」

彼は、1週間後、ベテラン技術者を会議室に呼び、セクハラ案件について懸念を伝えました。
── A氏は否定しました。
そこで、A氏が送ったという手紙を見せました。
── A氏は自分は書いていない、と言い張りました。

「……おそらく、こうなります」
と人事が言ったとおりでした。

そこで、手書きメモを材料にあらかじめプロが判定した、手紙の「筆跡鑑定書」を突き付けました。
── A氏はがっくり肩を落としました。

管理職は、引き続きその場で、
本来ならば《懲戒免職》に相当する。そうなれば退職金は一切出ない。ただし、この場で退職届を出せば、《自己都合退職》扱いとする。
と告げ、有無を言わせず、用意した届出書に必要事項を書かせ、それを受理したそうです。

当人とその管理職以外、理由は誰にも知られることなく、A氏は「引っこ抜かれ」、職場を去りました。
なお、「筆跡鑑定」に必要だった1週間、さらなる被害を防ぐために、派遣女子社員には有給扱いで休みを取らせていました。

「……いや、後から思ったのはね、被害者が直接人事に駆け込んだのは、むしろ良かったかもしれないなってこと ── もし、俺に言って来てたら、人事に知らせずに自分の想像力と能力の範囲で対処しようとして、否定された上に、被害者には口封じとか、さらに大きなトラブルになってたかもしれない」


「出る杭は打たれる!」
(……え? ……じゃなくて曲がった釘だろ? そりゃ打たれるより抜かれるさ!)

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