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高野洸 "mile" 仙台ライブレポ

高野洸に出会ったのは今年の8月だ。

当時、東京生活での疲労と、急きょ始まった介護とで疲れ果てていたわたしにとって、たまたま知った高野洸は、真っ暗な暗闇の中に差した一筋の光のようだった。

そして去る2023年11月5日、仙台GIGSで行われた高野洸のライブにうかがった。

10月に介護が終わり、その後片付けも一段落したわたしにとって、願ってもないタイミングであった。

そのライブがあまりに素晴らしかったので、備忘録として書き記しておきたい。

【注意】拡大解釈なところがあるのでご留意ください。




高野洸 "mile" 仙台公演の全体像

今回伺ったのは、彼のアーティスト活動5周年を記念するライブツアー
"高野洸 5th Anniversary Live Tour「mile」〜1st mile〜" の仙台公演だ。

その見どころは、大きく2つあったように思う。

この5年の集大成ともいえる「セットリスト」と、バンドによる生演奏を加えた「パフォーマンス」だ。


本編セットリスト

今回のセットリストについて、わたし個人の感想として「巡りゆく季節」と「色彩」が感じとれた。そして「」をする景色を見た。

まずアンコール前までのセットリストにふと感じたのは、日没に始まり、日没に終わるという時間の流れだ。順を追って振り返っていきたい。

冒頭は、"zOne" からスタート。夜に灯るネオンのような色彩、闇に映える照明のうつくしさ。心の内側、内側へと没頭してゆくこの曲に手を引かれ、別世界へいざなわれてゆくような幕開けだ。

それはこの公演の幕開けでもあり、ひとつの夜の始まりでもあり、楽曲とともに巡る旅の始まりでもあったように思う。

"zOne" の "O" が大文字なのは「丸」のイメージもあると高野洸自身が語っていたが、ライブで聴いてみると「トンネル」のような印象だった。"zOne" が終わるころには、全くの別世界へとトリップするような。

そして "ASAP" "tiny lady" と続くが、いずれもやっぱり個人的には夜のイメージなのである。夜の鮮やかなダンスフロアであったり、夜の街のドライブであったり。

"zOne" では没頭する内面が、"ASAP" では外世界への挑発が、そして "tiny lady" では「君」との時間が描かれる。こうした視点の移り変わりも楽しみのひとつだ。

そして闇は深まり、"In the shade" へ。心の中の深い闇が、深夜の暗がりのようでもあり、楽曲が見せてくれる景色はどんどんとその影を濃くしていく印象だった。

高野洸の楽曲には、「出会い」のすぐ近くにいつも「別れ」「追憶」「満ち足りなさ」があると感じる。綺麗事ばかりでない人間の「陰」の描き方が、高野洸の持ち味のひとつではないだろうか。そうした出会いと別れを繰り返してゆく様も、今回のセットリストのひとつの流れになっていたように思う。

そして "In the shade" 終盤の畳み掛けるラップの勢いそのままにハジけて魅せる "SECRET" である。これもまた、真っ暗で静かな暗闇とは対象的な、熱くきらびやかな、ひとつの夜の風景なのだと気づかされる。

次に待ち構えるのは "Vibe like lover" だ。まあこれ書いていてここは全く夜じゃないな、ランチだもんな、と気づいたので一回もろもろ忘れて欲しい。でもあの甘い歌声・艷やかなサウンドはやっぱり夜が深まる頃に聴きたいじゃないか…??(無理がある)あ、束の間の「夢」とすれば夜っぽk……(自重)ともあれ、体温にじれったくグラスを鳴らす氷のような、心地よいクールダウンであった。

続くは "Stay with me" だ。ここで謳われるのは、"Misty night crusing" であり、ひとつの別れ、ひとつの終わり、である。前曲 "Vibe like lover" で願った「少し未来の話」の終わりなのかもしれない。静かに、切なく、でもたしかに熱を帯びて、ひとつの季節の終わりが描かれる。

次に迎える "モノクロページ" は、「狭間」「夜明け」へと向かっていくイメージだ。

白と黒、色彩と無色、光と闇、昼と夜、笑顔と後悔、君と自分……そんな何重にも「狭間」を行ったり来たり、淡くもろくたゆたう様は、まさに夜とも朝ともつかない暁の刻を想起させないだろうか。

ちなみに、夜と朝の間を
「彼者誰時(かわたれどき)」
というらしい。遠くの人影が誰なのか見分けられないような時間帯、という意味だ。誰かの影を追う情景がぴったりではないか。

そして光が差し、色が宿り、体温が戻り、カラリと晴れわたる青空が見えてくるのが、次の "COLOR CLAPS" である。

ここで見つめるのは後悔の過去ではなく、まっさらなキャンパス、つまり未来なのである。"Stay with me" で別れと終わりを経て、"モノクロページ" で迷いさまよい、そして本曲でまた新たな朝を迎えるというような、そんな晴れやかな景色の移り変わりを感じずにはいられない。

景色が色づくのは、光がそこに当たるからなのだと気づかされる。

ここからのカラフルハッピーポジティブウキウキパートの眩しさは、まさに頭上にかがやく真夏の太陽のようだった。"Life is once" "Our Happiness" と続く。過去には目もくれず「とびきりの今を描い」て、「毎日絶好調」で、「明るい未来が見える」のだと信じたくなるほどの幸せっぷりである。

(※途中、カバー曲もあるが、ここではいったんご本人の楽曲で進めていきたい。)

さて、昇った太陽はいつまでも頭上にあるわけではなく、迎えるのはオレンジ色の夕暮れだ。アンコール前ラストは "Memory of Sunset" で締めくくられる。

「どの太陽より特別だった」君を想い、視点は過去へ。迷い漂う雲、寄せては返す波、終わった夏と新しい夏、時間の流れと、巡りゆく季節が謳われる。

「あの夏」に思いを馳せる切なさは、この夏の疲れを抱えながら冬を迎えんとする、まさに今の秋の風景にも重なるものがある。遠くを懐かしみながらも、視点がゆっくりと現在地に戻って来るような感覚を覚える。

そしてここまで、"ASAP" からカバー曲を含めて、ずっと「誰かの存在」が共にあった。その文脈でこの曲を聴くと、これまで出会った誰かとの記憶は抱いたまま別れを告げ、「ここじゃないどこか探して」ただ彷徨うように、歩き、歩き、日が暮れてゆく情景が浮かぶ。そうしてまた一人に戻っていくのである。

そんな夕暮れの次に浮かぶ景色は、やっぱり冒頭に見た夜の入り口、「見渡す限り唯一人」の "zOne" に繋がってゆくような気がしている。過去に折り合いをつけて視線を戻すのは今まさにこの瞬間、ゾーンに入るほどの没頭なのだと。

たくさんの出会いと別れ、季節・色彩を巡り、過去や誰かに思いを馳せて辿り着くのは、遠くのどこかや未来ではなく「現在地」なのかもしれない。

だがそれは、同じ場所でぐるぐる回る単なる繰り返しではなく、螺旋状に回りながら、ゆっくりと、でも確かに上昇していくような、そんなイメージなのだ。

なにせこのセットリストは、このツアー中に何度も繰り返しなぞられる。

だがきっとどの公演にも全く同じ空間・パフォーマンス・音色などなく、生パフォーマンスならではのその場限りの醍醐味や、変化・成長があるはずだ。バンドの生演奏なら尚更だ。

その繰り返しの中で、新たに出会い、培われ育まれ、また次へと向かってゆく螺旋状の時間の流れに、ついつい思いを馳せてしまうのだった。

巡りめく季節の中で、揺れながら迷いながら、時に孤独に、時に大切な人たちの力を借りて、時に慎重に、時にたくましく進んできたであろう姿を、あのセットリストに見た気がした。そして過去でも未来でもなく、「アーティスト・高野洸の現在地」を。


……と、いったんアンコール以前の全体像を見渡すと、わたし個人としてはそういうストーリー性を見いださずにはいられなかった。

夜が深まり、次第に明け、晴れわたってゆく様、そして時間が流れゆく様、と同時に、人間模様も、心情も、色彩も、季節もたずさえた巡りゆく刹那を、楽曲とパフォーマンスとともに受け取ったのだった。

これは高野洸の楽曲の中だけでなく、わたしたちの暮らし・それぞれが奮闘するフィールドにもどこか似た景色があるのではないだろうか。

ちょっとした小旅行を味わえるような、素晴らしいセットリストだったように思う。後から気づいたが、それはまさに "mile" というツアータイトルにふさわしく、すべてが腑に落ちた。

まあ、いずれもさすがに拡大解釈がすぎるだろう、わたし自身が一番そう思う。


始まりに向かうアンコール

さて。アンコールの話もさせてほしい。なんとたっぷり4曲。

アンコールはファースト・シングル "Can't keep it cool" でスタート。彼の始まりの歌である。2024年1月30日で、発売から5年を迎えることになる(おめでとう!)。この曲で始まるアンコール4曲は、彼の軌跡を凝縮したようなラインナップだったように思う。

2曲目は、"TOO GOOD" だ。ライバルでも仲間でもあろう誰かと比べて葛藤するこの曲は、役者としても活躍する彼の境遇をついつい重ねずにはいられない、奥行きを感じる曲だ。

時に高野洸は、「自分よりすごい人がいっぱいいる(ので、自分はそれほど)(意訳)」と話すが、この曲はまさにそういった他者へのリスペクトと謙遜、そしてプライドが滲む名曲だ。

次はボルテージがグンッとあがる "WARNING" だ。

"TOO GOOD" が誰かとの比較による焦燥であったのとは対照的に、"WARNING" は自分自身との対峙・奮起が全面に出る力強いナンバーだ。

"TOO GOOD" が、同年代の同業者と共にチームで動く役者としての側面を象徴するとしたら、"WARNING" は、一人でクリエイティブに勝負するソロアーティストの側面を象徴する楽曲ともいえるかもしれない。

ちなみに後から気づいたのだが、ここまでの、"Can't Keep it Cool", "TOO GOOD", "WARNING" の流れは、高野洸の1stライブツアー "ENTER" 冒頭と同じ並びである。まさに彼の活動のハイライトを追う配置だ。

そして、"Way-Oh!!" でフィナーレを飾る。

もうこれは、(あーだこーだ勝手に書いてきたが)全てを包み込むように「不器用なりに楽しんでいくぞ」という良い意味でのリラックス感と、ファンと一体になれる振り付けとで、ラストにピッタリの一曲だ。彼とそのファンを繋ぐ架け橋のような曲だった。みんな楽しそうだった(わたしも楽しかった)。

陰も陽も全てを包みこんで、明るい気持ちで前に進まんとするこの曲で締められたライブは、その全てをもって次の新たな季節を予感させる布石でもあった。


音に出会う生演奏とパフォーマンス

今回のライブ、特筆すべきはなんといってもバンド編成による生演奏・アレンジの数々である。

電子音のトラックが多い高野洸の楽曲をバンドでの演奏で再構築することで、全楽曲において数えきれない発見と再会があった。

その素晴らしかった点を、以下に箇条書きにて羅列する。

  • "zOne" "ASAP" この冒頭で、ビートにバスドラムが乗っかったときの重低音の立体感に恐れおののいた。電子音メインの楽曲たちに、まさかここまでがっつり生音が入ってくるとは予想しておらず、冒頭からテンションMAXに。まさに、ぶちあげ、である。

  • 全体を通して、ドラムの刻むリズムがめーちゃくちゃ心地よかった。細やかにスネアが加わるだけで、こんなに楽曲たちが華やかになるのかと。

  • "tiny lady" の低音、こんなに色気があったことに気づかせてくれたベースの音色ありがとう、ほんとありがとう。そしてギターの心地よさ……!この曲にこんなに大好きな音があったなんて、目から、いや耳からウロコだった。音源だけではまだまだ「聴こえていなかった」ということに気づいた。

    • 後日追記:あれから数日経ち、ライブを経て一番 "tiny lady" の解像度が上がったように感じる。聴こえてくる音の数が格段に増えた…!より好きになった曲のひとつだ。

  • ハートぶち抜かれた "SECRET" の生音映え。バンド演奏でここまでハネる楽曲だなんて、誰が予想できただろうか。あの躍動感、音圧、厚み、広がり、一瞬のブレイク、抜け感のある歌声、力強いダンス、全てに持ってかれた。何度も天を仰いだ。

  • 特筆すべき "Stay with me" 、わたしは原曲が狂おしいほど大好きなのだけど、それを毎秒、軽々と更新していた。高野洸の透き通るやわらかな歌声と、たゆたうように色っぽいバンドの演奏、流れるように軽やかに音を掴むダンスのステップ、脳内に浮かんだ景色を映し出したかのような見事なライティング、頭を抱えた。素晴らしかった。これぞchill…oh yeah…

  • "モノクロページ" の弾き語り…!ピアノだけで聴くこの曲は、歌声がまっすぐに届いて、言葉ひとつひとつを噛み締めながら聴き入った。途中バンドの演奏が加わって花開くようにパァッと音が広がった時間と、その前後のシンプルな演奏とのコントラストがまさに楽曲のイメージそのもので、音から色彩の移ろいを感じた。

  • "Life is once" この曲はやはり後ろで鳴るピアノの音が心地よい。軽やかで、スキップしたくなるような。こちらも生演奏で聴けてよかった…!

  • "Memory of Sunset" これはダンスがものすごく好きで「音が見える」ような感覚を体験した。楽曲のなかの、どの音色・ビートを掴むかで、浮き出て見えるものが変わって、二度おいしいというか、味変というか。ひとつの曲に、何度も出会い直せるのだと知った。そしてこの曲の歌声が切なくて大好きです。

  • "TOO GOOD" の入り、あのBPMを落としてくミックスに鳥肌。「来るぞ来るぞ…」感というか、じれったく期待値高める演出というか、ものすごく好きだった。

  • "WARNING" のギターのかっこよさに、ダウンでノるところでついつい飛び跳ねるほど高揚した。重低音もばっちばちにきいていて、歌声も力強くて、自分がこの曲をこんなにも好きだったのかと気づかされた。まさに再会の瞬間だった。ステージにずっと両手をかざしていた。


とにかく、歌声・ダンス・演奏・照明・演出・現地のファン、どれもがすばらしかった。

わたしは音源だけでも十分に楽曲に惚れ込んでいた気でいたけれど、こうしてひとつひとつの音を改めて演奏してもらうと、知っている曲なのに初対面のような驚きと感動の連続で。

トラックの新たな側面に出会ったし、それに溶け込む高野洸の歌声の良さも思い知ったし、ダンスが見せてくれる音の多さにも、ステージ全体で見せてくれる景色の豊かさにも感動した。

ライブ後、音源の解像度が爆上がりしたことは、帰り道に即実感している。

最高の音楽を浴びた夜だった。


高野洸の今を目撃して

"mile" 仙台公演に伺って感じたのは、
「高野洸の音楽が好きだ」ということ。
もうシンプルにこれだ。

冒頭にも書いたが、セットリストのストーリー性や、演出のこだわりや、制作側の意図について、わたしは思いを馳せこそすれ、本当の意味で「知る」ことなどきっとできない。自分の理解なぞ、どこまでいってもきっと誤解で、どこまでいっても自分だけの正解にすぎない。あちらとこちらの間にある淡い・余白を漂いながら、ここに書いてきたことは後付けの、味付け濃いめの、一個人の一解釈である。

だが間違いなく事実としてあったのは、「楽しい」というこの胸の高揚だった。

2階席の最後列、ステージに人影がかぶる視界で拝見しても尚、全身に降りそそぐような、骨の髄まで揺らすような音楽の情報量。もう、信じられないくらい楽しかったのだ。

多方面で活躍する高野洸。役者の仕事がどんどん忙しくなっていくのならそれはそれで喜ばしいし、幅広いご活躍を応援しているけれど、やっぱり高野洸の音楽を、ステージを、変化を、もっともっと活目していきたいと思ったのだった。

正直わたしは、高野洸に出会ったのが最近なので、「間に合わなかったもの」や「見逃してきたこと」の多さに袖を濡らすことが少なくない。

それでも5周年を迎えるこのタイミングで出会えたこと、辛かった時期にエネルギーをもらって立ち上がれたこと、今の日々に彼の音楽があること、そして今回の仙台公演で生パフォーマンスを目撃できたこと、やっぱりそれは出会うべくして出会ったタイミングだったのだろうとも思う。

そして年明けには新曲 "ex-Doll" の発売が控えている。

このライブの前後にはもっとたくさんの文脈があって、それらがすべて地続きでここに書ききれないほどの美しい景色が、鮮やかな心情が、高野洸の楽曲とともにあった。

実に芳醇な体験だった。そしてそれはグラデーションとなって今もまだ続いているし、これからも繋がってゆくのだと思う。

遠くから高野洸のご活躍を応援しながら、次なる新曲を楽しみに、わたしは自分の毎日をたゆまず生きてゆこうと思う。

ひとまず、高野洸の初めてのライブ参戦の記録として、この記事を残しておく。

楽しいライブを、たくさんの景色を、ありがとうございました!
5周年おめでとう!


高野洸 公式サイト
https://takano-akira.net/

Spotifyでまとめたセットリストをシェアしておく。


高野洸 "mile" 仙台公演SNSまとめ



この2ヶ月後にうかがった追加公演についてはこちら。


高野洸さんについての記事まとめは、こちら。


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