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プレゼントとして買ったのに、結局自分たちで愛用している《猫絵の盃》(エッセイ)

友に贈るつもりで買ったのに、いつの間にか手元に置いてお気に入りとなってしまったものがある。

長女の結婚式&披露宴にも遠くニューハンプシャー州から駆け付けてきてくれた友人がいる。
このアメリカ人夫婦は子供がいないこともあり、猫を何匹も飼っている。
クリスマスカードでも、ちょっとした置物でも、猫がらみのデザインを贈ると、喜んでくれる。

10年ほど前のこと、デパートの催し物として、美術・工芸作家の作品を展示即売する催しがあった。
単なる通りがかりの野次馬として見て回るうち、相当値の張る絵画などもあり、
「これ、いいね」
「高すぎるけどね」
などと言葉を交わしつつ歩いた。

その中で、
「これ、彼らにあげたら喜ぶんじゃない?」
「そうだね。Sake(サーキ、と彼らは発音)は時々飲むようだし」

それは、猫の絵の描かれたさかづき2点だった。

ひとつは、《織部焼》で底に仔猫が1匹。
三毛、と呼んでもいいのかもしれないが、黒と金が縞状になり、内側のリング模様とリンクしている。

織部。内側に描かれたリング模様が仔猫の模様とリンクしている

もうひとつは、おそらく《黒織部》だろう、6匹の白猫が肩寄せ合って歌っているのか踊っているのか、にぎやかなデザイン。

暗い背景に白猫のパーティー!

おそらくはこの作家の陶芸作品がいくつか並んでいる中で気に入ったのがこの2つだったのだと思う。

たぶん、ひとつの値段が五千円をいくらか超えたぐらい、一万円には届いていなかったのではないか。
そんなに高い「陶器」を買ったことはなかったので、かなり迷ったが、デザインが気に入ったのと、これなら間違いなく友人夫婦に喜んでもらえるだろう、と清水の舞台(ちょっと大げさ?)から飛び降りて買ってしまった。

家に帰り、アメリカに送る前にちょっと《試運転》するか、と妻と一献傾けた。

「アンタ、どっちがいい?」
「仔猫の方かな」
「あ、良かった、私は白猫ファミリー」

左が私、右が妻
底側の「高台」部分。釉薬は左が緑色の(青)織部、右が黒織部。

そんなことを言いながら自宅で晩酌の酒器として《試運転》を繰り返すうちに、《本格運転》となり、日常の酒器となってしまった。

「……うーむ。今さらあげられなくなったな」
「……なんか、可愛がってたらなついてきちゃった、── というか」

で、今もこの猫さかづきで酒を吞む。

今夜も、恵那峡からの帰りみちで買った、多治見の銘酒「三千盛みちさかり」の《ひやおろし》で一杯。

刺身によく合う「三千盛みちさかり」(ひやおろし)

「……結局、ずっと自分たちで使ってるな」
「でも、良かったよ。アンタ、ケチだから、自分たち用だったら買わなかったでしょ。彼らにあげるつもりだったから、高くても買ったんじゃない。それで、結果的に気に入ってるんだから、買って良かった、自分たちのものにして良かった、あげなくて良かった ── ってことよ!」

「うーむ(……こいつはいつもいつも、《結果オーライ的》というか、《ご都合主義の勝利宣言》というか……)」

なお、長い年月の間に作家名は忘れてしまった。
〈織部〉*〈猫〉で画像検索しても類似のものは出てこない。

#買ってよかったもの

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